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フランスとゼネスト

中島さおり2020.01.08

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12月5日以来、パリの交通網は麻痺している。年金改革に反対してパリの地下鉄、トラム、郊外鉄道を束ねるバス・地下鉄公社RATPがストライキを打っているからだ。8路線が全く動かず、他も5本に1本とか3本に1本とかの間引き運転。完全に動いているのは無人運転の2路線ばかり。バスも多くの路線が止まり、郊外から通勤する人の足となる路線も本数が少なく、パリ近郊の道は渋滞が400キロ……。
国鉄SNCFも同じくストだ。TGVも間引き運転となり、地方とパリをつなぐ足がなくなっている。

パリの人々は無人運転や間引き運転で動いている路線をフル活用し、通勤・通学のために朝夕だけわずかに動く時間帯を利用し、でなければ歩き、渋滞を避けて早朝に車を出し……と自助努力で対応している。パリは東京よりずっと小さくて、歩こうと思えば端から端まで歩けるということも考慮すべき点ではあるが、ストライキが1カ月も続くということに私はやはり驚いてしまう。

こんなことが日本で起こったらどんなことになるのだろうと想像してみる。きっと利用者の罵声を浴びて、三日と持たないのではないか? 今回の改革では、42もある特別制度をなくして一律、一般制度に統合するというのだが、「公共交通機関の職員が一般より早く退職して年金が貰える特権がなくなることに反対している」というのでは、日本だったら共感を呼ばないと思う。おそらくそこばかり強調されてストをしている人々が非難されるに違いない。

フランスにいて感心するのは、フランス人たちは他人のストライキ権を尊重して生きているということだ。迷惑をこうむりながらも、「たまったもんじゃない」「早く終わってほしいね」とブツブツ言いつつ、ストライキを支持することだ。ストライキをする権利を、自分がこうむる迷惑とは切り離して考えられるのだ。ストライキの支持率は始まった時点では80%、最近の意識調査でも61%がストには十分な理由があるとしている。

支持するのは、他人の権利を尊重するからばかりではない。自分たちも年金改革に反対だからでもあるだろう。42の特別制度が一般制度に統合されるというだけでなく、今までは給与の高かった時期25年間の四半期をベースに計算された年金が、ポイント制に変わることになると、多くの人は年金が減ってしまう。ポイントがいくらに還元されるか、行政が変化させる危険(現政府はやらないと言っているが、未来永劫ないと信じる者は誰もいない)を考えれば、今回の年金改革で一番問題視されているのはこのポイント制であることがかわかるだろう。
たとえば育児休暇を取る女性のことを考えてみよう。3年間の育児休暇を取っても取らなくても、最良だった25年間の給与をベースに考えられるなら変わらない。同じ人が働いた期間のポイント制になると不利になってしまう。この点をついて、育児休暇を取らなくなり、出生率が下がると年金を支える人口が減るという指摘をする人もある。
一番給与が高かった頃の25年間の四半期をベースにその8割の年金が貰えるのであれば、暮らすのには困らないだろう。日本の年金とは規模が違うように見える。

フランス人たちがストライキを支持するのは、実際、こうした抗議が実績を挙げることを知っているということもあるだろう。年金制度改革は1995年にも当時のアラン・ジュペ内閣が打ち出して、大規模ストライキによって葬られた過去がある。国鉄、地下鉄のストライキはもちろん、郵便、電気、ガス、病院など次々に参加したストライキが1カ月続いた末のことだった。
日本ではストライキなどほとんど起こらないし、ゼネストなんて言ったら、今を遡ること70年の昔々、1947年に「2・1ゼネスト」という幻のゼネストがあるだけだ(名前だけは有名だけれど実際は、予定されていただけでGHQの介入で実施されなかった)から、大規模ストライキが起こった場合に、政府がどのように対処するかというようなことも、正直言ってほとんどの国民は知らないのではないだろうか。
ところがフランスの政府を見ていると、法案の修正を提案して、関係労組の代表を交渉のテーブルに呼んだり、それなりに対応をするのである。もちろん、その提案が不満足なものであれば、労組はストライキを続行する。政府としては許容できる修正で手を打たせてストライキをやめさせようとするが、うまくいかず改革案を引っ込めることになったりもする。ストライキは国民と政府との交渉の手段なのだ。

今回、マクロン大統領は不退転の決意のようで、とうとうストライキは1995年の規模を超えてしまった。それでも年明け、今週から、労組との交渉が始まるらしい。
一方、エール・フランス航空、弁護士会、看護士・運動療法士組合が新たにストライキを呼びかけている。こちらは業界内で蓄えている潤沢な年金資金を、一般の年金制度に統合という形で国に奪われることに反対している。1月9日、11日にはまた大規模な年金反対デモが予定されている。

新年早々、年金闘争は佳境を迎えるようだ。

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中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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