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峰なゆかさんインタビュー 『AV女優ちゃん』と峰なゆかさんのフェミニズム

北原みのり2021.05.17

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『AV女優ちゃん』著者峰なゆかさんとお話しました。

峰さんが国際女性デーに寄せて書かれた文章(AM「『男の生きづらさ』について改めて考えてみる/卒業♡アラサーちゃん〜女道サバイバル術〜#014」)がTwitterで回ってきて、凄く強いいい文章書く人だな〜と思い、そこから峰さんの最新作「AV女優ちゃん」を読み始めました。峰さんの生い立ち、AV出演など半生を描いた自伝的漫画ですが、時が止まるような思いで一気に読み、読後ぼーっとしながら峰さんと話さなきゃ! という思いに駆られました。地獄のような性差別社会を冷ややかに、超絶な客観性と物語力でぐいぐいと読者をひっぱっていく峰さんと、今、フェミニズムなお話しをしたくなったのです。
数年前に峰さんとは仕事で一度お話ししたことがあります。その時はフェミ話はなかったと記憶しています。当時の峰さんはフェミには距離を持っていたことも今回伺うなかでわかりましたが、なぜフェミに距離を持っていたのか、なぜ今フェミなのか。そんなフェミな話をオンラインインタビュー1時間で伺いました。


AV界はシスターフッド禁止

北原みのり 「AV女優ちゃん」の反応はどうでしたか?

峰なゆか  私が「AV女優ちゃん」を描こうと思ったのは、AVを辞めてからかなり時間が経って、世間と感覚が一緒になってきたから、AVに対して客観的に考えられるようになったんじゃないか、フラットな認識になっているんじゃないかと思ったからなんですけど。連載を始めてみたら、世間の反応が思っていたのと違いすぎて、あれ、私全然フラットじゃなかった~!って、びっくりしました。

北原  「AV女優ちゃん」は、日本に住んでる女の人だったら、自分事のように感じられるメッセージがちりばめられているなと思ったのだけれど。

  「自分とは全く違う、別の世界の人間の話だ」という目線で読まれていると思いました。まだまだ世間との温度差を感じました。働く女性や、セックスをしたことがある女性であれば、それが同意があってもなくても、お金をもらっててももらってなくても、『AV女優ちゃん』に描かれていることには、たくさんの共通点があるはずなんだけれど、AVに出ているとなると、急に別次元の生き物になってしまう。

 変に貶められるのも違和感はあるんですが、持ち上げられるのもやっぱり気持ち悪いなと思う。よく言う、「男の人が女の人を聖女か娼婦かに分ける」というのと同じですよね。男の人にもAV女優を「カネ目当ての何も考えていないビッチ」みたいな言い方をする人もいれば、「お世話になっております」と言う人もいて、ただそれも、なんかバカにしてるニュアンスも含んでいるときもあったりとか。
 
 なかにはAVを本当に良いイメージで見ている人もいるんですけど、良いイメージを勝手に持たれるということの窮屈さもあったりします。それはAV女優に限らず、割と女の人は共通して持っている感覚、「女の人ならこうだろう」というのを強制されるのが、AV女優になると、より過激にやられると思います。

北原 そういう人の視線に対して、鋭く批評的に、こっちがハラハラするような、「ハラハラする」っていうのは、自分にもこういうところがあるんじゃないかって気づかされるような感じで、抉るように表現されてますね。しかも、回を重ねていくと、だんだんシスターフッドの話になっていく、峰さんの観察力と公平な視線に胸打たれました。女優どうしを仲良くさせないAV産業の支配構造のなかで、女性たちが繋がっていくシーンに泣いちゃいます。

  AVの現場って刑務所みたいだなって思うんですよ。刑務所でタバコを交換する、みたいな感じで連絡先を交換したりとか。現場で楽しいことは食べることしかないから異常に執着するとことか。ほんともう、刑務所みたいって思ってました。

北原 峰さん、私それ冗談じゃなく本当にわかってるんで!(笑) 確かに、ああいう所ではこそこそとシスターフッド生まれます!で、本当に、食べるもの次何来るかなしか、あの空間では考えられないです! (笑)

  しょうもないもの来ると超ムカつくじゃないですか。(笑)

北原 そうなのよ~。(笑)

  こんなに怒る?ってぐらい。(笑)

 

 

「ダメになりたいときってありません?」

北原 女性どうしが連絡を取れないように管理する業界の体質など、AV業界に対する冷静な観察が鋭い批評にもなっていますが、業界批判は意識されたことですか?

  私、全然AV業界批判しようというつもりはないんです。ただ、まぁ、内容的にAV業界の人には警戒されてしまって、業界の人は私に取材させてくれないんですよ。(笑)

北原 本当のことを描くから、ですよね。

  でも私は、事務所の人とかメーカー側の意見に納得することもあるんです。自己管理がどうしようもない女の子もいるんですよね。契約したのに来ないとか。元々可愛い子なのに、すっごい不自然な整形をしてきて、もぉ、まだ契約があるのに! っていうことがあるんですよ。AV業界って底辺女子高(※1)と同じようなダメな人間が多くて好きなんですけど、「積極的にダメになろうとしている」というのが共通点があって、懐かしい、っていう。

北原 「積極的にダメになる感じ」って、どういう感じですか?

  なんか、ダメになりたい時ってありませんか? 私こないだも、そういう状態になって。「仕事も何かもう、なんも知らね~!」っていう。家で一番高いシャンパンをあけて、湖池屋の「のり塩」のポテトチップスと一緒に食べて。そしたら夫に「そんなの飲むんだったら、ちゃんと今、生ハムとチーズとかあるから、切って出すよ」って言われたんですけど、「いーから! 今はのり塩で飲みたいんだ!」って。ダメになる快楽、みたいな。そういう日ってありますよね。

北原 (笑)

  食いたくないけどペヤングをめっちゃ食う。全然やりたくないソシャゲを何時間もやる、とか。どうでもいい男とセックスするとか。そういうことをやりたい日が私はあるんですけれど、みんなには無いんですかね? そのデカいバージョンが、「AVにでも出るか」なんじゃないかな。爆発したい! なんか、ちゃんとしてるの、イヤッ!みたいな。

北原 ダメになる自由も、私たちにあるから。

  そういう意味でAVに出るのは、自傷行為だと思います。趣味でやってる人もいるとは思うんですけど。自傷行為が趣味だって言ったらそうなのかなとは思うんですけど。

北原 けっこう怖いことをサラッとおっしゃるので、ドキドキする。

  (笑)

北原 例えAVに出ることが自傷行為であっても他人が「それ自傷行為だよ」って言うのはなかなか許されないことだと思うけれども、峰さんの行為も自傷行為だったってことなんですか?

  単純に金を稼ぐ目的とか、承認欲求を満たしたい目的の人もいると思いますけど、私の場合は自傷行為っていうのが一番しっくりきます。自傷行為といっても、色んな方法があるわけじゃないですか。手首を切るとか。でも私、手首を切るのは絶対やだなぁって思ってて。何でかって言うと傷あとが残るからなんですけど。でもリストカットする人にはリストカットじゃないといけない、この自傷行為を選んだっていうのがあって、私的にはそれがAV出演だったんです。色々ある自傷行為の中からAV出演を選んだっていう感じですね。

北原 自傷行為ならばなおのこと、AVの出演を5年間続けてこられたのは長かったように感じます。

  それは、もう、本当に1回出たら……。1回出るデメリットと100回出るデメリットがそう変わらない。とにかく、本当に1本出たら「元AV女優」って言われ続けるんで、出られるだけ出ないと損だなって。

北原 そっか!

  うん。

北原 元を取った感じしますか、今。

  いや、普通に愛人とかやってた方がよかったなって思いますよ(笑)

北原 あっはっはっは(笑) やめるタイミングは、何だったのですか?

  あ、それは、もともと私、学生のうちしかやらない、と思ってて。出席日数が足りなくて留年してるんで、5年くらいになってるんですけど。仕事をAV一本にしてしまうと、ちょっと周りを見る限り、精神的に良くないし、履歴書の空白ができてしまうし、辞め時がわからなくなってしまうのは良くないと思ってたんで、元々「ここでやめよう」とは思ってましたね。

(※1)「底辺女子校」とは「AV女優ちゃん」の中で描かれる峰さんが通っていた女子校。偏差値は底辺だが、「ヤリマン」であることで価値うまれるその地域ではカースト最上位にあったという。

 

地方で、底辺女子校で、生き急いでた

(C)扶桑社/峰なゆか

北原
 峰さんが高校生だったのって2000年前後ですよね? エンコーが男の買う問題ではなく、女の子が主体的に売る問題のように当時のメディアは取り上げていましたが、峰さんも、高校時代、性的であればあるほど女の子のカーストが高い、って描かれてましたね。敢えて、偏差値の低い「底辺女子校」に通ったというエピソードは衝撃でした。

  全国的な価値観はわからないんですけど、東京に来て「小中高って頭が悪い方がモテたよね?」って話すと、東京の人とか、ちゃんと進学校に行って東京の大学を受験した地方の人たちには「エッ!?」って言われるんですよね。「頭いい方がモテるでしょ」って。じゃあなんか、私の地域だけが異常だったのかなって。

北原 (笑)そうなんですか?

  もちろん、頭が悪い子ほどモテるってのを描いたら、「わかるー!」って。「なんか田舎ってこうだよね」みたいな意見をいう子もいます。私のところだけじゃないと思います。だって、田舎で学歴ってマジで役に立たないんで。親がどれだけ土地を持っているかとか、そっちの方が大事なんで。成績が悪くても、何の問題もないんで。

北原 今も同じだと思いますか? 田舎で、女の子が置かれている状況って。

  はい。高校中退する子とかめちゃめちゃ多いですけど、大体親の後継いだりとか自分でお店を始めたりとかするんで、履歴書を持って面接に行くみたいなことが全然ないんですよね。東京だとまず高校中退だよってなったら、色々難しいんだろうと思います。

北原 女の子と男の子では、違いますか?

峰  女の子と男の子はやっぱり違って、男の子の最高名誉というのは、名古屋大学に行くことです。東大よりも名古屋大学の方が価値が高いんですよ、あの地方では。

北原 そうなの?

峰  そうですよ。ダメです。東京まで行くのは不良なんです。名古屋までならOK。

北原 東京に行くのは裏切り者?

  名古屋だったら土日は地元に帰ってこられるんですよ。実際、名古屋に進学した人は土日も毎週毎週実家に帰って実家で過ごして、もちろん、学校卒業したらすぐ地元に戻って、高校からずっと付き合ってた彼女と結婚して家を建てる、みたいな。そういうのですよね。でも、それ言ったら男の人も名古屋大学出た意味ないんですよ。結局。実家継いでるんで。

北原 そうですよね。

  私、兄がいるんですが、兄は「名古屋大学目指して頑張れよ」みたいな感じだったんですけど、私は女だから「そんなにいかんでもええやろ」みたいな。そんな感じでしたね。

北原 「AV女優ちゃん」には、ご両親がヒッピーで、読書や音楽など文化的な家庭環境だったことが描かれていましたが。

  田舎でロン毛の男性っていうのは、もう、本当に異常者扱いされていたので。(笑)

北原 お父さん。(笑)

  はい、そうです。

北原 お父さんの職業聞いてもいいですか?

  お父さんはヒモです。

北原 ヒモだったの!?

  家事とかもしないんで、マジでヒモとしか……。元バンドマンのヒモです。

北原 ほんとのヒモだ!

  そうです。

北原 じゃあ、お母さんが色々切り盛りしているようなおうちで、ってことですよね。

峰  そうですね。バンドマンに貢ぐファンから本妻になって貢ぎ続ける、みたいな。

北原 そういうご両親を見ていて、子供の時の峰さんのジェンダー観って、どう育ったと思います?

  変だな、って思ってました。お父さんがいない日って夕ご飯毎回お茶漬けだよね、みたいな。お茶漬け好きだからいいんですが、なんかこう、「あれ?」みたいなのは結構あって。なんか、大体すべてのことを母親がやるので。育児とか。税金がどうのとか。でも、大事そうな書類には、母親が、父の名前を書くんですよね。「なんでお母さんの名前を書かないの?」って聞いたら、「こういうのは男の人の名前を普通書くものなんだよ」って言われて。「なんで!?」とか、そういうことは凄く思ってましたね。母は不良……「東京に上京してバンドマンを連れて戻ってきた女」だったので、尚更。

北原 凄いね(笑)

  母は、田舎では悪人なんです。特に、母の世代の中では。祖父祖母とかは「女の子に学問いらない」と、いかにもな考えの人たちだったので。ただ私は子どもの頃、たまたま料理とか裁縫とかを自分からやりたいって言ってやってたんで、あんまり女ジェンダーに違和感を持たなくて、だから、底辺女子校に行くことになったときもラッキー、みたいに思ったんですね。

北原 底辺女子高で楽しかったですか?

  どっちかっていうと必死でしたね。人生が最低なことにならないように。高校生が一番価値が高いんだから、「今しかない」と思っていて。今考えると、高校生にそこまで価値は無いよ、って思うんですけど。ただあの時代は本当に、「高校生が一番価値が高い」って世の中的にも言われていた時代ですよね。

北原 今が一番価値が高い自分だって思っている女子高校生に、将来って見えにくいですよね。

峰  そう。

北原 でも高校卒業後、東京の服飾専門学校に入学するわけですよね。当時の峰さんに未来はどういう風に見えていたのでしょうか。

  男の最高名誉が名古屋大学だとしたら、女の最高名誉は服飾か美容の専門学校に意味も無く行って、地元に戻って、なんか店をやることなんです。

北原 そうなんだ。

  そうなんですよ。

 

 

男の生きづらさ? お前の話を語れよ。

北原 峰さんが国際女性デーに寄せて書いた「男の生きづらさ」についての文章、面白かったです。

  なんでAV女優がAV女優になったかっていうのは凄くよく語られるけれども、AV男優がAV男優になった理由とか、マネージャーや監督をやっている側のことって全然語られないよな~と思っていて。「AV女優ちゃん」を描くにあたって、そういう男側の心理ってどんな感じなんだっていうのを考えてたら……、考えたくないなと思って。(笑)

北原 あっはっは

  よく、男が「考えろ考えろ」って言ってくるやつじゃん、って思って(笑)。なにが「僕たちはセックスができなくて辛いんです」だよっ、みたいな。(笑) 甘えるんじゃねえ! みたいに思ってたんですけど。まぁ、でも、女がどれだけ大変だったとしても、男の大変さがゼロになるわけではないので、女の方と比べずに考えようっていうのを頑張ったんですけれど、やっぱりちょっと難しいところもあったみたいで。その葛藤を書きました。

北原 男の生きづらさについての、板チョコの例(「バレンタイン前後にチョコ買うと、誰にも貰えないから自分で買ってる人だと思われそうだから二月に入る前に三月分までのチョコを買い溜めしている」という峰さんのお兄さんの話)は秀逸ですよね。

  男の人からすると細かすぎるくらいの問題、例えばアツギ(タイツ)の広告に、ちょっとパンツが見えてるイラストを使ったからといって、「何で炎上するんだ。こんなので女性差別にならないだろ」みたいに思う男の人は結構いると思うんです。でもそれは、女の人からすると、色んな女性差別に繋がっていることだから細かくても危険なんだよって思うわけですよね。

 多分、板チョコのエピソードも、男女が逆転した、「細かくても根深いもの」のひとつなんだろうなって。でも、その「板チョコ」のような事例が男側からは全然出てこないんですよ。

 私、あれを書いてネットの反応をめちゃめちゃ見てたんですね。こういったことを書けば、男がちゃんと自分の生きづらさを語ってくれるのかなと思って。例えば「性犯罪をしてしまう男性がなぜそのような行為に至るのか」とかも考えるんです。DVをする男、モラハラをする男って、本当はモラハラしても全然楽しくないと思うんですよ、でも、なんでそうなってしまうのかなって考えた時にその理由が見えない。だから凄く知りたくて、板チョコのような小さな生きづらさの例を書けば、誰か書いてくれる人が現れるんじゃないかって思ったんですけど。あれを読んで「男の生きづらさを全然わかってない」みたいな否定的な反応はめちゃめちゃ多かったんですけど、じゃあ具体的に何がどうなのかって言うと、やっぱり自殺者数とかホームレスの数、割合とかを挙げるだけなんですよね。

北原 挙げるだけ。(笑)

  それただの結果じゃん。お前ホームレスじゃないし、自殺もしてないじゃん、お前の話を語れよ、って言う。

北原 そうだよそうだよ、本当にそう。

  「男はこういう辛さを感じているんだよ」って語っただけで、男らしくないとみなされるから言えないんだ、ってのは聞きますけど、じゃあネットで匿名で書けるだろ、って思うんですよ。え、なんで書かないの?って思うんですよ。だって他の恥ずかしいことは色々書いているのに? 「今日はこのオカズでヌキヌキしました」とか、「えっちなおしりですね、ハァト」とかリプライをするアカウントはあるのに、そこで男の生きづらさを語ればいいじゃないですか。でもやらない。それはなんでなんだろうってなると……。

北原 なんでだと思いますか?

  私の推測としてあるのは、認識できてないか、語る言葉がない。説明の仕方がわからない。この、ぼんやりしたことを説明するのを、悪だと、やってはいけない行為だと思っているふしがあるのかな、と。

  攻撃的な男の人の悪口の定番で最近「お気持ち」っていうのをよく聞きますけど、お気持ちが一番大事なことなのに、なんでお気持ちを持つことを悪のように言うんだろうと思うんです。悪口で「感情的」と言われるのも全然わかんなくて。感情、大切だろ、と。

北原 そうですよ、本当に。

  そうなんですよ。なんですけど、それを悪口として使うってことは、自分がお気持ちを持つこと、感情的になることをやってはいけないことだと思ってるってことなのかなって。

北原 「論理的」の反対を「感情的」だと思ってる人多いけど、「論理的」の反対は「非論理的」だから、全然違うでしょっていう。

  そうそうそうそう! そこ、まず、アホだろっていう。

北原 峰さんの本を読んでいると、ああ、なんか、男の人に対して感じる嫌なことの視点が「わかるわかる!」「一緒一緒!」って感じで、峰さんと友達、みたいな気持ちになる女性の読者はきっと多いんでしょうね。

  いやぁ、私は悪口が好きなんで。男の悪口も女の悪口も好きなんですよ(笑)

 

 

 

医学部の入試の不正関係ないのにめちゃムカつく

北原 今日聞きたかった1つは、「アラサーちゃん」の登場人物のヤリマンちゃんがフェミニズム化していった流れについてです。今の時代フェミニズムは避けて通れない、みたいなことを描かれてたんですけど、峰さんはフェミニズムをどう捉えていますか?

  少し前までは、フェミニズムとか知らないというふりをしているのが一番賢い、頭がいい生き方だ、という時代だったと思うんですけど。今、知らないふりを決め込んでる奴って頭悪そう、っていう雰囲気に変わってきたように思います。なんか、最近の事情に疎いんだなぁ、みたいな。「男女差別とか、今どきないですよね」って言っちゃうような人間がいたとしたら、ちょっと、「他の仕事も任せて大丈夫? 一般常識はあるの? 現首相って誰か知ってる?」って思います。

私が「アラサーちゃん」を描き始めたころはフェミニズムについて黙ってたほうが賢い生き方だったんで、だから、私は黙ってたんです。興味を持って調べたりはしてたんですけど。それが、後半になってきたら、黙っているのは一般常識がないアホというか、なんていうんでしょうね。

北原 フェミニズムが一般常識化してきたってこと?

  そうですね。一般常識じゃないんですか?

北原 じゃあ、峰さんにとって「性差別」っていうのは、どういうような認識で、どう定義されてます?

  「性差別」。私は、フェミニズムで性差別のことについて取り扱う必要は無いと思っていて、女性差別のことにだけについて取り扱うべき、というか、そこは混ぜないで欲しいと思っているので。それはヒューマニズムとか別の活動としてやってほしい。フェミニズムで性差別全般を正していこうとすると、本当に、どうしようもない、何も進まないことになるので。

北原 あっ、「性差別」は、私、女性差別の話してます。

峰  あっほんとですか、男性への性差別も含まれちゃうかなって思って。

北原 含んでないです。「性差別」は「女性差別」です。

峰  「神って言ったら普通は男のことで、女神って言ったら女」みたいなやつが多すぎるので、性差別イコール女っていうのは珍しいパターンですよね。

北原 そうですか? じゃ、「峰さんにとって『女性差別』って何ですか」に質問を変えます。

  「女性差別」。なんだろう……ムズかしい。なんだと思います?

北原 それは、日々感じてしまうことだと思います。ざっくり言えば、自分の尊厳が削られることなんだなと思うんですが、尊厳がなにかと言えば、奪われるとじわじわと人生が蝕まれるようなことなんですよね、私にとっては。

  私、何のために女性が声をあげているのかと言ったら、例えば医学部の入試の不正とかって、私もう全然関係ないというか、医学部入試する予定ないんですけど、めちゃめちゃムカつくんです。「絶対に、絶対に責任を取らせてやるからな!」みたいな気持ちになるんです。多くの人は「次の世代のために」って言うんですけど、私にとっては、それは全然強い欲望ではないんですよ。そんな、次の世代の知らない女の子に、怒りを煮えたぎらせるほどには感情移入はしないんですよ。でも、じゃあ、なんでこんなにいろんなことにムカつくんだろうと思ったら、私、ほんとに「復讐してやる」って思ってるんですよ。

 

人生後半戦でやるべき復讐

  私、ある日カチッと「あ、いま私、人生の後半戦入ったな」と思って。前半戦で受けたこと全部に復讐してやるって思ったんです。その前半の部分の復讐ポイントとしては、私が子供であったということが理由として大きい、二番目に大きいんですけど、まぁ一番大きい復讐の原因は「私が女だったから」という理由なんですよね。まぁそれ以外にもあるんですけど、あとは細かすぎてよくわからないんですが。田舎に生まれてしまったということもありますよね。田舎に生まれてしまったゆえに経験させられたことへの復讐のために、「絶対に! 表参道にマンションを買う!」とは思ってるんですけど。(笑)「世の中に復讐をする」というのが、今の私のすべてのモチベーションなんです。

北原 その復讐のターゲットって、世の中、っていうとこだけど、顔見えてます? 敵の顔って。

峰  あ~、見えてないかも。

北原 じゃあ大きいね、大きいものと戦っているんですね

  個人の考え方を一対一で変えるのって相当無理があるから。フェミニズムにまったく理解がない層も変わらざるをえないように「えっ、フェミニズムって一般常識でしょ、知らないの? えっ大丈夫ですか?」と普通に言い続けて、「えっこれ恥ずかしい? ヤバい発言なの? 駄目だったんだ!」と思わせる。その人たちが本質的には意味がわかってなくても、とりあえず日々の女性差別的な言動をやめさせるっていうのは、大事なんじゃないかって思ってるんですよね。

北原 私は東京医大の不正入試問題の時に、なんかすごい悔しくて、その日ちょうど韓国から帰ってきた日で凄いテンションが高かったので、生まれてはじめて「デモをやります」って呼びかけたんですよ。エトセトラブックスの松尾さんと一緒に。で、行ったらメディアの人が凄いたくさん来ていて、「医大生ですか?」って聞かれて。んなわけないじゃん、って思って。(笑)

峰  あははは(笑)

北原 「受けてないし!」って。受ける予定もないんですけど、でもなんか、腹が立つんですよ、って思った気持ちを、今、すごい思い出しました。峰さんの復讐、とても楽しみです。

峰  私は復讐を始めてから日が浅いんで、「復讐するぞっ」っていう自覚を持ってからまだ一年も経っていないと思うんですよ。なので、こう、あれですね、描いていることもそうだし、日常会話とかでもそうですけど、フェミニストと言うと凄い「良い子良い子」してなきゃいけないのがつらいです。『バッドフェミニスト』っていう本のなかで、「私はフェミニストだけどヒップホップを聴いてる」みたいなことが書いてあって。えっ、フェミニストってヒップホップも聴いちゃだめなの、って、びっくりしちゃったんですよ。

 確かに差別的な発言とか多いけれども、フェミニストはすべての差別と戦わなきゃいけないわけじゃないし。私にとっての復習は、「次世代の女性に繋げるために」とか、「女性差別のことを考えるんなら男性差別のことも考えなきゃねっ」とか、気遣いみたいなものをする段階ではもうないというか。まぁ、気遣いをするという戦法で相手を懐柔して復讐をしよう、という戦法の人は、それでいいけれど、私はそういう段階じゃないんで。

 確かに、あんまり過激なことを言うと、男の人だけじゃなくて女の人でも「えっ、こんな人と仲間だって思われたくない」って思う人が出てくることは知ってるんですけど、いや、お前と仲間になるために活動してるわけじゃねえから!って思ってます。「私は! 私の復讐をしたいだけなんだよ!」って。

北原 私、今日、峰さんと凄く話したかった理由が自分でよくわかりました。私も善良なフェミニズムとか、「すべての差別のために」とか言われると「は?」とか思ってます。「いや別に、すべての差別やってらんねえし、時間無いから! 今、ここの、自分のことやってんだよぉ!」みたいなところ、なんか今日すごくストンと落ちたし。楽しかった。(笑)

 

田嶋さんにバーンと言って欲しかったこと

北原 最後の質問です。「AV女優ちゃん」巻末の田嶋さんとの対談の中で、質問されてますよね。“セックスワークを貧困女性のセーフティーネットとして考えることを田嶋さんはどう思いますか?”って。対談の中で、その問いへの返答がないまま曖昧に終わっていましたが、峰さんは何故その質問をしたのでしょう? 峰さん自身はどう考えていますか?

  田嶋さんって基本、パーン!って返答する人じゃないですか。それでもセックスワークについては、「それはちょっと、私よくわかんないかな」ってなるんだって思いました。田嶋さんのフェミニズムの中にセックスワーカーの問題はそんなに入ってなかったんだなぁ、というのが意外でした。

   あれが一番聞きたかった質問だったんです。田嶋さんに何かバーンって答えを言って欲しかったんです。でも、私自身「セックスワークは貧困層のセーフティネット」って言われると、いや、たしかにそういう面もあるにはあるが、でも……と悩んでしまうし、セックスワーカーの問題って、フェミニズムを研究している人でも、バーンと答えを出せる人が今のところいないのかなと思いました。

北原 「セーフティーネット」という言い方をする人が、どこの立ち場でどの視点で語っているのか、腹立たしく思うことが私はあります。最後にこの話を伺えてよかったです。峰さんがこれから書きながら復讐しながら見つけていく答えを、みていくのが私はとても楽しみです。今日はありがとうございました。

峰さん、ありがとうございました! インタビュー、ほんとはこれからが佳境! なところでしたがひとまず終わり。ここから先は私たちが一人一人投げられた問いを受けて考えていくことなのだと思います。峰さんの「復讐」がどのように開いていくのか、「私は私の復讐をしたいだけなんだ」という、峰さんの高い声がずっと耳に残っています。またお話ししたいです。「AV女優ちゃん」、多くの方に読まれますように。(ZOOMインタビュー画面撮影)


<峰なゆか プロフィール>
まんが家。女性の恋愛・セックスについての価値観を冷静かつ的確に分析した作風が共感を呼ぶ。『アラサーちゃん 無修正』(全7巻)、『アラサーちゃん』(KADOKAWA)はシリーズ累計70万部超のベストセラーに。近著に『痴女レッスン』(原作・乃亜、集英社刊) 2019年から「週刊SPA!」で連載中の『AV女優ちゃん』が2020年12月に単行本第1巻が発売され話題に。

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北原みのり

北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めてフェミニストが経営する女性向けのプレジャートイショップ「ラブピースクラブ」を始める。2021年シスターフッド出版社アジュマブックス設立。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)・佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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