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暖冬だったせいか、ベランダのメダカたちもほとんどが無事越冬できました。
去年たくさん死なせてしまったのは、環境の変化に弱いと聞いておきながら、頻繁に水替えをしていたせいだとも思われ、今年は、「水が減ったら足す」くらいにとどめておいたのもよかったような気がします。
植物もメダカもつまりは水加減なんだわ、とわかったような気持ちで、休日の昼下がりに、しゃがんで水を足していたら、表から「あーイライラする!」と誰かの叫ぶ声が聞こえました。そしてもう一度、「あーイライラする!」と。

変声期の中学生男子のように聞こえました。
イライラしてるんやなー、と聞き流していたら、「もー大っ嫌い!」とセリフが変わりました。そしてまたリフレイン。すべて同じ音量です。かなり通る。
階下からしているものだと思っていましたが、ふと見上げたその先に、向かいのマンションのベランダに女性が仁王立ちしているのが目に入りました。

あの人か、と驚きました。向こうのベランダは道路に対してちょっと斜めになっていて、川に面しています。
彼女は川に向かって叫んでいたようです。
こちらまで聞こえているわよ、劇団員かと思うほどの声量ね、と私はこっそり部屋に戻りました。

そういえば、去年の夏の夜、あの家で夫婦喧嘩していて、上の階に住むおじさんがステテコ姿でベランダに出てきて「やかましいわ! ええかげんにせい!」と怒鳴ったのでした。

たまたまベランダにいるときに遭遇する近所の出来事です。
なんにせよ、川に向かって叫ぶのはいいことね、と職場でその話をしたら、「大っ嫌い! ってところがまだ可愛いですね」と女性スタッフが笑いました。「まだ愛情があるっていうか」
「そうね、殺してやる! とか、死んじまえ! じゃないものね」
「そうそう、それに限界来てたら、もうその家にいませんよね」
話が早い。


前回のコラムを読んでくれた友人から、「口が悪くなってた。大丈夫?」とラインが来ました。
確かに……。それは、店の忙しさに煽られてキャパシティを超えていた状態をそのまま書いてしまったせいですが、「上沼恵美子ばかり見ているからだわ」と人のせいにしておきました。
前回は、「殺してやろうか」というセリフで〆てしまったのですが、先日、上沼恵美子は「裂いたろか!」と言っていて、格が違うと恐れ入りました。

ステイホーム中の視聴者からの悩み相談というコーナーで、ダンナが家にいることで家が5倍汚くなったとか、洗濯してくれるのはいいけどいちいち洗剤の場所訊きに来てうっとうしいとか、テレワークでずっとダンナと過ごしていて老後の暮らしが不安になった(58歳)、という妻たちの悩みに答えた後、男の人からも来ていますと、「家で飲んでも妻がいるから楽しく飲めない」という悩みを紹介した時でした。

まず、ため息をつくように笑った恵美子は、画面に向かって、「飲むな!!」と一喝しました。続けて、「今まで会社帰りにさんざん楽しんできたくせにどの口が言うとんねん、奥さんにはそんな時間なかったんやぞ!」と叱り飛ばし、最後に「裂いたろか!!」と放ったのでした。

この言葉のチョイスの何が素晴らしいかと言うと、それを言われた側に、「ワシはスルメか」と突っ込める余地があるところです。
ツッコミのようでいてボケ。妻たちの怒りを代弁して的確に寄り添った後、ダンナたちに対しても逃げ道を残す。

ちなみに、妻たちの相談については、老後の暮らしが不安になった人には「今すぐに別れてください。私が保証人になります」と言うものの、洗濯や掃除に関しては、「そういう夫の存在そのものがストレス。下手にストレス増やすくらいやったら、奥さん、それはもうご自分でなさってください」と折衷案(?)も出していました。

上沼恵美子のようになれたらいいけれど、知らんおっさんにそこまで優しくなれないわーと、コロナで急に忙しくなった店頭で思ったのが前回のコラムでした。

もうすっかり客足も戻り(減ったという意味です)、通常営業の昨日、レジで、文庫本一冊を持ってきたおじいさんに、カバーお付けしてもよろしいですか、袋にお入れしましょうか、とやっていたら、はっきり答えない、というか本人はうなづいただけなのか、よくわかりません。
袋にお入れしましょうか、ともう一度聞くと、「入れて!」と急に大きな声で怒鳴ります。「入れてって言うとる!」

言うてへんわ、と思いながら腹が立ちます。しかも小銭入れを開けて釣銭をそこに入れるように待っています。

「入れて!」って、子どもか。ここは家の外やぞ。私はおまえの母親か。

脳内に言葉があふれながらも今まで通りスルーしましたが、これからは叱っていったほうがいいのかもしれません。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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