ラブピースクラブはフェミニストが運営する日本初のラブグッズストアです。Since 1996

banner-1906dame06

Loading...

 2021年1月28日、ショッキングなニュースが飛び込んできた。「トイレで出産し殺害か高校生逮捕」。
先月、栃木県のショッピングモールのトイレで産み落とした子どもを殺した疑いで、出産後入院していた女子高校生が逮捕されたというのだ。NHKのネットニュースはこう続く。

一緒にいた友人がショッピングモールの関係者に助けを求め、通報を受けて駆けつけた消防が、倒れていた女子高校生と赤ちゃんを病院に搬送しましたが、赤ちゃんは死亡したということです。

 トイレの個室にははさみが落ちており、嬰児の首に切り傷があったという。その女子学生から事情を聴くなどして捜査をした結果、はさみで殺害した疑いで逮捕した。妊娠に気づいてはいたが、病院には行っていなかったそうだ。 
 お産が進んでいくあいだ、彼女は何を考えていたのだろう。自分がどうなるか、今から何が起こるのか、分かっていたのだろうか。陣痛の激しい痛みの中、さぞや恐かったと思う。辛かったと思う。絶望的な思いに駆られただろうと思う。産み落とした瞬間、殺さねばならないと思ってはさみを取り出したのか。いや、もしかしてへその緒を切ろうとして取り出したはさみで、パニックになって切りつけてしまったのではないか……。そもそもどうやって誰の子を妊娠したのか。妊娠に気づいてから数か月ものあいだ、毎日、何を思って、どんなふうに暮らしてきたのだろう。友達に打ち明けることはできていたのだろうか。それとも、事件が起きるまで何も言ってなかったのだろうか。家族はどうして気づかなかったのだろう。彼女自身、虐待の被害者だった可能性もあるかもしれない……。18歳にもなっていない少女なのだから、逮捕ではなく保護はできなかったのか。これから先の彼女の人生を考えると痛ましい、あまりにも痛ましい。

 そしてこんな事件が起こるたびに腹が立つのは、相手の男はいったいどこで何をしているのか……ということだ。女性は妊娠から逃げられない。男は逃げられる。逃げおおせている男があまりに多すぎる。

 



 こんな事件に出合うたびに思い出す一人の少女がいる。

 小学生の頃に遊び仲間だった女の子の一人が、高校生の時に自殺した。彼女が自殺した頃にはもう付き合いがなくなっていたのだけど、その直前にAちゃん(と呼ぼう)が通っていた学校の片隅で新生児の遺体が見つかったのだと人づてに聞いた。彼女が産み落として捨て、自殺したのだと噂が立ったそうだ。かつてのAちゃんのいたずらっ子っぽい笑みがよみがえってくる……。

 「どうやって子どもができるのか」……小学校の当時は最新式だった防音完備の小さな放送室のスタジオの中で、Aちゃんは平然とした顔で教えてくれた。お兄ちゃんがいるちょっとマセた子だった。ぐるりと輪になって一緒に話を聞いていた数人の女の子たちは、「お父さんとお母さんがそんなことするなんて……」と口々に顔をしかめたり、べそをかいたりしていた。

 でもわたしは嬉しかった。わくわくしていた。お父さんっ子だったわたしは、「父親似と言われて育ってきて、『どうしてお母さんのおなかから生まれたのに、わたしはお父さんに似てるのだろう?』」とずっと不思議だったからだ。何も言わなかったけど、学校の「性教育」が触れない「秘密」を教えてくれたAちゃんに心ひそかに感謝した。Aちゃんは、動揺していないどころか、嬉しそうにしているわたしに、どうやら気づいたようだった……。

 中学になって、Aちゃんは「スケバン」(死語です……昭和の女の子の不良グループのこと)の一員になった。高校も一緒だった。わたしは昼間部、Aちゃんは夜間部で、すっかり疎遠になってはいたけど、それでもこちらの下校時に逆に登校してくるAちゃんとすれ違うときには、目を合わせて会釈しあうような間柄ではあった。互いに一目置いていたのだと今も思っている。

 高校の半ばでわたしは家の都合で遠い町に引っ越すことになり、その数か月後、同級生を通じてAちゃんの悲報が届いた。話し相手がいない分、わたしはぐるぐると何度も何度も一人で考えてしまった。Aちゃんが何を経験したのか。どんな思いでいたのか。どうやって独りで出産したのか。生まれてきた子を見て、何を思い、何をしたのだろう。それから、いったい何を考え、どんなふうに思い詰めて、自死を選んだのだろうか……と。底抜けに明るかった彼女の笑顔が、どう曇ったのかと思うたびに、泣けてきて、何度も何度も考えずにはいられなかった……。



 栃木の高校生のことを思うとき、Aちゃんが亡くなったときに思いめぐらせたことが再びよみがえってくる。全然違う時代に、全然違う結果に至った二人だけど、望まない妊娠、望まない出産をした少女の痛みと苦しみ……その理不尽がのしかかってくる。
 殺したかったわけではなかっただろう……ただ、どうにもならなかった、どうにもできなかったのだ。あまりにも無力で、あまりにも無防備。あまりにも守られていなさすぎる……。

 海外の多くの国々では、未成年の少女たちは充実した性教育や無料の避妊、無料の中絶で守られているという。一方の日本では、まともな性教育すらなく、避妊へのアクセスも悪く、中絶はもっともっと手が届かない……。そんな国で、望まない出産をするはめになった少女たちをいったい誰が責められるだろう。

 そんな少女たち、女性たちを苦しめているのは、この国が抱える性と生殖をめぐる構造的な問題だ。産む性をないがしろにして、ミソジニーがはびこるこの国を根本から変えていかなければならない。意図せぬ妊娠をする可能性がある少女の、女性の、人々のリプロダクティブ・ヘルス&ライツを保障していくことは人権の問題であり、人権とは、すべての人間が最低限守られるべきものなのだ。

 変えていこう。変えていかなければいけない。もう二度と、こんな惨劇をくり返さないでほしい。女の子の未来を、その命を、理不尽な法制度で壊さないでほしい。

Loading...
塚原久美

塚原久美(つかはら・くみ)

中絶問題研究者、中絶ケアカウンセラー、臨床心理士、公認心理師

20代で中絶、流産を経験してメンタル・ブレークダウン。何年も心療内科やカウンセリングを渡り歩いた末に、CRに出合ってようやく回復。女性学やフェミニズムを学んで問題の根幹を知り、当事者の視点から日本の中絶問題を研究・発信している。著書『中絶問題とリプロダクティヴ・ライツ フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房)

RANKING人気コラム

  • OLIVE
  • LOVE PIECE CLUB WOMENʼS SEX TOY STORE
  • ばばぼし

Follow me!

  • Twitter
  • Facebook
  • instagram

TOPへ