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「だから、気を悪くしないで下さい、って言ったでしょう」

牧野雅子2016.09.21

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 「気を悪くしないで下さいね」このセリフを聞くのは、何度目だろう。
 何人ものマモルくんたちに話を聞いていると、彼らの語りには共通点があると気付く。暴力を振るったことを直截な表現ではなく「傷つけた」と表すことや、自分に都合のいいように言葉を定義すること、自分こそが被害者であるかのように語ること……。「気を悪くしないで下さい」というフレーズの多用も、その一つ。

 あるDV加害者の、それも、妻と交際相手の二人に暴力を振るっているT氏(40代)の話を聞いたときのこと。とはいえ、初めからDV男だと知って話を聞いたのではなく、まったくの別件で知り合い、仕事の話から何かの拍子に「付き合っている人がいる」という話になり、手をあげたことがあるとかいう話になったのだった。
 既婚者で、妻とは別に交際相手がいるということを、自慢げに話す男性は結構いる(注:牧野調べ)。そして、妻や恋人に暴力を振るったことを、これまた自慢げに話す男性も少なくない。T氏もそうだ。
 結婚してらっしゃるんですよね? お子さんもいらっしゃるんですよね? やんわりと言ってみたならば、T氏は、「気を悪くしないで下さいね」と前置きをして、語り始めた。

 結婚していながら交際相手がいるというのは、いわゆる「浮気」に当たるのだろうけど、そもそも、T氏はそれが悪いことだとは思っていない。彼に言わせれば、自分は恋愛をしていないと生きていられないのだそうだ。けれど妻はその相手にはなり得ない。恋愛は家族以外の人とするものであり、家族である妻は恋愛の相手ではないのだという。
 T氏の妻は、夫が「浮気」をしていることを知らない(らしい)。常々、他の女性と「お茶するくらいなら、いいよ」と言っているとかで、だから、T氏は、妻以外の女性と付き合うのは妻公認だと思っている。
 話を聞きながら、わたしはイライラを押さえられない。なんだ、この、自分に都合のいい解釈は。妻が言っているのは「お茶する」ところまでで、食事はおろか、その先なんて全然OKしてないし。なんで、「お茶するくらいなら、いいよ」が、「浮気は妻が公認」になるのか。
 わたしのイライラが伝わったのか、T氏は語気を強めて言う。自分は家族を守っている。彼女も守っている。だから、事情も知らない外野にとやかく言われる筋合いは、ない。
 「守っている」って、暴力を振るっている人が言う? それに、「守っている」の内容はといえば、家族のために家を買ったこと、子どもを「いい学校」に通わせていること、妻に車を買ってやったこと、交際相手には良い食事に連れて行ってやっていること等々、言っちゃあなんだけど、どれもカネの話だし。
 なんだか、札束でほっぺた叩いているイメージが浮かびますよ、守るどころか、さらに暴力を振るっているように聞こえますけど。そう言ってみたならば、T氏はすかさず、「だから、気を悪くしないで下さい、って言ったでしょう」。
 ああ、なるほど。それって、「俺の話を黙って聞け」っていう意味だったんですね。

 「気を悪くしないで下さい」の後には、当然、こちらの気が悪くなる話が続く。怒りを押さえられないような話や、落ち込んでしばらく立ち直れなくなるほどの話や、悪意があるとしか思えないような話や、「それ、差別ですけど!」な話が。
 でも、それを聞いて腹が立ったとしても、それは聞いた者のせい、なのだ。イラつく方が悪い。だって、気を悪くしないで下さいってお願いしたでしょ、怒られても困ります、と、受け取り方まで指定しているのだから。語りの内容に問題があるのに、聞き流さなかった受け手の反応の仕方がマズいのだと、語り手側の問題が受け手の感受性の問題にすり替えられる。お願いしている風、下手に出ている風を装いながら、その実、しっかりその場を支配している。
 だから、言われた方は、そりゃ、気を悪くします。言われた中身についてはもちろん、自分は批判されないポジションを確保して、失礼があっても謝罪しませんという前提で喋ってくる、そのやり方に。そうやって、主導権を握りたいんだな、上に立ちたいんだな。言いたいことを一方的に話す、相手をやり込める、力を振るうことも目的なんだな。その人の自己満足のために、力を振るいたいという目的のために、自分は利用されているんだな。そのことが分かるから。

 T氏は、わたしが聞いているかどうかお構いなく、ペラペラ喋っている。
 「気を悪くしないで下さいね」とさえ言っておけば、後は何を言っても許されると思っているんだろうか(だろうね)。「どんなことがあっても謝りませんよ」と言ってるようなものじゃないか(その通り)。言われた方はむかっ腹が立つ(当たり前だ)。
 ったく、気を悪くする自由すら奪おうっていうの? っていうか、そんなの、言われた方もコントロールできないから。でもって、聞いてしまったときには、もう後の祭りだから。イライライライラ。ああ、もう、言葉の呪いにかかった気分だ。

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牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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