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 昨年9月から始めた国際セーフ・アボーション・デーJapanプロジェクトでは、毎月28日に「中絶についてもっと話そう!」と題したオンライン・イベントを開催している。第5回となった2021年2月28日は、「危機的妊娠の現状と相談支援~養子縁組・遺棄からみえること」というタイトルで、静岡大学教授で全国養子縁組団体協議会代表理事でもある白井千晶さんの司会で、産婦人科医師で養子縁組あっせん許可事業者でもある河野美代子さん、特定非営利活動法人キミノトナリ(にんしんSOS仙台)代表理事の東田美香さんのお話を伺った。

 冒頭から印象深かったのは、白井さんから「望まない妊娠」とか「意図せぬ妊娠」といった従来の言い回しをやめて、「危機的妊娠」という表現が提案されたことだ。危機的妊娠とは、当事者の生活や人生にとって負の影響を与えたり、危機的であったりするような妊娠のことだという。退学させられてしまうとか、仕事が続けられなくなるとか、相手に逃げられた等々、妊娠を続けられなくなってしまう理由はいくつもある。なるほど、仮に最初は「望んでいた妊娠」、「意図していた妊娠」であったとしても、「危機的妊娠」に陥ってしまう可能性は常にあるわけだ。

 危機的妊娠でありながら、中絶に至れなかった事例もいくつか紹介された。昨年、愛知県で20歳の女子学生が通学中に陣痛に襲われ、公園のトイレで1時間半陣痛に苦しんだ末、1人で赤ちゃんを出産した事件があった。彼女は後に子どもを遺棄したとして、死体遺棄と保護責任者遺棄致死の罪で起訴されてしまった。後々、さまざまな事情が明らかになってきた。彼女は最初に受診したとき妊娠7週だったが、「同意書」が必要と言われてすぐに相手の男性と連絡を取り「同意書」への署名を求めたが、中絶費を払うことをちゅうちょしていた男性とは次第に連絡が取れなくなってしまった。

 その後、彼女はインターネットで産婦人科が運営する相談窓口を探したが、どこの病院も「双方の同意が確認出来なければ手術はできない」という返答で、しだいに諦めるような気持ちになっていき、孤立出産に至ってしまった。成人していたとはいえ、まだ学生だ。本来、保護が必要な事例だったのではないか。

 またこのケースでは、本来同意書は不要だったと河野さんから説明があった。結婚しておらず、「配偶者」でないからだという。ところが、相手の男性が逃げてしまったり、行方をくらましたりしている場合であっても、トラブルを避けて同意書を求める医師もいるという現実がある。そういう時に、当事者の側に立ってアドバイスできる相談機関の必要性が語られた。

 また、妊娠8週で受診したのに、「今から予約したら中期になっちゃうから」「元々うちのクリニックの患者じゃないから」と複数の機関で中絶を断られ、電話帳の上から片っ端に電話をかけてみたものの説教されたり、いろいろ理由をつけて断られたりして無力感に陥り、最終的に出産して養子に出すしかなかった女性もいたという。通常、中期中絶は妊娠12週以降なので、まだまだ時間があったはずなのに、どうしてそんなことになってしまうのか。東田さんからも「医者は女性の味方であるべきなのに」と怒りの声が上がった。

 他にも、妊娠が学校に知られることで退学させられる(しかも、女の子だけ退学させ、相手の男の子は退学処分にしない学校もあるという!)学習権の侵害の問題だとか、恋愛したり性関係をもったりする生活者と見られていない技能実習生の妊娠・出産・死体遺棄などの問題なども紹介され、盛りだくさんの内容だった。

 聴いていて、つくづく思ったのは、この国はさんざん「少子化」「少子化」と騒いでいるのに、「産みたいけど産めない」女性たち、特に「お金がなくて産めない」人たちを全くサポートしていない。これは全く理解できない。不妊治療に370億円もつぎ込む前に、まずは今、妊娠して困っている人、産みたいと思いながら産み育てられないと嘆いている人、たった一人で危険な出産に追い込まれてしまうような少女たち、女性たちを救うべきではないか。

 河野さんは、自クリニックに受診した10代の少女の性交の相手に関して調べた興味深い統計も紹介してくださった。河野産婦人科クリニックで受診した10代4,537人のうち妊娠していたのは1,109人で、その75%が中絶を選んだという。「10代の性」というといつも少女ばかり取り上げられることを不満に思った河野さんは、妊娠させた相手についても統計を取った。すると、女子高校生の性交の相手は高校生か社会人、女子中学生の性交の相手は中学生か社会人がほとんどだということが明らかになった。

 さらに、女性の側の妊娠率は中学生で33.0%、高校生31.5%、大学・専学生25.0%と下がっていくのに、社会人になると31.0%と高くなる。男性の妊娠させた率は中学生で57.1%、高校生32.9%、大学・専学生24.1%とやはり下がっていくのに社会人は34.7%と高くなる。社会人同士だったら、「妊娠したら/妊娠させたら結婚すればいい」という考えもあるのかもしれないが、社会人の男性が相手にしているのは必ずしも社会人の女性ではなく、中学生や高校生も多くを占めていることを河野さんの統計は示している。

 妊娠相談を受けている東田さんは、危機的妊娠の裏に「性教育の不足」と「男性の無責任」の2つがあると強い口調で証言した。人権教育としての包括的性教育を導入していくことは不可欠だが、女性の側ももっと知識をつけていく必要もありそうだ。実際、妊娠アプリを使いこなしているのはいいことだけど、たった1日、2日生理が遅れただけで、「妊娠した」とパニックになって相談してくる人もいると東田さんは言う。

 河野さんからも、来院が遅れる少女は、①自分の月経周期、妊娠周期の数え方、いつが出産予定日なのかを全く知らない、②自分では妊娠が分かっていても相談相手がいない、③一人で病院に行くこともできないと言う。学生のあいだにしっかり学んでから社会に出て行ってほしいと、河野さんは願っている。

 そこで、河野さんからぜひ覚えておきたい予定日の数え方を教わったので、ここで共有しておきたい。エイプリルフールの性交で妊娠したら、出産の予定はクリスマスイブ。プレゼントで赤ちゃんが届くよ、と教えるのだそうだ。エイプリルフールで性交して、いつまでが中絶可能かといえば、水子供養のお盆が来たらもうアウトと覚えておく。「十月十日」ということばが独り歩きしているために、トイレで出産にといった事態になる少女は、4月にセックスしたら子どもが生まれるのは2月くらいだろうと考えているという。コンドームを使っていても15%は失敗するということももっと常識になってほしい。本来、義務教育のうちに自分の身を護るための知識をちゃんと教えておくべきなのだ。

 「性は嫌らしいもの、恥ずかしいもの、隠しておくべきもの」として、「性に近づかないように脅しておこう」という脅しの性教育は大間違い。「性は大切なもの、素敵なもの」なので、「素敵な性が実行できる素敵な大人になってほしい」という伝え方をしていきたい――長年、性の現場で働いてきた河野さんならではの素敵なメッセージだった。

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塚原久美

塚原久美(つかはら・くみ)

中絶問題研究者、中絶ケアカウンセラー、臨床心理士、公認心理師

20代で中絶、流産を経験してメンタル・ブレークダウン。何年も心療内科やカウンセリングを渡り歩いた末に、CRに出合ってようやく回復。女性学やフェミニズムを学んで問題の根幹を知り、当事者の視点から日本の中絶問題を研究・発信している。著書に『日本の中絶』(筑摩書房)、『中絶のスティグマをへらす本』(Amazon Kindle)、『中絶問題とリプロダクティヴ・ライツ フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房)、翻訳書に『中絶がわかる本』(R・ステーブンソン著/アジュマブックス)などがある。

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