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最後の最後まで恋はわたしを苦しめた・・、という歌ほどではありませんが、近年わたしを悩ませてきた扁桃腺を手術して取ることにしました。

手術前の一ヶ月間に一度でも腫れたら手術はできません、と言われました。
それは無理よ・・、と自信をなくしました。それほど頻繁に腫れを繰り返していました。ちょっと疲れが溜まっているときや、お酒を飲みすぎたあとに、すぐ腫れるようになっていて、そのたびに病院にいって抗生物質をもらい、しかも一回でおさまらず、そのまま何度か通うというふうに、お金も手間もよくかかっていました。

手術日を決めたものの、それまでのひと月で腫れてしまいました。それで抗生物質を服用しながらの入院になりました。担当の医師に手術は避けたほうがいいといわれました。理由は、術後に血が止まらなくなることがあるからだそうです。
そうはいわれても、仕切りなおしたところで腫れないまま手術に至れるかどうかもわからないし、十日前後の休みもそう簡単には取れないし、いいかげん解放されたいし、と若いイケメンの先生の顔をじっと見ていると、すっと言葉が出てきました。

「でも先生、それは稀なケースですよね」というと、イケメンは「まあ、そうですね」と苦笑しました。
「ほとんどの場合はうまくいくんですよね」と畳み掛けるとうなずきました。
「じゃあ、お願いします」と頭を下げました。きっと、これが賭博師の気分です。
「いつもより倍の時間がかかりましたよ」とさわやかな笑顔で嫌味を言われましたが、無事手術は終わり、傷口がふさがるまでのキリキリした痛みを抱える日々が始まりました。

病院は丸い建物の洒落たつくりで、四人部屋の出口付近にも関わらず、枕元には縦長の細い窓がついていて、遠くに大阪城が見えました。
ここぞとばかりに持ち込んだ本やマンガをあらかた読みつくしてしまい、ある日の午後、窓を開けて寝転んでいたら、真下の公園から反響したマイクの音が聞こえてきました。何を言っているのかが聞き取れなくて、のぞいてみたら、プラカードを持った人々が集まっていて、ひときわ目を引く弾幕に「SADL」の文字が見えました。あれは関西の若い子らやわ・・、とそれが安保法案反対集会だとわかりました。翌朝の新聞で、上野千鶴子さんも来られていたことを知って、のど痛いけど見に行けばよかった・・と少し後悔しました。戦争アカン、という連呼だけ聞き取れました。

時の首相は民意を反映した存在でもあるわけだから、安倍政権だけが狂っているわけではないということを、テレビの街頭インタビューでふいに知ります。
「なんで反対する人がいるのかまったく理解できない。早く法案を決めるべきだ」と答えていたおじさんがいました。隣にはそれを微笑んで聞いている(たぶん)奥さんの姿があって、あなたはアキエなのね・・、と思います。
すでに日本は脅威に晒されているから防衛しなければいけない、と言う人と、集団的自衛権を行使することで脅威に晒されていくことになる、と言う人の溝が埋まらないように見えます。

どちらが妄想で、どちらが現実か、という捉えかたの違いだと思いますが、私は人殺しの妄想に加担したくありません。「殺されないために殺すのもやむをえない」は妄想で、自分と人を殺さないために知恵を絞ることが現実であってほしい。最悪、離れて暮らす、とか・・。それに、快楽の殺人もあるようだし、そんなもんは、それも人間だからしょうがない、じゃなくて、させないように図るべきでしょう。それこそ妄想の世界にとどめておいて欲しい。

今の政権に反映されてないほうの意識が試されているときだと思います。
それでも扁桃腺が腫れていたころは、もし拉致監禁されて腫れても放っておかれたら息ができなくなって死んでしまう、と想像して怯えていました。
それは、数年前の喉がふさがるほど腫れた経験と子どもの頃からの妄想の延長のせいで、物心ついたときからアレルギー性鼻炎のためほとんど口で息をしていた私は、『サザエさん』みたく家にやってきた泥棒にガムテープで口をふさがれたら窒息死する、と本気で思っていました。大声を出さないと約束するからそれだけはやめてほしい、と上手く言える自信もありません。それよりそんなことをそんなときに聞いてくれる泥棒がいるとも思えませんでした。サザエさんちでは聞いてくれそうでしたが。

鼻炎が落ち着き、鼻で息をできるようになり扁桃腺がなくなった今では、これで思想犯として逮捕されてもテロリストに監禁されても呼吸はできる・・とどこかで安堵しながら、違う、違う、そんな状況がそもそもおかしい、と我に返ります。
自虐というより、ひどいほうの現実への防御反応かもしれません。
戦後70年間、他国との戦争で死ぬ人がいなかった、という現実や、福島の原発事故以来どの原発も動いていないのに電気は足りている、という現実もあるのに、ひどいほうの現実に足をすくわれて、むしろそちらを強化しはじめてしまうのはなぜなのか。戦争だ、再稼動だ、とこの期に及んで何を言っているのか。金が廻るからか、とも思いますが、そうだとしても、結果的にはそれが快楽を生むからからだ、という説を採ることにします。差別の発生源と同じです。

でないと、国会での安倍のニヤつく顔への説明がつきません。まったく腹立たしい。
ということを考えながら、休日に、見に行く映画はどちらにしようかと、「グローリー」(キング牧師のやつ)と「マッドマックス」(たぶんたくさん人が死ぬやつ)と、さんざん悩んだ末、後者へ。正しい妄想の使いかたか、それか仕事のストレスのせいです。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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