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「自己責任の裏側」

茶屋ひろし2015.02.02

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この冬は寒かったので、エアコンや電気ストーブを多用していたら、電気料金が跳ね上がりました。
先月が高かったので、今月もきっとそう、と届いた請求書の封を開けると、予想していた金額と一緒に、4月からの値上げのお知らせが入っていました。
10.23%の値上げってどういうことですか。消費税でさえ到達していない二桁を、そんなにあっさり、私が同意する間もなく・・。
理由は、「原子力プラントの再稼動の遅延による火力燃料費等の大幅な増加に」よるもので、今後は「原子力プラントの再稼動に全力を尽くして」行くそうです。


再稼動させないためなら値上げくらい・・と頭が混乱したところで、ウチの書店のスタッフを思い出しました。
フリーターの彼女は1人暮らしをしていますが、部屋に暖房器具がないらしく、カイロと布団で寒さを凌いでいるそうです。そのせいか、時々お腹を壊します。
「せめて、安くてもいいから、羽毛布団にするべきよ」と言ってみましたが、彼女にそんな余裕はなさそうです。買ってあげたらいいのか、よくわかりません。


大阪の最低賃金がいま838円で、彼女の時給は840円。もうひとつアルバイトをかけもちしているとはいえ、月12万ほど稼げたらいいほうで、それから年金や保険、住民税、光熱費、家賃を引いていくと、いったい幾ら残りますか、羽毛布団って何ですか、このボンボン茶屋め、と怒りをぶつけられそうです。


今、『最貧困女子』(鈴木大介、幻冬舎)という新書が売れています。同じ幻冬舎から出ている、『女性たちの貧困 新たな連鎖の衝撃』(NHK取材班)や、去年話題になった『失職女子』(大和彩、WAVE出版)などと一緒にコーナーをつくりながら、この電気料金の値上げで死人が出てもおかしくないわね、と思いました。


その横には、国内で12万部を突破したという、トマ・ピケティの『21世紀の資本』(みすず書房)と、その関連本を展開しています。分厚くて大きくて真っ白で、6000円近くする高額本ですが、ウチでも30冊以上売れています。
本文を読まないで新聞の書評ばかり読みましたが、おそらく、「アベノミクスが提案している、大企業が儲かればトリクルダウンで下々まで豊かになる、なんてことはありえないので、金持ち税を増やしたほうが、フェアに格差を縮小することができるよ」というようなことが書かれているらしい、と理解しました。


電気料金の値上げは、すべての利用者にまんべんなく、というあたりが、実は平等になっていない、ということかと思われます。


今回の人質事件で、また出たか、という「自己責任論」ですが、メディアから聞くまでもなく、私は身近に耳にします。


時々、夜中に電話をする女の子もフリーターです。
彼女は昼間に医療事務のアルバイトをしていて、それが終わったら近所のコンビニに駆けつけて、夕方から夜の10時過ぎまで働きます。一日13時間以上働いていることになります。工夫して休みを取っているようですが、休みのない週も珍しくないようです。
それだけ働いても、時給幾らの世界なので、けして余裕があるわけではないのは前述の彼女と同じです。というか、それだけ働かないとやっていけない、ということなのだと思います。


昼間の仕事場で、彼女は生活保護を受けている人によく出会います。彼女にしてみたら、生活保護を受けている人が、タバコを吸っていたり酒を飲んでいたりするのはおかしいことです、その憤りを聞くたびに、私はなんと答えていいのかわからなくなります。
それはバッシングとまではいかないけれど、彼女の事情を知っているだけに、「それぞれの事情があるんじゃないかしら」とは言いにくくなります。
きゅうっと、締めつけられる想いです。


今回の人質事件に関しても、やはり、「わざわざ危険なところへ行って、助けてくれ、と言うのはおかしいと思うわ」と、その「自己責任」を問うような発言が出ました。
そうよね、と同意することもできずに、うーん、と唸るしかない私です。
彼女は、風邪なんて引かないようにがんばる人です。もし風邪なんて引いてしまったら、そんな自分が許せなくなるような人です。


よく聞けば、ジャーナリストの後藤さんより、事業家の湯川さんのほうに非難の矛先はあるようですが、なおさら・・! と、無防備でいたい私は、自分に向けられているような気がして、胸を押さえます。


どういうふうに答えられるのか、とずっと考えていたら、木皿泉の「Q10」というドラマで、主人公の男子高校生が、学校の校庭で、授業中の校舎に向かって、学費を払えないクラスメイトと、アンドロイドの女の子といっしょに、「助けてください!」と、何度も叫ぶシーンを思い出しました。


彼女にとって、助けてほしいのは自分のことかもしれません。
けれど、内面化された「自己責任論」は、すぐにその声を封じるでしょう。
生活保護を受けている人たちや、遠い戦場にいる日本人に思いをはせて何になる。
オウム返しになった「自己責任論」は、すでに「その論」への最大の非難をはらんでいるように思います。

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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