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 ここ1か月間、だれもが新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のことを考えない日はないだろう。わたしはもともと、毎日、「中絶」のことを考えずにはいられない人なので、このパンデミック下で、「妊娠したかも」とか、「やっぱり妊娠だった」とか、「中絶したいけど病院に行けない」……など、困っている女性がいるんじゃないか……と、何かにつけて考えてしまう。

 そこでついつい「中絶」「コロナ」なんて検索してしまうわけだが、国内でヒットするのはウィルス対策をしていると宣伝している産婦人科医院のサイトぐらい。あとはアメリカのテキサス州が中絶手術を禁止したことなど、海外の報道ばかり。「日本の中絶医療が壊滅!」などと報じるニュースは見られないし、もちろん厚労省が中絶に関して情報提供している……なんてこともありえない。(海外では、各地で「中絶は必須の医療か?」という大議論が巻き起こっているのに……。)

 そんななか、たまたまIPPF(国際家族計画連盟)が検索で引っかかった。さっそくリンク先を開き、ホームページの検索ボックスに「中絶」「コロナ」と入力してみたけど、ヒットは0件。次は「中絶」とだけ入れて検索したが、これも0件。「やっぱりね……」とがっかりしながら、サイトの上方にあったボタンで日本語から英語に切り替え、英語のサイトで「abortion」と指が覚えているつづりを無意識に打ち込んだ。すると、なんと……487件もヒットした! そこでふと思いつき、再び日本語のサイトに切り替えてからあえて「abortion」と英語で検索してみたら……出てきた、出て来た、日本語に翻訳された記事だ! ただし、たったの7件ぽっち。英語で検索した時の1.5%にも満たない。

 それでも、いったいどんな内容の記事が日本語に訳されているのだろうかと興味津々で、ひとつひとつ確認してみた。その結果が以下である。

① 2018年6月アルゼンチンの下院が中絶を脱犯罪化
② 同年8月アルゼンチンの上院がそれを否決
③ 2019年6月アメリカのグローバル・ギャグ・ルールがアフリカを直撃
④ 2018年5月アイルランドで中絶合法化
⑤ 2011年セーフ・アボーション・アクション・ファンド(安全な中絶活動基金: SAAF)の開始
⑥ タイトル「女性と少女たち」(……ん? 何のことかと思ったら、2018年にSAAFのサービスを受けた84%が女性または少女だったという話だった)
⑦ 「ディレクターズ・リーダーシップ・チーム」(IPPFを支える人々の紹介文だった)

 あまり目新しい情報はないし、日本の話題は皆無である。④と⑤は、SAAF(安全な中絶活動基金)の最新情報の英語サイトにリンクが貼られていた。この英語サイトには、国名リストの中から選択する機能もあったが、そのリストにもJapanは見られなかった。

 でも、実のところ、日本の中絶ではWHOが「安全な中絶」とみなしていない方法が大半を占めている。それを思えば、本来、日本もSAAFが対象とすべき国のはずだが、運営スタッフたちはそんなことをおそらく想像してもいないだろう。そこでIPPFの英語サイトに戻って、改めて「abortion COVID-19」と検索してみたら、495件もヒットした。冒頭から順にジョージア、スーダン、アルバニア、イラン、レバノンの「COVID-19の影響」の各国情報、その後に「COVID-19で世界中の女性の性と生殖のヘルスケアが断ち切られる」、「COVID-19とジェンダーに偏った(非男性の=女性やLGBTQ+への)暴力」、「避妊とCOVID-19:供給とアクセスが崩壊」といったタイトルが並び、続いて香港の「COVID-19の影響」、そして「クイズ:性と生殖の健康とCOVID-19」へと続いていた。

 へえ、クイズかと興味を惹かれて解いてみた。全部で7問。ほとんどが「〇〇をすることで感染するか?」といった内容で、わたしは2問はずれだった(言い訳になるが、問題文の解釈の違いのためであり、知識が間違っていたわけではない)。最後の1問は「パンデミックにも関わらず、今現在でも中絶は可能か?」で、答えはイエス。これは正解した。手術ができない現在でも、薬を使えば安全に中絶はできるということを言いたいのだろうな……と推測したからだ。

 読みは当たった。この最後の1問の解説文が、次のように締めくくられていたからだ。「この困難な時に、もしあなたが中絶サービスを必要としていたら、近くの医療提供者に電話やEメール、ソーシャル・メディアで連絡するか、Women on Waves(ウィミン・オン・ウェーブズ)またはWomen Help Women(ウィミン・ヘルプ・ウィミン)にアドバイスを求めることもできます。」

 WoWとWHWは、どちらも安全な中絶を得られない国々の女性たちに中絶薬をダイレクトに届ける活動をしている国際ボランティア団体であり、このページからリンクも貼られていた。要するに、自分の国や地域の医療提供者を頼れないなら、これら団体のオンライン処方を頼る手もあると示唆しているのだ。(ちなみに、WoWもWHWも日本語のページがあるが、後者は現在一時的に閉鎖中。)

 この話をすると、「使ってみたい」と思う人が出てくるので、どうしても付け加えなければならないことがある。実は、日本の刑法には堕胎罪があるので、日本にいる女性がオンラインのサービスを使って薬を入手し、自分の妊娠を中絶することは犯罪になってしまうということだ。「でも日本では、普通に中絶が行われているよね?」と、思う人もいるだろう。日本でほぼ自由に中絶が行われているのは、母体保護法という法律で刑法堕胎罪の例外を定めているためで、特別な許可を得た産婦人科の医師なら合法的に中絶しても構わないことにしているためなのだ。自分の身体なのに、自分の妊娠なのに、他の国の女性たちはオンラインで薬を手に入れて中絶しているのに、日本の法律のために日本人の女性が同じことをすれば犯罪になってしまうのだ……。「理不尽だ」と感じる人もいるだろうし、わたしもおかしいと思う。

 実際、世界じゅうに目を向ければ「堕胎罪」は風前の灯火なのである。昨年も、アイルランドや英連邦下の北アイルランドで法的な中絶禁止が撤廃され、韓国でも刑法堕胎罪に対して「違憲判決」が下された。いずれも、少なくとも女性自身が自分の妊娠を中絶することを禁止するのは女性に対する差別であり、人権侵害だという観点に立ってのことである。

 日本の堕胎罪もなくすべきなのだ。実際、日本も国連の女性差別撤廃条約の条約委員会から、何度も「堕胎罪の見直し」を迫られている。ところが、日本政府はのらりくらりとごまかしてきた。2011年に条約委員会から「(日本)政府は人工妊娠中絶を非犯罪化するつもりはあるか」と直球を投げられた時には、政府はイエス/ノーで答えず次のように回答した。

我が国刑法においては、胎児の生命・身体の安全を主たる保護法益としつつ、併せて妊娠中の女子の生命・身体をも保護法益として、堕胎は犯罪行為とされているが、母体保護法において母性の生命健康を保護するとの観点から、母体保護法(昭和23年法律第156号)第14条第1項の規定による指定医師のみの人工妊娠中絶が認められている。

 ここで示されているのは、日本の刑法は第一に「胎児の生命・身体の安全」を守るもので、第二に「妊娠中の女子の生命・身体」を守るために存在意義があるという認識なのだろう。つまり、「非犯罪化をする気はない」姿勢を間接的に示しているのだと思われる。その上で、日本では母体保護法によって指定医師による中絶を認めることで実質的に「中絶の非犯罪化」を認めている……と答えたつもりなのかもしれない。

 これを受けて、次の回では刑法で守られている妊娠中の女子の生命・身体、母体保護法で守られている母体の生命健康とは、いったい何なのか、次回、具体的に考えていこう。

 

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塚原久美

塚原久美(つかはら・くみ)

中絶問題研究者、中絶ケアカウンセラー、臨床心理士、公認心理師

20代で中絶、流産を経験してメンタル・ブレークダウン。何年も心療内科やカウンセリングを渡り歩いた末に、CRに出合ってようやく回復。女性学やフェミニズムを学んで問題の根幹を知り、当事者の視点から日本の中絶問題を研究・発信している。著書に『日本の中絶』(筑摩書房)、『中絶のスティグマをへらす本』(Amazon Kindle)、『中絶問題とリプロダクティヴ・ライツ フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房)、翻訳書に『中絶がわかる本』(R・ステーブンソン著/アジュマブックス)などがある。

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