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「イエス、ピース」

茶屋ひろし2015.08.18

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前回に続いて、又吉直樹の『火花』の話題から入ります。帯には、160万部突破! とありますが、ウチの店では、200万部いくんじゃない? などとささやかれています。
これだけ売れると、普段本を読まない人や、本屋にあまり来ない人も来店します。
なぜわかるかというと、店頭に積み上げているのに「火花ありますか」と聞かれたり、「これの小さいばん(文庫)はありますか」と聞かれたりするからです。
冗談のようですが、「マタキチのハナビはどこですか」という問い合わせは、もはやスタンダードです。
店の前では、若い女の子が「又吉かっこいいー」とポスターを指さして通り過ぎていきます。
これを機に、この、普段本屋に来ない人たちを取り込んでいけないだろうか・・と思わざるを得ません。

本を読まないというか、買わない人たちにとっては、本屋は敷居が高いのかしら、と想像します。
本屋で働いて3年たって、店内にいると、なんとなくですが、声をかけたほうがいいお客さんがいることもわかってきました。
声をかけるとしたら、服屋の店員のように、です。
私自身が、本でも服でも自分のほしいものは自分で探すしその場所はだいたいわかるしほっといてほしい、と思い込むタイプなので初めのうちは見えていませんでしたが、探しているものはあるけど、それが「あの本だ」と特定されていない人は、なにかしらの助けを求めていることがあるようです。

お客さんのほうから声をかけてもらえたらもちろんわかりますが、それができない人もいるようです。本屋に来てみたものの、どうやって探せばいいのかわからず、店員にも聞けず、そっと店を出てしまう・・、意外とこのタイプの人が日々来られているのではないか、と感じ始めました。
できるだけ敷居は低くなければいけません。でないと新しいお客さんを逃してしまいます。

それはそうと、店長になるとつい、棚に自分の趣味を入れてしまいます。
ずっとやりたかったことの一つに、橋本治の棚をつくる、ということがありますが、まだできていません。
足が早い、という表現もどうかと思いますが、彼の著作はたくさんあって、復刻版も含めて単行本、文庫、新書、と新刊は毎月のように出ているのに、刷り部数が少ないからか、ヒットが出ないからか、去年の本でさえ、もう出版社に在庫がない、という状況で、内田樹のように専用コーナーをつくりにくいのです。
せめて、新刊で注文が取れるうちは取って、店頭の話題書コーナーで長く面陳展開するという形で、趣味の虫をなだめています。

その中でも、先月発売された文庫『大不況には本を読む』(河出書房新社)は、売れ続けていて、一緒に並べている『バカになったか、日本人』(集英社、2014)や、『負けない力』(大和書房、2015)もつられてか、動いています。
どれも表紙が、真っ白だったり真っ赤だったりしてシンプルで美しいせいかもしれません。こういうデザインって広告批評の本が出始めた頃からの現象よね・・、とオタクは思います。初期のころはもっと雑然というか猥雑な装丁が多くて、しかも判型もマチマチなので、本棚に並べるとガチャガチャと落ち着かない印象でした。
その頃は、人ん家で、みすず書房の本が多い棚に出くわして、ここは真っ白・・、とびっくりしたこともありました。

それにタイトルも目につきます。『バカになったか、日本人』の上には、内田樹編『日本の反知性主義』(晶文社、2015)を置いていますが、これは同じ意味かと、Trap Beat 夜が回ります(『あり、か』)。
内田樹のほうは装丁が蛍光色でピカピカしていますが、タイトルとしては橋本治のほうがキャッチーに見えます。ただ、「反知性主義」という言葉は、いま流行っているので、商売としての軍配はこちらに上がりそうです。

うろ覚えですみませんが、10年くらい前に読んだ橋本治の本の中に、「この状況で本を読まない人は、もうほっといていいと思う」というような一文があって、かっこいいな、とその言い回しに惚れたことがありました。
けれど、だいたい私は彼の著作を読み通したことがありません。好きなのに変なことです。最初から最後まで読んだのは、短編小説を3つくらいと、対談集をひとつくらいです。そのほかは、ついばむように読んで棚に並べてしまいます。あとがきだけはぜんぶ読めます。一見とても読みやすい文体に見えますが、読んでいるうちにすぐにギブアップしてしまいます。書いてあることが難しい。

前に勤めていたところで、一緒に働いていた少し年下の男の子に、「なんで本を読むんですか。読んだらかしこくなるからですか。勉強のためですか」と、問い詰められたことがありました。「お、面白いから・・?」と及び腰で逃げてしまいましたが、もっと自信をもってそのセリフを言えばよかった、なんて、今になって後悔します。
本屋を、賢そうな場所というより面白そうな場所へ、それが『火花』を求めるお客さんの声かもしれません。けれど、そのふたつは矛盾しているとも思えないので、見せ方の問題かもしれません。

関係ありませんが、今回のタイトルは、職場の本屋に来てくれた友人が持っていたプラカードから拝借しました。それをトートバッグに留めていました。
働いている時間帯の都合上、なかなかデモに参加できないから、一人でも連帯を示そうと思って、と言っていました。

そうね、YES PEACE。

はからずしも又吉にかかってしまったのは偶然です。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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