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捨ててゆく私 ソシキの品格

茶屋ひろし2023.04.30

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年が明けて、久しぶりに社員を募集しました。出版部の営業と、もし凄腕がいたら編集も一人欲しいな、という感じでした。
ネットの媒体に載せてもらい、メールで応募が来ると履歴書をチェックして、気になった人を選んで連絡するスタイルです。

履歴書で判断する項目は学歴と職歴と志望動機くらいですが、それだけでも学生さんから60代の人まで、さまざまな人生を垣間見た気になります。
今回気になったのは、二年くらいの感覚で転職を繰り返している人が多いな、ということと、みんないろんな資格を持っているんだな~、ということでした。

私は50歳を目前にして、いまだに何の資格も免許も持っていません。英語も話せないし、パソコンのエクセルも使いこなせるほどではありません。しかもやる気もねえ。
人さまの履歴書を選びながら、逆の立場になったら速攻で落とされるわね……という現実も身に沁みます。

それにしても転職を繰り返しながら資格を増やしていく人は、この仕事がしたいというより、広範囲の職種に選ばれる自分になりたいということかしら。そうやって給料を上げていきたいとか。
それとも、いやそんなことじゃねえんだわ、何にもしてねえと誰も採ってくれないんだわということかしら。

たくさんの資格を持つ女のドラマといえば、篠原涼子の「ハケンの品格」と渡辺えりの「100の資格を持つ女」がありましたが、あれは、多くの資格を持つことで非正規でも主張できるようになった人と、潜入捜査に都合よく使われる刑事課事務の人(Wiki調べ)の話でした。

篠原涼子のほうは短期間で稼いで長期間休んで旅に出るような役でしたが、派遣先の会社になめられないために語学や資格を取得していたというイメージです。
非正規雇用の問題を扱うドラマというより、その不条理を勝ち抜くヒロインを誕生させたドラマでした。

まあでも、かつては、何かこういうふうに生きたいから資格を取るという感じだったと思いますが、今は、これくらいの資格がないとできる仕事が限られるのではないかという不安があって、目的がひっくり返っているようにも見えます。

それでも選ぶ側からしたら、営業の実地体験だけではなくて、簿記もできてアドビも使えて車も運転できるのね! となると採用したくなるので現金なものです。
そんな技術面にばかり目が行っていたら、古参の社員さんから「社長、そんななんでもできそうな人を雇っても、ウチがそこまで仕事を振れるのかという問題があります」とたしなめられました。

そうですよね。面接は駆け引きですから、入社したらなんでもやってくれそうなことを言ってくれますが、その人が実際にウチで働いてみて、労働条件に自分のレベルが見合うかどうかを計るのは当然のこと。
最終面接まで進んだ、そのいろいろできそうな女性は、希望年収が折り合わず、お断りすることになりました。

公募してきた人は9対1の割合で編集希望が多く、そちらはなんとかベテランさんを雇えたのですが、営業どうするよと頭を抱えました。
事情があって去年の秋から営業がいなくなってしまい、この三カ月、経理と編集の人、そして社長の私が手分けして営業の仕事をこなしてきたのでした。

まあ、いきなり知らない会社に入って、実はウチ営業がいないんですよって言われてもびっくりするだろうし。これまでの蓄積とこれからの売り方は私たちも模索しているところだし、いっしょに考えようよ、なんてことは、ある程度の関係性ができていないと響かないだろうし。ああ、やっぱりこういう小さな会社はツテやコネが一番なんだなーと求人会社に支払った金額を後悔していたら、先ほどの社員さんから「人事異動でなんとかなりませんか」と提案を受けました。

なるほどと膝を打ちました。
ウチの会社の社員さんは、書店と編集部、営業部、経理部にそれぞれ所属しています。昔は編集や営業の人も店番したりしていたと聞いていました。
二年前に書店で採用した、某大型書店で20年働いてきた女性に白羽の矢が立ちました。
出版営業の経験はありませんが、「仕事の経験」は豊富な人です。なにより問題が起きたときに、誰かを責めるのではなく、どうしたら解決できるかを真っ先に思案することができます。
しかもそのための提案が次々に浮かんで、それを穏やかに伝えることができるという優れた人です。
会社の事情や人間関係も理解してくれているし言うことないねとお願いすることになりました。

公募して新しく出会う人を採用する、という行為は互いに結構リスキーなことなのねと今回の件で思いました。

そして、新しい資格を取り続けて常に求人会社に登録しながら条件のいいところを探している人たちは、自分が経験したことに値段をつけてそれを売り続けているのかもしれません。
組織に属しているけれどみな一人経営者、商品は自分……。

疑いもせずに一丸となったり忠誠を誓ったりする組織論は苦手ですが、同じ仕事を複数ですることの安心感や信頼感みたいなものは、もっと打ち出していってもいいような気持ちになりました。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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