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 1960年代の後半から1970年代の初めにかけて、世界各地で「女性解放運動(ウィミンズ・リバレーション)」が同時多発的に発生した。なぜこのタイミングだったのか。その時代、安全かつ確実に生殖機能をコントロールできる手段として避妊ピルが登場し、世界中に広まっていったことが大きいんじゃないかと、わたしは考えている。

 そもそも、あらゆる文化・社会に「女性差別」はあったそうだ。少なくとも、どんな文化・社会においても、「女性」が「男性」と区別され、「男性」とは別の扱いを受けてきたということは間違いない。そうした差別/区別は、根本的に男女の生物学的な差異――生殖機能の違いにもとづいている。女性は「子を産み・育てる性」として、男性とは決定的に違う存在だと見られてきた。男女のジェンダーも、究極的にはこの生物学的な差異から派生したものなんだろう。

 「妊娠・出産」が女性個人の人生に決定的な影響を及ぼすことは、今も昔も変わらない。しかも、往々として「妊娠」は予定通りにはいかないため、女の人生は「望まない妊娠」によって振り回されがちになる。ひとたび「妊娠」してしまうと、女性は自分自身の心や体に否応のない変化を強いられ、社会的役割も変わる。

 それが分かっているから、大昔から女性たちはどうにかして自らの生殖機能をコントロールすることを願って、いろんな手段に訴えてきた。祈祷、まじないに始まり、高い所から飛び降りたり、冷たい水に入ったり、腹部を揉んだり叩いたり、膣から異物をさし込んだり、薬草はもちろん毒薬までも……どんなに大きな犠牲を払おうとも、どれだけの困難があろうとも、ときに自分の命を賭してまで、「産めない」「育てられない」と思った女たちが、自らの妊娠に介入しようと試み、その結果、大勢が命を落としてきたことは歴史的事実である。

 となると、世界中で同時多発的に女性解放運動が起こった裏には、避妊や中絶の発展がありそうだ。20世紀の後半に入って、女性たちの悲願を叶える画期的な薬品――「ザ・ピル」と呼ばれた経口避妊薬が開発されたことは、世界中の女性たちの運命を変えたと言っても過言ではない。

 世界に先駆けて、アメリカで避妊ピルが承認されたのは1960年だった。女性参政権運動などを経て男女平等の意識にめざめつつあった国々の女性たちが、やっかいな生物学的宿命から逃れられる手段に飛びついたのは当然だろう。なにしろ女自身が自分の妊娠をコントロールできるという未だかつてなかった夢の薬だったのだ。

 女性運動の第一の獲得目標は「避妊ピル」になった。さらに、ピルがスタンダードな避妊手段になったことで、「わたしは産みたくないから避妊する」という自治・自己管理の感覚、コントラセプティブ・メンタリティ―が養われていった。

 ただし、避妊ピルはのみ忘れることもあるし、薬が手に入らなかったり副作用でのめなかったりする人もいる。となると、バックアップとしての中絶は絶対に必要だ。

キリスト教の影響が大きい欧米では長らく中絶が禁止されてきた。けれども、女性の権利意識の高まりによって中絶が合法化されるにあたって、医療者たちは「安全で確実な中絶方法」の探求に乗り出した。

 結果的に、1970年頃までに「吸引法」と呼ばれる従来に比べてはるかに安全で手軽で受容しやすい中絶方法が登場したものだから、中絶が違法の国々では「人工妊娠中絶」が女性運動の獲得目標に加えられた。

フェミニストたちは「産む/産まないはわたしが決める」と自己決定を肯定する標語を叫び、みるまに他の女たちにも浸透していった。

 さらに1980年になると「中絶薬」が登場し、1990年代から2000年代にかけてどんどん広まっていった。薬のおかげで中絶は早期化されていき、ミッドレベルの医療者でも安全・確実に行えるケアになって、スティグマは大幅に改善されたと言われている。

 今や世界では、中絶薬は「自己管理」時代に突入している。薬をもらって家でのんで、ちゃんと完了したかどうかをセルフチェックするんでいいんだよと、WHOは言っている。

 だけど日本の中絶は、吸引の導入については半世紀、中絶薬の導入については30年も他の先進国より遅れている。その一方で、ソウハだけは70年以上も延々と使われつづけている。あまりの違いに、くらくらする。

 この国は、避妊ピルさえ1999年まで禁じられていた。「日本でもピルが解禁された!」という報が流れたとき、諸外国は「ついに日本も中絶薬を解禁したか……」と誤解したというエピソードは、情けなさすぎて、とても笑い話にはできない。

 そして、女が自分の性や生殖をコントロールするための手段は、日本ではあまりに限られているし、あるものはみな高くて、不便で、手に入りにくくて、「恥ずかしいもの」だとされている……まったくもう、ホンマにやってられんわ。

 こんなことを考えると、いま一度、女性解放を叫びたい気分になる。呪縛からの解放を! スティグマからの解放を! 生きがたさからの解放を! 暴力からの解放を!

そう、ダサいと言われようとも、やっぱりこれを叫びたい。

女性差別からの解放を!!

※12月22日塚原さんのトークイベントがあります。中絶ピルへの理解を深めるラブピ今年最後のワークショップ、ぜひご参加下さい。

詳細はコチラ→

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塚原久美

塚原久美(つかはら・くみ)

中絶問題研究者、中絶ケアカウンセラー、臨床心理士、公認心理師

20代で中絶、流産を経験してメンタル・ブレークダウン。何年も心療内科やカウンセリングを渡り歩いた末に、CRに出合ってようやく回復。女性学やフェミニズムを学んで問題の根幹を知り、当事者の視点から日本の中絶問題を研究・発信している。著書に『日本の中絶』(筑摩書房)、『中絶のスティグマをへらす本』(Amazon Kindle)、『中絶問題とリプロダクティヴ・ライツ フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房)、翻訳書に『中絶がわかる本』(R・ステーブンソン著/アジュマブックス)などがある。

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