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映画・ドラマに映る韓国女性のリアル (15) 済州4・3事件と女性たち ドキュメンタリー「石が語るまで」

成川彩2024.05.14

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多くの島民が虐殺された済州4・3事件から76年の今年4月、当時二十歳前後で収監されたおばあさんたち5人を追ったドキュメンタリー映画「石が語るまで」(キム・ギョンマン監督)が韓国で公開された。重い口を開き、悪夢のような経験を語り始めたおばあさんたちは、近年になって再審で無罪を勝ち取った。

済州4・3事件が起きた1948年は、8月に南に大韓民国、9月に北に朝鮮民主主義人民共和国が相次いで成立した年だ。南の単独選挙に反対する島民の蜂起を弾圧する過程で、多くの犠牲者が出た。その数は数万人、当時の島の人口の10分1に当たるとも言われる。1945年に日本の植民地支配から解放され、1950年に朝鮮戦争が勃発する間の混乱のなかで起きた事件だ。「共産暴動」として長い間タブー視されてきた。

事件の真相究明は民主化後に進み、2003年に「済州4・3事件真相調査報告書」が発刊され、当時の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が国家権力の代表として謝罪した。それですべて解決したわけではない。2017年以降、4・3事件に関して再審を通して無罪判決を受けた元収監者は約1200人に上る。収監されたというと、蜂起に参加した共産主義者と思われがちだが、裁判も受けずに収監された人も少なくない。



映画に登場するおばあさんの一人は、「刑務所に入ってホッとした」と話していた。刑務所の外にいたら殺されていたというのだ。おばあさんたちの証言はまさに「生き地獄」のようだ。銃を向けられたキム・ミョセンさんは「なぜ暴徒でもない私を撃つのか?」と銃をつかんで抵抗し、命を取り留めたという。ソン・スンヒさんは「銃で撃たれて死ぬのはまだ幸せなほう」と言う。槍で刺され、すぐには死なず、長く苦しんで死んでいく姿を目の当たりにしたからだ。

ソンさんは収監された時、幼い子どもを連れ、さらにお腹に赤ちゃんがいたが、2人とも死んでしまった。釈放されて済州島に戻ったが夫は行方不明、姑も亡くなっていた。仕方なく別の男性と再婚し、妊娠がわかった後に、元夫が生きて済州島へ戻って来たという。取り返しのつかない悲劇だ。

済州島といえば火山がもたらす美しい景観で知られ、世界自然遺産にも登録されている。映画ではその自然豊かな済州の風景とインタビューの声が重なり、海や山に眠る犠牲者の魂の声を聞いているような気がした。



過去を隠して生きてきたというパク・スンソクさんは「4・3に関して、私たちのような人がいたということが歴史的に残ってほしい」と、話していた。

パクさんの言葉に、2022年に日本で公開されたヤン ヨンヒ監督の「スープとイデオロギー」に登場したヤン監督のお母さんを思い出した。ヤン監督のお母さんは大阪生まれの在日コリアンだが、太平洋戦争中、空襲を避けて親の故郷の済州島に渡り、戦後、4・3事件に遭遇して再び大阪へ戻った。晩年まで4・3事件の経験を語らなかったが、ヤン監督の回すカメラの前で詳しい証言をした後、しばらくして認知症が進んで、事件について尋ねてもはっきり答えられないようになった。映画を見ながら、娘に託したことで安心し、記憶から消してしまったようにも感じた。



済州は大阪と1923年から「君が代丸」という船で結ばれ、多くの人が行き来した。ヤン監督のお母さんのように4・3事件で大阪へ逃れてきた人も少なくない。そもそも植民地支配からの解放が、南北分断へつながっていったのも、日本と深くかかわる歴史だ。キム・ギョンマン監督も「日本の人たちにも見てほしい」と話していた。大阪では上映会に向けた動きもあるという。

「石が語るまで」は2022年、韓国のDMZ国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞(勇敢な雁賞)を受賞し、2023年の山形国際ドキュメンタリー映画祭でも上映された。

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成川彩

成川彩(なりかわ・あや)

韓国在住文化系ライター。2008~2017年、朝日新聞記者として文化を中心に取材。2017年から韓国に渡り、ソウルの東国大学大学院で韓国映画について学びつつ、フリーのライターとして共同通信、中央日報など日韓の様々なメディアに執筆。2020年からKBS WORLD Radioの日本語番組「玄海灘に立つ虹」で韓国の本と映画を紹介している。2020年、韓国でエッセイ『どこにいても、私は私らしく(어디에 있든 나는 나답게)』出版。

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