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TALK ABOUT THIS WORLD ドイツ編 みんな「One Love」で盛り上がれないワールドカップ

中沢あき2022.11.25

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11月23日に行われたサッカーワールドカップのドイツvs日本戦。正直、日本は結構いい線いくけど勝てないだろうなと思っていたら、なんと中盤から日本のほうが動きが良くて、勝った。2点目以降なんて、素早いパス回しがうまく効いて、へえ、日本もよくやるようになったなあと感心。ドイツチームが本調子じゃなかったという意見もあるけど、日本の動きが良かったのは大きな勝因だと素直に思う。

なんて書いているが、我が家は正統なサッカーファンではない。でも4年に1回のワールドカップの時だけは、盛り上がる。夫も私もにわかファンになる。普段は夜中に夫しか見ないテレビがサッカーの試合を映し出す。今のところ、子どもにはテレビは見せない(でもYouTubeを見せてしまうのであまり意味ないですが)主義の我が家も、昨年のサッカー欧州カップの試合中継の時にはルールを解禁した。子どもも、ドイツ国旗のシールタトゥーができると楽しみにしていた。国旗そのものは、ときとして愛国主義や極右のシンボルにもなりかねないから、国旗の見せ方についてドイツ人は敏感だ。

と言いつつも、以前のワールドカップの時に比べると、いまひとつ気持ちが盛り上がらない。我が家だけではない。街に出ても、なんというかワールドカップにまつわるものが目や耳に入ってこない。コロナ禍明け、本来ならドイツでは街のあちこちで大騒ぎをしているはずなのにどうも盛り上がりに欠けるのだ。

いつもの開催時期なら夏の太陽の下で騒ぐのに、冬の寒さで騒ぐ気になれないのもあるだろうが、もう一つはカタールという「異文化」の国で開催されることだろう。「異文化」というのは、イスラム教の戒律に則って、現地では酒の販売は限定されるし羽目をはずした騒ぎはできないとかいうだけではない。

サッカースタジアムの建設に際して、工事に従事した多くの外国人労働者が死亡したりという搾取があったことや、同性愛を禁じ厳しく取り締まる国の人権問題が兼ねてから報道され批判され続けてきたままで開催に至ったことが、人権問題に敏感なドイツや欧州の社会の関心を引き下げたことは大きい。

いやむしろ、別のベクトルで関心は上がり続けている。

ドイツにとって初戦となる23日の試合では、昨年の欧州カップの時には虹色のアームバンドが巻かれていた、ドイツ代表キャプテンのノイアーの腕に何もなかった。

本当なら、彼の腕には「One Love」と書かれた、虹色のハートマークのついたバンドが巻かれているはずだった。「差別を乗り越えて皆で一緒に」という願いが込められたこのバンドは、ドイツをはじめ、イギリス、フランス、オランダ、ベルギー、スイス、デンマーク、ウェールズなどのチームが着用を予定していたのだが、ワールドカップ開催直前になって、FIFAが着用を禁止した。理由は「政治的メッセージをスポーツに持ち込むべきではない」というFIFAのルールに抵触するという理由からである。

そもそもサッカーをはじめとするスポーツは、公平さをモットーとし、そのシンボルや手本であろうとしてきた。原理的なイスラム国家であるカタールでは女性の社会的地位は低く見られ、そしてLGBTQの権利はまったく認められていない中、彼らが身につけようとしていたキャプテンマークの「One Love」の虹色マークは、主催国であるカタールへの配慮としてFIFAから着用禁止が出たということである。これにはドイツのメディア、世論が大反発した。

しかし結果として制裁を恐れたドイツサッカー連盟や選手たちも着用を断念せざるを得なかった。

カタールは原油の産出国であり、現在戦争の影響でロシアからのエネルギー供給が停止したドイツが大いに頼る先である。今年、ドイツをはじめとした欧州各国の首脳陣はカタール詣をした。その際もドイツのマスコミは、人権侵害が行われている国へひざまずいたとして批判していたのだ。この「One Love」の報道が出た時、ふっと既視感がわいたのは、このカタール詣でや、東京オリンピックで露呈したIOCのことを思い出したからだ。金まみれになったスポーツのなんとへっぽこでつまらないことか。そこに巻き込まれていく選手たちも気の毒としか言いようがない。こんなんだったらもうオリンピックもワールドカップもいらないと思う。そんなことを思うのは私一人だけではないんだなと、普段と変わらぬ街の冷めた雰囲気を見て感じる。

試合前日、「ワールドカップだから、今日は保育園でサッカーやったの!」と帰宅して興奮気味に話した我が子は、夫と出かけた買い物先でワールドカップの関連グッズをもらってきた。それは、ドイツ代表選手たちの写真がプリントされた見開きのファイルで、そこに買い物するたびにもらえる代表選手の写真のカードを集めて貼っていくというアルバムみたいなもの。ドイツ最大手のチェーンスーパーREWE(レヴェ)が、ワールドカップに合わせて作ったグッズで、本来だったら10ユーロ(約1400円)もするのだそうだ。が、この「One Love」禁止騒動を受けて、REWEはグッズの販売をボイコット。余ったものとして無料で配布していたのだという。REWEは元からブンデスリーガチームのスポンサーでもあり、ワールドカップや欧州カップなどのたびに関連グッズを販売してきたのにそこに縁切りされるとは相当である。金と権力に屈服したFIFAは恥を知れ。「みんな(One Love)」で盛り上がれないイベントなんて、おもしろくない。東京オリンピックもそうだったが、選手もファンも蚊帳の外に置いたイベントがいかに空しく、浅はかでダサいことか。

23日の試合直前の集合写真で選手たちは、口を手で塞いだポーズを取った。言論の弾圧への抗議である。そして選手の代わりに、応援に駆けつけたドイツのフェーザー内相は観戦席でこの「One Love」のアームバンドを巻いた。ドイツサッカー連盟はFIFAに対して今回の処置は違法になり得ると裁判に出る案も検討しているとか。

彼らの抗議の姿勢が少しでもカタールの人々に届くように、世界の皆に広がるようにと願う。



写真:©Aki Nakazawa
子どもがもらってきたフォトファイル。あらためて代表選手のラインアップを見ながら、まだ活躍しているベテラン選手たちのデビューを思い出したりしてます。ノイアーやミュラーはもうこれが最後のワールドカップかな。一方で日本の代表チームはもう知らない顔ばかり。でも若い人たちの表情を見ていると、スポーツっていいなと思います。その真の心はね。いろいろと1回、リセットしたらいいんじゃない?と東京オリンピックに続いて思うのでした。
ちなみにサッカーの歴史の中で、日本の蹴鞠について紹介されているのには目がウロコだわ!

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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