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捨ててゆく私 「アンチスーツ派」

茶屋ひろし2022.08.31

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去年の夏、久し振りにTシャツを買いに行ったらⅤネックがない。百貨店のいくつかの店を巡りましたが丸首ばかりです。しかもかなりしっかりとした幅広いゴムの。暑い時期に首周りは解放されていたい、そんなささやかな望みのⅤネックです。若い店員さんに聞いたら首を傾げられました。まるでずいぶん前からⅤネックのTシャツなどありませんよ、といった感じで。

そうなんだ~! と一人驚いている合間に、このシャツは襟足に汚れがつきにくくノーアイロンですよ、と勧められるままダボっとしたシャツを2、3枚購入してしまいました。
そういえば今の若い男子はだいたいこういう大きめのシャツを着ていました。これは体型が隠せるという利点があるからかしら。あと、着てみると肌に張り付かないので案外涼しいかも、なんて。
ただ、40代後半で20代の人たちと同じ格好でいいのか、という問いもあり、小綺麗だったらいいと思うの、と一人で答えて、今年はさらに数枚購入しました。

夏は暑い。せめて軽くて風通しのいいものを着ていたい。ところがこの夏は急にスーツを着る機会が増えてしまいました。
スーツは嫌いです。夏は暑いし、冬は寒い。なぜこんなものを着なければいけないのか。スーツを着るとちゃんとしているなんて誰が決めたのか。その誰が決めたのかもわからないことに、なぜこんなに大勢の人が唯々諾々と従っているのか。軍隊の名残なのか。どこまで続く泥濘ぞ。

ぶつぶつ言いながらスーツ屋に行って、店員さんに「2022年夏、そろそろ涼しいスーツは出来ていますか」と尋ねたら、「ありますよー」といとも簡単に出てきました。

確かにこの素材は、いま履いているパンツに近い……そして紐パン?
「紐の部分が気になられるなら中に入れ込んでベルトで隠していただければいいと思います」とな。
大丈夫ですか、なんちゃってスーツ。ちゃんとしているように見えますか、とマネキンを見たら、あーぜんぜんそれなりに見えるかも、ということで、色違いを二着購入しました。
こうなったらいっそ足元もスニーカーでいっちゃおう、と白い紐靴も頼みました。あれ、けっこうかわいいんじゃない、この格好。

ということで、炎天下の営業周りに勇んで出かけたら同行した兄から早々とため息をつかれました。
「今日のところは仕方がないけど、ちゃんとした格好をしないと、会社の信用をなくすから。そんなことで信用をなくすのはもったいないから」
と矢継ぎ早に言われました。
そう言われることはわかっていてやっているので反論はせず、信用信用って、この合理的な格好でなくなるようなものなのか、と脳内でつぶやきました。寄せてやっているだけ、感謝されてもいいくらいだわ。
世間に合わせることが人生だと考えている兄と、そこからいつも脱出を図りたい弟です。

そんな世間と闘っていたら、7月初めに飛び込んできた安倍元首相暗殺のニュース。「殺したくても殺したらあかん!」とそのときは背景を知らずに思いましたが、統一教会が出てきて容疑者の半生を読み進むうちに、「因果応報」という言葉が浮かびました。一国の首相の票集めのために繋がっていたカルトが、自国民を苦しめていたという事実。

日本会議とか右派の流れはつかんでいたつもりでしたが、ここで統一教会が出てくるなんて思いもしませんでした。二年前に旧統一教会について書かれた本が店に入ってきましたが、まったく過去のものだと思って中身をちゃんと見ていませんでした。それくらい私の中では消えていました。
原発事故が起こってようやく向き合った過去にもリンクします。

それにしても、先の戦争で日本がしたことを悔い改めよ、という教義でせっせと日本人から金を集めて韓国へ送金していたという旧統一教会と、朝鮮・韓国人差別をほったらかしにしてきた安倍政権と、どう整合性がつくのか。
今回の事件で統一教会が出てきたときに、存在基盤が揺らいで「ネトウヨ」と呼ばれる人たちはついに消えてしまうのかと思いましたがまだ健在のようだし、ねえ、あなたたちは、反政権にはなんでも噛みつくのが仕事なの? それともカルトの被害者なの? と匿名の人たちに聞いてみたい気分です。聞きませんが。

そういえば去年、百田尚樹の本を批判するツイートを店のアカウントでしたときに、非通知で店に電話をかけてきた変な人がいました。

最初から何を言っているのかつかみかねていたのですが、それでも初めのうちはまだ文章になっていて、「なぜあんなことを言うんですか。百田さんの本は間違っているかもしれません。でも間違っていてもいいじゃないですか。あなたは共産党を支持しているのですか」といった感じだったのが、その後、受話器を取ったとたんに「キョウサントー!! キョウサントーはニホンから出て行け!!」とひっくり返った声で怒鳴るようになっていました。

いったいどうしたっていうのよ。
無言でそっと受話器を置いて時計を見れば夜の8時、今日は金曜日の夜。彼がどういう生活をしているのかはわかりませんが、一週間の仕事が終わってお風呂に入って夕食を済ませて、電話をかける相手が見知らぬ本屋の人間で、しかもいきなり怒鳴る、ってどういうことなのフライデーナイト。

なにかの思想や人物に依存するということは他人との距離感がわからなくなってしまうことなのか。ツイッターはそれを増幅させる装置でもあるのか。

うーん、とりあえず私は今後、スーツでの営業周りをやめていこうと思います。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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