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【今月のマモルくん】第二回 「愛妻家」という名の束縛夫型・マモルくん。

牧野雅子2015.02.24

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J氏(50代)は、社内でも有名な「愛妻家」なのだそうだ。結構名の知れた会社の管理職。専業主婦の妻と、郊外の一戸建てで暮らす。子どもはいない。
友人がJ氏と同じ会社に勤めており、かねてから噂は聞いていた。「いっぺん、話、聞いてみ。ザ・オヤジな人やから」と彼女に勧められ、お会いすることに。
J氏が愛妻家と呼ばれるのは、仕事中でも、常に妻を気にかけているから。地震が起こればすぐに電話で無事を確認する。天気が悪ければ、車では出かけるなと念を押し、出張の時には、数時間おきにメールを送る。宅配便業者を装った強盗事件がニュースで流れたときには、来客があってもドアを開けるな、居留守を使えと厳命したのだという。
J氏いわく、「妻のことが心配で」。
お連れ合いは大学時代の友人だと聞いた。ということは、彼女も50代。大人の女性じゃないですか、それくらいの判断力や行動力はお持ちでしょう、とわたしが言えば、「自分が会社にいるときには、彼女を守れないから」と、J氏はのたまう。どんだけ心配性やねん、と言いそうになったが、ちょっと待て。
妻の行動は完全に把握。いつ、誰と、どこで会っていたのか。その上、外出しても、夫の帰宅前には帰ること。外泊は実家への帰省以外原則禁止。それって、籠の中の鳥っていうか、ほとんど軟禁状態なんでは? なのにJ氏は、妻は自由を謳歌しているはず、と言う。料理教室に通わせてやってるし、月に1回の美容院通いも許しているし、季節ごとに服も買ってやっている……等々。
これら内容も酷いが、その語り口の偉そうなことといったら! 通わせてやってる、ですよ。やっている、って。許している、って! ああ、ご主人様、シモジモの者は聞いているだけでも十分に辛うございます。
ここでイヤでも思い出すのが、イプセンの戯曲『人形の家』だ。自分を人間扱いしない夫との生活を捨て、家を出る女ノラの話。もう21世紀だというのに、人形の家はそこここにある。先日も、電車の中で制服女子高生が話しているのが耳に入ってきた。彼氏に束縛されているみたい、これって愛されているってこと? 思わず、「そんな男、やめた方がええでー!」と割って入りそうになったわたしであった。
J氏は、家事に全く疎い。洗濯機の使い方も知らないし、醤油や砂糖がどこに入っているかも知らない。ボタン付けは言うにおよばず。それが「自慢」なんだそうだ。家では何も出来ないことがどうして自慢になるのか。自分の無能ぶりを公言しているようなものだと思うんだけど。
妻は家事に万能で、家を隅々まですばらしく整え、料理の腕も相当なものらしい。だから、自分は家では何もする必要がない。ソファーに寝転んで、テレビでスポーツ観戦をするのが楽しみという。
彼女が体調を崩したらどうするんだろう、そう聞いたならば、「あいつは丈夫だから」。 ハナから、自分は家事をする気がないし、妻をケアする自分を思い描かない、ということなのだろう。誰だって、調子の悪いときはあるし、いつ何が起こるかは分からないというのに。っていうか、そこは守らないんですかね?
家でのJ氏の行動を聞くにつれ、彼がとてもじゃないが「妻を守っている」とは信じられなくなった。守るどころか、何もしていない。妻のことが心配なのも、自分の世話係がいなくなると困るからじゃないか。
それって、守ってるってことでしょうか、と、批判と不満を疑問の形でぶつけてみる。
「いざとなったら、やったるさかい」。
J氏は若かりし頃、柔道でならしたのだという。で、賊が入ったら(いつの時代の言葉だ!)組み伏せるのだと。だけど、そのシチュエーション、一生に何度あるというのだろう? っていうか、そこは普通に警察呼ぶところだから。警察官でも、警察呼ぶから! ありもしない「いざとなったら」と引き替えに、自分の世話をさせるために妻を管理する。それってほとんど詐欺じゃないですか。
ところで、お連れ合いの楽しみは何だろう、趣味は、今ハマっていることは?
「知らん」
彼女の行動は管理するくせに、彼女が何に興味があるのか、何をしているのかには関心がないらしい。同じ家に住みながら、違うものを見ているんだ、この夫婦は。だから、妻の考える「いざ」と、J氏の思う「いざ」はきっと違う。妻が何に関心を持っているのか、知ろうともしない無関心夫に、妻の「いざ」が分かるとは思えない。
せっかくなので、J氏に「『人形の家』っていう戯曲をご存じですか?」と聞いてみた。「人形の家? 聖飢魔IIの歌かなんかか?」。 そうそう、お前も蝋人形に……って、ちゃいますがな! と、関西人のサガでツッコんでしまった自分が悲しい。
気を取り直して、今度は、「お連れ合いは、まるでペットのようですね」と嫌みに軽蔑を込めて、失礼かもしれないと思いつつ、怒られるのを覚悟で言ってみた。ら、どうしたことでしょう、返ってきたのは「そんなに可愛いもんやないでぇ」。それも、笑顔で。すごいわ、嫌みも通じやしない。こんなオヤジは、蝋人形にしてくれるわ!

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牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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