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元気で、仲良く、さらにパワーアップする女たちに見習いたい

打越さく良2016.01.18

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ザハ案の白紙撤回につながった女たちの運動
森まゆみさんの『森のなかのスタジアム 新国立競技場暴走を考える』(みすず書房、2015年)を読了。民法750条(夫婦同姓強制)について最高裁大法廷の多数意見により合憲と判断されてしまってから(私は弁護団の事務局長)、どうしてもどんよりしがちな気持ちが少しずつ晴れていった。

 月刊みすずで連載中も読み、莫大な税金を投入する国立競技場の建替え問題の深刻さ(手続のいい加減さ、民主主義の形骸化、環境破壊、利権…)に唖然としはした。しかし、「決まったものの見直しなど無理だろう」と予め諦めてしまっていた。ところが、周知のとおり、安倍首相は、2015年7月17日、ザハ・ハディド案の白紙撤回を表明した。前日の同月16日の安保関連法案の衆議院通過に世論の反対が強まっていた。そのような状況での政治的パフォーマンスの要素も多分にあろう。そして、森まゆみさんら「神宮外苑と国立競技場を未来へ手渡す会」(以下、「手渡す会」)が要望していた国立競技場の改修はかなわず、既に解体された後の判断であった。しかし、手渡す会の地道で献身的な努力がなければ、マスコミも世論もこの事業のひどさに気づくこともなかったし、ハディド案の白紙撤回など見込めなかっただろう。この国は民主主義のはずだが、私たちは負け慣れている。慣れ過ぎて、初めから運動にも力が入らない。しかし、それでも、やれるだけのことはやる。諦めずに続ければ、実際に「到底実現しない」と思われることでも実現するかもしれない。そう思わせてくれる「手渡す会」の運動の経過の記録が本著だ。

語り口は淡々としている。それでも十分、事態の急展開とそれに何とかアップデートしていく手渡す会の努力が浮かび上がり、手に汗握る。手渡す会の共同代表は女性11人。「みな手も口も頭もよく動くので、仕事はどんどん進んだ」。それでも、仕事、介護、子どもを抱えている。「お互いの状況をおもんばかりながら、各自できることをする、それでかまわないということにした。」さっぱりした文章だが、大切なことが濃密に詰まっている。運動の停滞は、ちょっとした配慮が欠けて信頼関係が崩れていることに起因することが案外多いのではないだろうか。共同代表各人のきびきびした仕事ぶり(随所にさしはさまれる)やお互いへの気遣い、信頼関係が、手渡す会の力の大きなベースになったはずだ。
官僚らに比べて資金も人員も及ばないのに、目をみはる活動ぶり。賛同者を募り、様々な専門家に意見を聴き、勉強し、話し合い、質問書や要望書をまとめ、役所やJSCを回り、政治家にロビーし、シンポジウムを開き、web上や紙ベースでの署名を集め…。一文でさらりと書けてしまうが、ちょっとしたシンポジウムでも、本業のかたわら、事務が押し寄せてパンクしそうになるのを実感している私としては、感嘆する。「できる」だけでなく信頼される女たちだからこそ、賛同者もここまで集まったのだろう。

男たち・官僚の世界に柔軟に抗する
女、男で分けるのは、こじつけかもしれない。建築家等、手渡す会に協力してくれた男性もたくさんいる。しかし、ある種の「社会的立場」になってしまった男性は、利権というほどのことがなくても、しがらみにとらわれるなどして、批判的に物事をとらえることができなくなってしまうようでもある。長く親しかった全共闘世代の東京大学名誉教授(新国立デザイン・コンクール審査委員)や早稲田大学教授の建築家と会って話をした森さんには、「お二人とも、20年前とは社会的立場が違っている。そしてお二人とも、残念ながら立場にとらわれているようにみえた」。官僚主義的組織の一コマとして、無責任に「決められたこと」をするだけ、というひともいる。一コマでも何でもない森さんは、淡々と役職や人名をあげて、その人がどんな発言をしたかも記録し、感情的に罵るのではなく、手短な批判を加えていく。親しかった人の変節を書き留めることに臆せず、記録する。
官僚の世界では、「新国立を作ることは既に決着済み。JSCの資料は、財務当局に提出するために作ったつじつま合わせ。予算要求に必要な行政手法にすぎない。これをいくら検証しても、水掛け論」とも指摘されたという。縦割り行政で、各省とも、われ関せず。既に決着済み…と言われても諦めない女たちの柔軟さは素敵だ。
運動を批判する建築家のエッセイその他、ザハ案推進側の言説も取り上げ、どのように運動が「センチメンタルな表現」のもと、「わかりやすくおとしめられ」「アナクロに脅される」かといったことも指摘する。献身的な運動に対して、「プロ市民」といった貶められ方もするが、初めて聞いた、なるほど私はそうかもしれない、と森さんは淡々としている。「対案を出せ」というのも政策を批判する側によく投げかけられる文句だが、手渡す会はひるまない。「役所から給料をもらっていたりJSCから設計料をもらって仕事に専念している人たちと、同じ量の情報や知見を集められるわけがない。それでも官僚や専門家と知恵比べしをしやりとりをしなければならない」。対案を出す責任などない、と潔い。

運動のただなかにいながら、森さんの筆致は、熱くなく、驚くほどフェアでもある。官僚の中にも見識を示す人もいたことなども記録される(「ご主張はきわめてもっとも。しかし、もうすでに物理的に時間切れとなっているように思われる。そんな弱気は小生のような過去官僚の意識のなせるわざかもしれません。森さんらしいやり方でこれからも活躍されること、心からお祈りしています」)。様々な研究者と会い、勉強会に参加することは時間を消費することでもあるが、出会いと学びを純粋に楽しんでもいる。このように楽しめれば、運動は強い。

「聞かない民主主義」でも諦めなければ未来は拓ける
地道な勉強と献身的な働きかけ、それまでの人脈がベースとなって、当初は冷ややかだったマスコミもどんどん取り上げるようになる。一時期は、解体がストップできるのではないか、と冷静な手渡す会の人々も希望を抱いたようだ。与野党の議員にもつながっていく。残念ながら、森喜朗組織委員会委員長や舛添都知事など、本丸とはつながらなかったようだ(どういう人脈があればそこまでたどりつくのだろう…素朴な疑問)。
森さんは、特定秘密保護法、集団的自衛権など、戦争に向かうような感じに心が重くなってもいく。心だけでなく体に重さをも感じ、検査を受けたところ、子宮頸がんと判明する。「死を実感できた分、何といわれてももうこわくないと思った」。生に限りがある以上、何を臆することがあるのだろうか。
白紙撤回となっても、「私たちは力及ばずして前国立競技場の解体を許した」と敗北を認める。しかし、「神宮外苑の空と緑を未来へ手わたす」という旗はあげ続ける、という。計画者側は一切耳を貸さなかった。「私たちは皆元気で、仲良く、運動を始める以前より知見も能力も高まったと感じている。そして運動を通じたたくさんの新しい友人を得た」という「あとがきに代えて」にも涙し、励まされる。「日本の民主主義は聞かない民主主義」と悟りながらも諦めない女たちのように、元気で仲良く運動をし続ければ、未来は拓ける、そう実感する。

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打越さく良(うちこし・さくら)

弁護士・第二東京弁護士会所属・日弁連両性の平等委員会委員日弁連家事法制委員会委

得意分野は離婚、DV、親子など家族の問題、セクシュアルハラスメント、少年事件、子どもの虐待など、女性、子どもの人権にかかわる分野。DV等の被害を受け苦しんできた方たちの痛みに共感しつつ、前向きな一歩を踏み出せるようにお役に立ちたい!と熱い。
趣味は、読書、ヨガ、食べ歩き。嵐では櫻井君担当と言いながら、にのと大野くんもいいと悩み……今はにの担当とカミングアウト(笑)。

著書 「Q&A DV事件の実務 相談から保護命令・離婚事件まで」日本加除出版、「よくわかる民法改正―選択的夫婦別姓&婚外子差別撤廃を求めて」共著 朝陽会、「今こそ変えよう!家族法~婚外子差別・選択的夫婦別姓を考える」共著 日本加除出版

さかきばら法律事務所 http://sakakibara-law.com/index.html 
GALGender and Law(GAL) http://genderlaw.jp/index.html 
WAN(http://wan.or.jp/)で「離婚ガイド」連載中。

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