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右傾化に圧倒…されたくない

打越さく良2017.05.22

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右傾化を多角的に検討
 ほどほどの中道。この社会の大半の人がもつ、緩い政治的立ち位置。まあ、フェミニスト、女としてはマイノリティだけど、中道としてのぼんやりした安心感が、ちょっと前まであったような気がする。それが、あっというまに、「こう書くと、『反日左翼』とかいわれるかな。いや恐れるべきではないっ」とことさら気合いをいれなければ、SNSで思うことも書けなくなってきた。政治、ヘイトスピーチ、排外主義、教育、家族、メディア、歴史、宗教…様々な状況で「右傾化ではないか?」と危惧されるサインがある。塚田穂高編著『徹底検証 日本の右傾化』筑摩選書は、実に幅広い領域で右傾化が進行していることを(あるいは今ひとつ不明であることを)、執筆者がそれぞれの視点で検証していく。研究者、ジャーナリストら21名による寄稿からそれぞれ学ぶところが多いが、以下ではその一部だけ紹介したい。

全体としては右傾化してない?とはいえ…
 社会心理学者の高史明氏の『レイシズムを解剖する 在日コリアンへの偏見とインターネット』勁草書房は厳密な学術書でありながら、読みながら冷静を保つことは難しく、重い痛みに苦しくなってくる内容であった。インターネット上まん延するコリアンに対するレイシズムの様相をまざまざと知ることになるからだ。『日本の右傾化』の第2章「在日コリアンへのレイシズムとインターネット」は前書の一部を噛み砕きつつ、新たな研究成果も付け加える。高氏は研究者らしく、「日本は右傾化しているのか?」という問いについては「暫定的な回答」として「右傾化している面もあるしそうでない面もある」とする。子どもをもつのが当然かもたなくてもいいか、結婚するのが当然かしなくてもよいか、という問いには個人の選択を尊重するような考え方が広まってきたデータがある。ほっ、というわけにはいかない。このようなリベラルな方向への変化もあるが、在日コリアン等への不寛容性は激しく噴出するようになってきた。Twitter上コリアンについてのツイートの多くは、ごく少数のアカウントによって投稿されていることが判明したが、「ではたいしたものではない」ということにはならない。在日コリアンへ悪意をぶつけるのがTwitter利用者のうち「ごく少数」の100人だとしても、ぶつけられた側にやはり深いダメージを与えるし、「ごく少数」のユーザーが足れ流す差別的な投稿を毎日浴びるように読むユーザーたちにこうした差別的な投稿が社会的に許容されるものだと思わせる可能性がある。そのユーザーが「日和見」的に差別的な発言を行うようになるかもしれない。そのユーザーのフォロワーがまた…とまん延していきかねない。その他、「2ちゃんねる」「2ちゃんねるまとめブログ」を利用しているほどレイシズムが強い、ということも、定量的な測定で明らかになっている。

 ではどうしたらいいのか。差別的な投稿が差別は容認されるものと社会的規範を変容させていく。そうであれば、逆転させればいいのである、ということがわかる。差別的な言説に対して積極的に異議を唱えることが、差別は容認されないという社会的規範を醸成し維持することにつながる。私たちにできるとはある。

 政治学者の中北浩爾による第5章「自民党の右傾化」も、データを緻密に分析し、淡々と研究成果をまとめる。まず、自民党は右傾化したか。答えはイエスである。綱領や改憲案の内容からみても、衆参両院議員の政策位置からみても、自民党の憲法や外交・安全保障に関する政策位置が、2000年代以降、ナショナリズムを強調するという意味で右寄りに変化している。なぜか。中北はいくつかの仮説を提示し、検討する。世論の変化?NOである。自民党の支持基盤が右寄りに変化した?それも正しくない。中北によれば、日本会議を支える宗教団体の信者数が減っている以上、その影響力によって自民党の政策位置が変化したとは考えにくい。日本会議が自民党全体を支配しているという見方は、「根拠の乏しい一種の陰謀論にすぎない。結果として、両者の方向性が一致しているだけとみるべきだろう」。本著で随所に触れられる日本会議については私も関連本を読みまくったので、拍子抜けする。冷静な研究が有り難い。中北は、結論として、政策的に左に位置する民主党の台頭と、副次的には派閥の衰退という政党組織の変化が、自民党の右傾化の原因であるとする。世論や支持基盤といった社会レベルの変化に起因していないのであるから、自民党の右傾化は「根が浅いともいえる」とあり、ほっとしそうになるが、しかし、「根が浅いとはいえ、長期にわたって持続していく可能性が高い」。淡々とした考察は、「それが世論と乖離して進んでいるとすれば、日本の政治にとって不幸なことといわざるを得ない」としめくくられる。社会は右傾化していなくても…それでは結局救いがない。

政治が右傾化を進め、市民社会がブレーキをかける
 第4章の樋口直人による「排外主義とヘイトスピーチ」は、排外主義運動の代名詞ともなった「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の成長期・衰退期を概観した上、活動家への聴き取りから、彼ら彼女らは「外国人問題」に対して無関心な者が多かったが、自民党に投票するなど政治的に保守的なことは共通しており、「政治の右傾化」(歴史修整主義)に呼応して外国人排斥を叫ぶようになったという傾向を明らかにする。右派雑誌の近隣諸国バッシング等で蓄積される近隣諸国への敵意は、インターネットという回路を通じて、在日コリアン排斥につながっていく。政治の変化が排外主義運動の生みの親。しかし逆のベクトルもある。すなわち、運動が政治に影響を及ぼす一面もある。典型が2014年の橋下徹大阪市長(当時)と桜井誠との会談であった。橋下は、桜井とつかみ合い寸前といった敵対的な態度をとったものの、会談の翌日、「特別永住」という資格に対して疑問を投げかけた。植民地化と敗戦に起因する国籍剥奪問題の解決策であった「特別永住」の歴史的経過を無視して、在特会は特別永住の法的根拠の廃止を求める。橋下が疑問を不用意に言及することで、政治が標的としなかた特別永住が公の場で問題視されてしまったのである。「次世代の党」、現在は「日本のこころ」は、2014年の政策集に、「特別永住制度の見直し」等露骨な外国人排斥を盛り込んだ。政治が作り出した外国人排斥が運動を経由して政治に逆流し、「政策」というかたちで右傾化をさらに進めている。

 しかし、希望はある。次世代の党は2014年の解散前衆議院で19議席あったのが、衆院選で2議席まで減るという大惨敗を喫した。在特会へのカウンター活動も盛んになった。在特会メンバーに対する裁判について、メディアの扱いも大きくなった。当初は後ろ向きだった自公も、ヘイトスピーチ解消法を提案して制定までこぎつけた。排外主義に関しては、政治が右傾化を進め、市民社会がブレーキをかける関係だといえる、と樋口はいう。大いに励ましになる結論である。

教育・家族・女性
 改憲への動きとほぼ同時に進んでいた教育基本法はすでに2006年改定されてしまった。第8章の大内裕和による「教育基本法「改定」とその後」は、教育基本法改定により、教育が「個人の価値」の尊重から国家優先の構造へと根本的に転換したこと、改定後、教授会権限の縮小、教科書検定基準の改定、道徳の教科化等、教育における新自由主義と国家主義の強化が進んでいることを明らかにする。

 次いで第9章の杉原里美による「国に都合のいい子、親、教師をつくる教育政策」では、小学校の道徳の学習指導要領が、心のあり方まで規定するものであること、道徳の副教材の「自由は「自分勝手」とは違う」といった見解の記載からして、教科書の内容は、自分の意見を言うことを「自分勝手」と封じ込め、「きまり」に従い、「義務」を果たすことを称揚することが予想される。教科書検定基準には、「改正教育基本法に照らして重大な欠陥がある場合」が新たに追加され、検定での修正だけではなく、教科書会社自ら訂正を申し出る等萎縮的効果をもたらしている。「新しい教科書をつくる会」等右派の批判は、社会科さらには家庭科にも向けられている。「つくる会」が発行する教科書は伸び悩んでいるが、「つくる会」から分派した「日本教育再生機構」が採択支援を進める育鵬者の教科書は漸増している。「つくる会」「日本教育再生機構」と「日本会議」は別の団体だが、高橋史朗や八木秀次など、重なる人物がいる。高橋は、第二次安倍政権で内閣府男女共同参画課異議の議員に就任し、八木は、教育再生実行会議の委員等を歴任している。選択的夫婦別姓にトンデモな反対説を唱える彼らを「トンデモな右派(笑)」と笑い飛ばしたいところだが、いとも簡単に政策に影響を及ぼすできる立場にいるのだ。悪夢ではないか。

 保守改憲勢力が狙ってきたにも関わらず、注目されてこなかった憲法24条の意義と改憲をめぐる動きを取り上げた第10章の清末愛砂による「重要条文・憲法24条はなぜ狙われるのか」にも、結婚・家族という一見右傾化とどう関係するかわかりにくいかもしれない領域は、実は個人の権利や自由、社会的差別と平等、国家の権限や社会秩序に密接に関わること、安倍政権下の「国の家庭への介入」、同性カップルに証明書を発行すること等を含む渋谷区の条例に対する家庭連合の反対運動、国家レベルの「婚活支援事業」が地方の現場でどう展開されているかetc.政権レベルと草の根レベルの両方で進む反動的な動きを追う第11章の斉藤正美による「結婚、家族をめぐる保守の動き」、あっさり実現してしまった「三世代同居税制」にみられるように税が守るべき「公平・中立・簡素」の原則が損なわれ、改憲が一足早く税制改正で実現してしまった経過を明らかにする第12章の堀内京子による「税制で誘導される「家族の絆」」…ひとつひとつ、1回ずつ取り上げたい衝撃を与えられる考察である。はああああああああ、嘆息。

まだまだこれでもかこれでもか、だが
 その他、本著はまだまだ短いながら読むと頭をかきむしりたくなる深刻な論稿が続く。第Ⅴ部「言論と報道 自己賛美と憎悪の連鎖に向き合う」に収められた早川タダノリ、能川元一、北野隆一、田崎基の各論稿、第Ⅵ部「蠢動する宗教 見えにくい実態、問われる政治への関与」に収められた島薗進、藤田庄市、鈴木エイト、藤倉善郎、塚田穂高による各論稿。
 心躍らない、ほっとしない、しかし現実に進展していることばかり。決して、多くの人が右傾化しているわけではないのに、おかしくなっているこの事態。全てを紹介する紙数はないが、心踊らない、ほっこりもしない、しかしそれがイマココなんだと悟る。ひとつひとつ、じっくり読むべし。これでもかこれでもかと右傾化、私たちの生きる選択肢を狭め、他者、さらには自分がありのままでは尊重されず、攻撃し排除する社会になってきていることがわかる。
 ああ、まっぴらごめん。
 まっぴらごめん?
 であれば、できることを手当たり次第しよう。
 ひとりひとりはできることはあまりない。でも、「たいしたことない」ひとつひとつが重なっていけばうねりになる。排外主義、差別、偏見なんてまっぴらごめん。一人ひとり個性のある人を育てるのではなく、早く結婚して国家に奉仕する人を産み育てるなんてまっぴらごめん。神がかり的な日本スゴイ?ノーサンキュー。加害体験を無化すWGIP(ウォーギルトインフォメーションプログラム)←「陰謀史観」…いい加減にしてください。
 ロビー、投票、パブコメ、教科書採択への意見、デモ。
 いろいろできることはある。
 え?どれもハードル高い?Twitter等でぼそっとつぶやくだけでいい。え?炎上が怖い?大丈夫!リツイしますとも!
 あと、案外、みんなもやもやしていて、リベラルな意見してみたらいいね!されたりする。
 まだ、頑張ろう。

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打越さく良(うちこし・さくら)

弁護士・第二東京弁護士会所属・日弁連両性の平等委員会委員日弁連家事法制委員会委

得意分野は離婚、DV、親子など家族の問題、セクシュアルハラスメント、少年事件、子どもの虐待など、女性、子どもの人権にかかわる分野。DV等の被害を受け苦しんできた方たちの痛みに共感しつつ、前向きな一歩を踏み出せるようにお役に立ちたい!と熱い。
趣味は、読書、ヨガ、食べ歩き。嵐では櫻井君担当と言いながら、にのと大野くんもいいと悩み……今はにの担当とカミングアウト(笑)。

著書 「Q&A DV事件の実務 相談から保護命令・離婚事件まで」日本加除出版、「よくわかる民法改正―選択的夫婦別姓&婚外子差別撤廃を求めて」共著 朝陽会、「今こそ変えよう!家族法~婚外子差別・選択的夫婦別姓を考える」共著 日本加除出版

さかきばら法律事務所 http://sakakibara-law.com/index.html 
GALGender and Law(GAL) http://genderlaw.jp/index.html 
WAN(http://wan.or.jp/)で「離婚ガイド」連載中。

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