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『ムーンライト』のプライド

茶屋ひろし2017.06.12

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アカデミー賞を受賞した映画「ムーンライト」を見ました。もちろん、ゲイが主人公だと聞いて見に行ったわけですが、想像していた「ゲイアイデンティティの獲得」が本筋ではなかったことに驚きました。

見終わったあとは爽快な気分でした。これまでぐるぐると考え続けてきた「男らしさ」の衣がはがれた感じがしました。
子どものころからの記憶もよみがえって、「ああ、そういうことだったんだわ」と何か納得してしまいました。
言葉にすれば、何にもならなくてもよかったんだ、というような思いです。
男にも、ゲイにも、大人にも・・

どれにもすでになっちゃってますが、それは獲得したかったものではなくて、この社会での肩書みたいなもので、それぞれの名を生きていくことは、そんなに重要なことではなかったんじゃないかしら、と思ってしまいました。
女友達は「男目線の映画だった」と言いましたが、私は逆にジェンダーレスな映画だったと思いました。
「どこが? 金歯でマッチョだよ」とラインで反論されて、思わず「食事の時は金歯を外したじゃない」と返しました。


以下、すべてがネタバレです。ご注意ください。

シャロンという黒人男性が主人公で、舞台はマイアミのスラム街です。
映画は、シャロンの子供時代、高校生時代、大人時代の三部構成になっていました。

子供時代、シャロンは学校で「オカマ」といじめられていて、家では薬物依存の母親と二人暮らしです。
いじめっ子たちに追い回されて隠れていたところを、フアンという名前のおじさんに助けられます。フアンはシャロンの母親にも薬を売っていた売人ですが、それがわかったあとも、シャロンの相手を続けます。
このフアンの接し方が素晴らしい。
「オカマ(FAGGOT)って何?」と尋ねるシャロンに、「ゲイを不快にさせる言葉だ」と端的に答えます。その回答も素敵ですが、そのあと男らしくなることを説かずに、「他人に自分の人生を決めさせるな」と言うところがこの映画の本筋でした。中島みゆきの『宙船』ですな。

第二部、高校時代のシャロンはノッポの痩せっぽっちで、相変わらずいじめられています。フアンは死んでしまっていない模様。母親も変わらず薬物依存で、シャロンを罵倒するし金もせびります。そのお小遣いはフアンのパートナーだった女性がくれていました。
ここでのハイライトは、幼馴染の同級生との性的な接触と、いじめっ子を椅子で殴りつけるシーンでした。
全体的にセリフが少なくカメラも人の目線で静かな映画だけに、その重要な場面が際立ちます。

一つ目は、同性愛行為でしたが、ゲイじゃなくても起こりうるようなささやかな相互オナニーで、しかもその幼馴染は女の子とのエッチが大好きなヘテロの男子として描かれているので、その夜の浜辺のシーンに、ほほう、と舌鼓を打ってしまいました。腐女子か。
二つ目の、いじめっ子の後頭部を木の椅子が砕け散るくらいの勢いで殴りつけるに至った理由は、いじめっ子がその幼馴染をシャロンへのいじめに利用したからでした。
中学生の時に竹田君という子がいじめっ子にキレて、椅子(鉄製)を振り回したことを思い出しました。私も同じ子に別枠でいじめられていましたが、その後、竹田君が一切手出しされなくなったことをうらやんだものです。

そのあと刑務所に入ったらしい過去を含んで、大人になったシャロンの部(それでも20代だと思う)が始まるのですが、そこで筋骨隆々の大男が出てきてのけぞりました。そして金歯のマウスピース。シャロンはかつてのフアンと同じく麻薬の売人になっていました。

ところが演技というものはすごいことで、三つの時期のシャロンをそれぞれ別の役者が演じているにもかかわらず、マッチョな男も視線とたたずまいがシャロンそのものに見えてきます。
見た目や乗っている車はイケイケですが、私生活は孤独なままです。のちに幼馴染と再会する最終場面で、あの浜辺の時以来、誰とも性的な接触がなかったことを打ち明けます。薬物依存だった母親にも再会します、薬をやめてリハビリを受けていました。この二つのクライマックスで、シャロンが守ってきたものが明らかにされます。

それが私には、「他人に人生を決めさせるな」というフアンの教えと重なって、社会での肩書(男、ゲイ、大人、息子・・)みたいなものが当人を救うわけではない、というメッセージに思えたのです。
シャロンは大人になって、見た目マッチョの「男らしさ」という記号を身にまといましたが、それはただのフェイクでした。

セクシュアルマイノリティー、貧困、いじめ、麻薬、親からの愛情の欠如、恋・・そういった現実を、ひとつひとつ記号化して「不幸な物語」に紐づけしてしまうのではなくて、むしろそうならないように注意深く、シャロンの柔らかくて弱い部分、というか意志、を描き切った作品でもありました。ついでに、それが誇りってものだわ、と思いました。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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