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この季節には必ず読み返している、忘れてはならない「マモルくん」の物語

牧野雅子2016.08.25

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 古い話で恐縮です。その昔、「キャンディ♥キャンディ」という漫画がありました。雑誌『なかよし』で連載されて大ヒット、アニメ化もされて、40代以上なら、「そばかすなんて、気にしないわ♪」と始まるテーマソングを覚えている人も多いはず。残念ながら、単行本は諸般の事情から絶版になってしまって、今は手軽に読むことが出来なくなってしまったのだけど。
 お話の舞台は、20世初めのアメリカとヨーロッパ。孤児院出身の少女キャンディが、様々な困難にもめげず成長していく物語で、韓流ドラマ「冬のソナタ」が参考にしたという話もある。興味のある人は、オークションや古本屋で探してみて。
 連載開始から40年以上が経った今でも、折に触れて頁をめくり、とりわけ、この季節には必ず読み返している。わたしにとって、忘れてはならない「マモルくん」の物語だから。

 登場人物の一人に、発明好き眼鏡男子のアリステア・コーンウェル(通称ステア)がいる。夢は飛行機を作ってそれを操縦すること。キャンディの良き理解者で、パティというイギリス人の恋人がいる。第一次世界大戦が勃発すると、彼の国アメリカはまだ参戦していないにもかかわらず、「パティを守るため」にフランス空軍の志願兵になり、戦死してしまう。
 なぜ彼は「恋人を守るため」に戦争に行き、死んでしまわねばならなかったのだろう。生きて帰ることが出来ると思って、志願したのだろうか。死ねば、何より恋人が悲しむ。それは、「彼女を守る」ことと対極にあるはずなのに。雑誌に掲載されていた漫画を読んでいた小学生の頃からくすぶり続けている疑問だ。もちろん、これは漫画であり、架空のお話であり、原作者は女性で、想定されている読者も女性で、だから、女性が読みたい物語なのだということは可能だ。女性の、女性による、女性のためのファンタジーで、実在のマモルくんとは違う、と。でも、こうした「女を守る」男の物語を欲するわたしたちが、マモルくんを生んでいるのだとしたら? 「きみを守りたい」にぐっときてしまうわたしたちの中にマモルくんが住んでいるのだとしたら? 恋人を守るために戦争に行くという動機を、そうした戦争の物語を、他ならぬ自分が欲していたとしたら? それを甘美な涙と共に読みたかったのだとしたら?

 「男ってのは恋人や妻や愛する家族をまもるために戦場にいくんだ」「平和だね。よその国では戦争だというのに……申し訳ない気分だ」
 ステアのこうしたセリフに、青年の正義感を見てしまう。若い志を読んでしまう。そして、恋人に宛てた手紙の中で書かれる、彼女を、彼女のふるさとを守りたいという気持ち。
 「たいせつなパトリシア まさかぼくをおこったりうらんだりしないだろうね この手紙を書きながらきみの笑顔を思い浮かべています…… ぼくが空軍に志願するのは飛行機にのりたいだけじゃないってことわかってほしい……」「よその国でのたたかいはぼくにとってじっとしてはいられないものだけど レディーのきみにはいつも平和であってほしい……」「この手紙がつくころにはぼくはフランス空軍の一兵士 ぼくの飛行機できみのふるさとがまもれるよう……」
 戦地で「そんなにすきな恋人がいるのになぜ志願したんだ?」と訊かれて語る、志願の動機。
 「ぼくが飛んでたアメリカの空は平和だった だけど……おなじ空なのにそのかたなではたたかいがくりかえされてると思うと……」「いやだったんだ じっとしているのがじぶんではがゆくて……」「それでこっちの空が平和になるのを見とどけたくてね……」「パティ……ぼくもきみのふるさとをまもる」

 友人の死を前にしてステアは気付く。「これが戦争なのか!」諦念とも疑問ともとれるセリフだ。恋人を守る、祖国を守るという「美しい」物語に取り込まれて流されて、死に直面したその時に知っても遅いのだ。そこで問うても遅いのだ。けれど、死とは戦争とは、きっとそういうものなのだ。美化され、英雄視され、煽られ、そして、隠されて。
 恋人を守ることとは、敵を撃ち落とすことではない。その敵にも、家族や友人や恋人がいる。たとえ敵を撃ち落としても、亡くなった人たちは帰ってこない。新たに悲しむ人を増やすだけだ。そのことをステアはかみしめる。友人が腕の中で死んだとき、雲の上を敵機から逃れながら。
 読者にとって救いなのは、ステアが誰も殺さなかったこと。彼が、守るという使命感にかられ、友人の敵を伐つという復讐心に燃え、上官の命令に忠実に敵機を墜としていたのなら、わたしたちはきっとそれ以上読むことが出来なかった。だから、ステアを撃ったのは、きっとわたし(たち)だ。彼が戦争で勇敢に戦い、敵機を次々に撃ち落としていったのなら、わたしたちの物語は終わる。わたしたちの物語を紡ぎ続けるために、ステアには死んでもらわなければならなかった。

 マモルくんを求めてしまう気持ち、マモルくんの物語に美学を見てしまう危うさから、目を反らさないでいたい。安易な物語に絡め取られないために。わたしたちが加担しないために。
 敗戦から71年の夏。平和に、戦争というものに、思いを馳せる夏。

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牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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