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2022年12月。経口中絶薬の「承認申請」を待っていた1年前と変わって、今度は「承認」が下りることを女性たちもメディアも待ち構えていた。ところがちょうど1年目の22日を過ぎ、クリスマスも終わり、年末年始がやってきた。年が明け、いったいどうなっているのだろうと誰もが思い始めた。1月下旬になってこっそり(と言ってよいだろう)厚生労働省は「薬事・食品衛生審議会 医薬品第一部会を開催します」という1月13日付の開催予告のサイトにリンクされている[審議事項]の記載を1月20日に書き換えた。

この部会は定期的に開かれている会合で、全2時間しかない審議時間のために、すでに7つも議題が上がっていた。にもかかわらず、議題8として「医薬品メフィーゴパックの生物由来製品又は特定生物由来製品の指定の要否、製造販売承認の可否、再審査期間の指定及び毒薬又は劇薬の指定の要否について」という一文が書き加えられたのである。

だがこのとき、「メフィーゴパック」とは経口中絶薬のことだという記載は厚労省のどこにもなかった。しかも、ラインファーマ社が承認申請した薬の名称は「メフィーゴパック」に決まったということすら特に発表もしていなかった。私は新聞記者からの知らせと、仲間が目ざとく見つけてきた医薬品専門紙の情報の断片(有料記事の最初の無料で公開されている部分のみ)、そこで1月27日の上記「部会」で審議が行われることを知った。SNSを駆使してそのことをできる限り発信して広めた。でも、もしあのとき、部会で審議されることを見逃していたら、誰も何も知らないうちに「経口中絶薬は承認された」と厚労省が素知らぬ顔で発表し、肝心の詳細は後々まで明かされなかったのではないかと疑っている。その肝心の詳細とは、メフィーゴパックが中期中絶薬「プレグランディン」と同等の厳格な取り扱いになるということだ。

昨年、プレグランディンが1984年に承認に至るまでの顛末(次回以降に説明する)を調べ上げたときから、経口中絶薬メフィーゴパックが、プレグランディン同様の「劇薬」扱いにされるのではないかと私は疑ってきた。だから、昨年11月にASAJ(#もっと安全な中絶をアクション(Action for Safe Abortion Japan)〈国際セーフ・アボーション・デーJapanプロジェクト〉から生まれたグループのこと)で開いた院内集会で、厚労省の薬事審査担当者が「中期中絶薬プレグランディン」を引き合いに出して経口中絶薬の審査に活かしているとうっかり口を滑らせ、別の役人があわてて否定してみせた瞬間から、そうなることをほぼ確信してきた。なので、1月27日の部会では「承認」されるのは当然だと思いながら、「劇薬指定」されるかどうかに最も注目していた(生物由来製品には該当しないはずだと踏んでいた)。

そして、1月27日、厚労省の薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会が開かれた。審議内容はすべて非公開だ。この日の「部会」直後に、報道陣のみに公開された記者会見の結果を、その場にいた新聞記者の一人が私にすぐさま送ってくれた。その結果、「承認して差し支えない」との結論が出たとしながら、厚労省は「社会的な関心が極めて高い」という理由で、薬の管理方法などについてわずか5日後の2月1日からパブリックコメント(以下、「パブコメ」)の募集を1カ月間行った。その結果も踏まえて、部会より上位の薬事・食品衛生審議会薬事分科会で最終的な結論を出すと発表されたことを知った。マスコミはすぐにこの結果を報じ、早ければ3月の分科会で承認されるのではないかと推測する新聞記事も出た。

2月1日、私は朝から厚生労働省のサイトにアクセスして、パブコメ開始の知らせが出るのを今か今かと待っていた。午前中は何もなく過ぎ、昼が過ぎ、夕方になってもまだパブコメは始まらない。私はいったんパソコンの前を離れた。またしても肩すかしだ。午後10時頃、再びインターネットにアクセスしたときには、ようやくパブコメのサイトが開いていた。本来は2月1日の0時から開始されているべきパブコメが半日以上も開いていなかったことは間違いなく、実質的な期間短縮であったことも非常に問題がある。

しかも、驚いたことに最初のパブコメ募集の画面では、「「メフィーゴパック」の医薬品製造販売承認等に関する御意見の募集について」としか書いていなかった。これでは、経口中絶薬の製品名がメフィーゴパックだとはっきりわかっている人しかたどり着けない。「経口中絶薬」に関してパブコメを出したいと思った人がいても、パブコメのサイトを見つけられなくなってしまう。またしても肩すかしだ。

私はすぐさまSNSで、中絶や中絶薬といった言葉を全く使うことなくパブコメが開始されているという事実を広めると同時に、そのような形を取った厚労省をくりかえし批判した。「いいね」が付き、リツイートも広まった。すると2月6日、パブコメのタイトルが「経口中絶薬『メフィーゴパック』の医薬品製造販売承認等に関する御意見の募集について」に変わっていた。何の報告もなければ謝罪の言葉もない。

さらに、このパブコメでは手放しで意見が求められていたわけではない。資料として提示された「1.メフィーゴパックの概要」の中に、製造販売後の管理方法の案として以下の4点が掲載されていた。

【製造販売後の管理方法について(案)】
●本剤の流通は、「妊娠中期における治療的流産」に適応を持つ「プレグランディン腟坐剤」と同等の厳格さをもって管理する。
●本剤の投与(ミフェプリストン経口投与及びミソプロストールの口腔内への静置)は、母体保護法指定医師による確認の下で行う。
●本剤の使用状況は、「プレグランディン腟坐剤」と同等の厳格さをもって記録・管理する。
●本剤による人工妊娠中絶は、緊急時に適切な対応が取れる体制を構築している医療機関で行う。なお、公益社団法人日本産婦人科医会との協議において、本剤販売当初は国内での経口中絶薬の使用経験が乏しいことを考慮し、十分な使用経験が蓄積され適切な使用体制が整うまでの間、有床施設において外来や入院で本剤が使用する。

簡潔に整理すると、「厳格な流通管理」「母体保護法指定医師による投与」「厳格な使用状況の記録・管理」「緊急対応が可能な医療機関に限定」するという案についての意見が求められているように読める。しかもこの4点のうち2点までが現行の中期中絶薬「プレグランディン」の厳重な取り扱いに合わせるとされているのだ。さらに、4つ目の案件の「なお」で始まる第2文に至っては、案文というよりも既決事項を述べているように読める。

結局、私の懸念は当たっていたことになる。仮に承認されたとしても、「危険な薬」としてプレグランディンと同等の「厳重管理」が行われるということなのだ。指定医師しか投与できず、厳格な管理を行うことでコストが高くなり、当事者にとってはアクセスが悪い薬になってしまう。しかも、そのような管理にすることを「承認」を求めている一般の人々に広く公開しないままに、話を進めようとしているのだ。これもまた肩すかしと言わずにはいられない。

それでも、「承認」してもらわないことには話は始まらない。なぜなら、日本では製薬会社の側から「承認申請」が行われないことには新薬は入ってこないからだ。今回、ラインファーマ社の側から承認申請が行われたことで、初めて日本に「経口中絶薬」が入ってくる可能性が開かれた。逆に言うと、ラインファーマ社が申請を取り下げてしまうと、この薬が日本に入ってくる道は閉ざされてしまう。世論が「経口中絶薬の承認」を求める方向に傾いている今、どういう形であろうとまずはメフィーゴパックが承認される必要がある。そうしないと、今後、より廉価なジェネリック医薬品が入って来る可能性も消えてしまうのだ。

(中絶薬は承認されるか(下)」に続く)

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塚原久美

塚原久美(つかはら・くみ)

中絶問題研究者、中絶ケアカウンセラー、臨床心理士、公認心理師

20代で中絶、流産を経験してメンタル・ブレークダウン。何年も心療内科やカウンセリングを渡り歩いた末に、CRに出合ってようやく回復。女性学やフェミニズムを学んで問題の根幹を知り、当事者の視点から日本の中絶問題を研究・発信している。著書に『日本の中絶』(筑摩書房)、『中絶のスティグマをへらす本』(Amazon Kindle)、『中絶問題とリプロダクティヴ・ライツ フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房)、翻訳書に『中絶がわかる本』(R・ステーブンソン著/アジュマブックス)などがある。

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