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No Women No Music 第28夜「☆になったボウイ、そしてAさんへ」

ほんま えつ2016.05.02

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 デヴィッド・ボウイが死んだ。彼の訃報を知ったとき、ニューアルバム『★(ブラックスター)』がリリースされたばかりで、タワーレコードで大プロモーションをしていたのを見てきたばかりだというのに、なぜか衝撃は走らなかった。彼の死を知った瞬間すぐさま駆け巡った想いは、数年前に死んだ友人Aさんのことだった。

 Aさんとは遡ること30年前、まだ私が20代そこそこの頃、トム・ロビンソンというUKのミュージシャンのファン・クラブで知り合った。トムは‘GLAD TO BE GAY’という歌で自らゲイであることをカミングアウトしゲイであっても誇りを持ってと歌っていた。私が自分のセクシュアリティに思い悩み行き場を見いだせないでいたころ、愛読していた音楽雑誌にトム・ロビンソンのことを書いた読者投稿が載った。投稿者の女性はその文章で自らゲイであることを公表していた。その女性がAさんだった。Aさんの働く映画館へ私は時々観に行き、そのあと食事をして、音楽、映画、文学、漫画、ゲイ&レズビアン、その他さまざまな話題をたくさん話した。私が初めて出会ったセクシュアル・マイノリティの友人だった。彼女が初めて行ったコンサートは小学生のとき見に行ったデヴィッド・ボウイであったという。高校生になるまでコンサートに行くことを親から禁止されていた私はその話をきいて、その早熟さにあこがれと尊敬を感じた。そしてAさんがデヴィッド・ボウイに対してとても敬意を抱いてファンであり続けていることが話の端々から伝わってきた。

 70年代のデヴィッド・ボウイが私にとって教えてくれたことは、男でも女でもなくていいのだということだった。両性具有ではなく、男性・女性という性をなくした人間。そしてつねにファッショナブルで、新しさを追い求めていく。その内面を深く考え世界中の表舞台から発信される作品、そしてデヴィッド・ボウイという生き様に単なるポップスターではない美意識と知性と華があった。Aさんの生き方には、そのデヴィッド・ボウイの哲学が反映されていた。いつも斬新なお気に入りのブランドの服を着こなし、きっぱりと凛として大好きな音楽、映画、本、ファッションを追い求め、そこにはいつもその作り手たちの洞察力の深さか醸し出す美の哲学を見出す視点があった。そして少しでも、女性やマイノリティに対する蔑みや偏見を垣間みせる作品に対しては、その片鱗をも見逃さず批判する鋭敏さと言葉を持っていた。Aさんのたたずまいには、漫画家でもあった彼女がペンを持ち描く美しい少年、もしくはその少年性を内包した男性像に重なる、男性・女性というセクシュアル・アイデンティティをあえて否定するかのようなセクシュアリティのグラデーションの繊細さが滲み出ていた。Aさんが乳がんの摘出手術をした後、これで理想のカラダになったと、ふっと影のある表情で語った微笑みをいまでも鮮明に思い出す。

 デヴィッド・ボウイが死んで、頭の中ではかつてカセットテープやレコードで何度も何度も没頭して聞いた「ジギー・スターダスト」や「ヒーローズ」、「チェインジズ」が反芻し、そのアルバムを聞きかえしたかったけれど、Aさんの喪失の悲しみに浸ることが怖くて、音楽と記憶が同義語のように強く結びついているデヴィッド・ボウイを聴くことを封印していた。
 そんな折、ロードショーで観た映画『オデッセイ』でデヴィッド・ボウイの「スターマン」がフルヴァージョンで使われていた。劇場の暗闇のなかでスクリーンに映し出されていたシーンなどかまわずに大音響で響き渡るボウイの「スターマン」に浸った。映画の帰り、ボウイの『ジギー・スターダスト』『ハンキードリー』そして遺作の『★』のCDを買った。

 『★』はデヴィッド・ボウイがすでに癌におかされていた闘病時につくられたという。いまこの地球上を覆い尽くしている翳りのなかに、一途の光を見出さんばかりに繰り広げられるジャム・セッション。ロックの枠を超えたノンジャンルの饗宴。エレクトロニカの残響が静かにこの世界を憂いながらも残された者たちへバトンを託す。
 Aさんは私が鬱のとき「ブラックホールの先にはホワイトホールがあるんだよ」という言葉をくれた。『★』を聴きながら私はそのホワイトホールを見出している。



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ほんま えつ

ほんま えつ(ほんま・えつ)

音楽、映画、本をこよなく愛して生きる趣味人女。
小学5年生のとき同級生の友達宅で聴かせてもらった「クィーン」に感動。
以後、洋楽を貪り始める。初めて買ったLPレコードは「アバ」のベスト盤。
いまではこれぞと思った音楽はジャンルを超えてなんでもござれの雑食派。
本連載、約10年ぶりのカムバックです。

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