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若いホームレス

茶屋ひろし2018.01.24

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先日、東京から出張帰りの夜7時頃、家の近所の駅で降りて、連日の飲みで疲れているにもかかわらず、天下一品に寄って「こってり・並・麺ふつう」を食べて、そぼ降る雨の中傘もささず高架下の横断歩道を渡りかけたら、前方に倒れている人がいました。

傘をさした女の子が中腰でその前にいてスマホを耳に当てています。近づくとうつぶせになって倒れていたのは男の子で、自転車のヘルメットに顔をつけて、体をけいれんさせています。フェンスには彼のものと思われるスポーツチャリが立てかけてありました。

「どうしたの?」と声をかけると、女の子が、「なんか、おなかがすいてる、みたいで・・」と困ったように答えました。
2人は知り合いではなさそうです。
「どうしたん? 救急車呼ぼか」とけいれんしている男の子に声をかけると、くるっと私を見上げて「救急車呼んでもなんにもならへん」と、結構しっかりした声を出しました。意味はわかりません。

「おなかがすいて死にそうなの?」とピチカートファイブみたいに訊くと、「昨日から何も食べてなくて、ポケットには20円しかないんです」と言います。
「じゃあ、千円あげるよ」と、背負っていたバッグから財布を取り出してお札を渡すと、それを受け取り、続けて「今日泊まるところもないんです」と言います。「じゃあ、もう一枚」と渡すと、ぴょんと跳ねるように飛び起きました。
そしてお札をさっとズボンのポケットにしまうと、笑顔を見せました。
思わず女の子と顔を見合わせて、大丈夫みたい・・とうなずくと、女の子は軽く会釈してその場を去りました。

そのあと男の子はよどみなくしゃべりました。
しゃべり慣れている内容でしょうが、口を挟むすきを与えないほどの勢いなので、とりあえず一方的に聞いてみました。

まず、子どものころに(彼は20代前半のようです)親にバットで殴られて足の親指がコの字に変形していること(指でジェスチャー)、そして自分が知的障害者であること(と、今度は頭を指でさす)、障害者年金が月12万円出ているが母親がそれを独占していてお小遣いもくれないこと、一度保護された警察からの流れで、支援団体の人と弁護士をつれて区役所に相談に行ったこともあるがそれは家庭の問題だからと言われて相手にしてくれなかったこと、障害者手帳はもっているが保険証はない、今は住むところがなくて近くの河川敷で同じような境遇の障害者の子たちと3人で暮らしていること・・

ホームレス状態にあることは、顔や服の汚れ方とにおいでわかりました。

上記の事柄をそれぞれ最低二回は繰り返すので、ようけ(たくさん)しゃべるなー、と思いながら聞いていて、でも聞いてばかりもなんなんで、「ビッグイシューって知ってる?」と訊くと、顔を少しゆがめました。

「連絡先がいまわからへんのやけど、ホームレスの人たちへの支援団体やねん」と言うと、「知ってます。一度やったことあって、その時はお金がもらえました」と答えました。
そして少し話をそらして、「こうやってお金くれる人がいるのは、ここが梅田だからですよ。梅田とか難波とか都会やし優しい人が多いから、5千円とか1万円とかくれる人もいて。俺、東大阪出身なんですけど、あそこでは誰もそんなことしてくれませんでした。こっちにいると、そうやって支援団体を紹介してくれる人もいて、先月も扇町公園(近所)で、サッカーやってる人たちに教えてもらいました」と言います。

聞いていて、あ、なんかこれ、知ってる・・と思いながら、煙草を出そうとバッグのファスナーを開けると、期待している目に気づいて、「いや、タバコ吸うだけやから」と、まだお金くれるんか幻想を軽く砕きました。

「せやけど、ずっとこうやって(演技して)お金もらってるばかりやとしゃーないんちゃう? 限界があるやろうに。親のことはいったんあきらめて、ホームレスの支援してる人たちに、自活する方法を教えてもらったほうがええと思うわ」

まあ、さんざん言われてきたでしょうが。
すると、そろそろ話も切り上げ時かと、自転車にまたがりヘルメットを装着し、「そうですね、じゃあ、明日、前に教えてもらったところに行ってみます。ありがとうございましたー」と笑顔で去っていきました。

絶対行かへんわ。現金な子でした。そのあと歩きだして、近年ビッグイシューに若い人がいつかないって記事読んだなー、とか、他に一緒にいる子たちってどんな感じやろ(もしかしてお金を多くもらうための嘘やったか)、自転車はピカピカやったわ、と、とりとめなく思いながら、前に、刑務所から出てきた26歳男子を、部屋に引き取ったことを思い出していました。

あの子も自活する気なんてさらさらなくて、親への恨みも強かった。
この子も体をけいれんさせてお金を得ることを覚えてしまったから、働くよりもそっちをとっているのかも。
保護者から愛情を得続ける一定期間というものを経ないと、人は働く意味を知るのに時間がかかるのかもしれません。
知的障害の若者たちを雇って、西成でしいたけ栽培の福祉事業を起こした人の講演を、先月聴いたことも思い出しました。本人も親も、将来を見据えて自活を望んでいるという話でした。

それにしても、前に読んだ成り上がりの人の本では、子供のころはお金がなくて食べるものがなくて、サラリーマンを路上で背後からレンガで殴って気絶させて財布を奪っていた、と書いてあったから、それに比べたらまだけいれんしてくれていてよかった、と思いました。みんな貧乏がわるいんや。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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