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右傾化する副教材 ~軍隊用語が漢字の問題集に多用~

深井恵2018.07.11

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西日本を中心に豪雨災害で被災された方々にお見舞い申し上げます。この暑さの中での避難生活のご苦労も想像を絶します。このような甚大な被害が起きていながら、自民党の宴会写真をSNSに楽しげにアップする感覚には、呆れてものが言えない。さすが、W杯とオウム真理教元幹部の死刑執行のニュースに隠れて、水道民営化を含む水道法の改正案を衆議院で通過させる党のやり方だ。命に直結する水なのだから、もっとマスコミも報道すべきではないのか。伝えるべきことが伝わっていない。

さて、伝えるべきことと言えば、個人的に、皆さんに伝えなければならないと使命を感じたのが、次の事例である。

「陸軍のタイショウを務める」「攻撃のキョテンを確保する」「セイエイ部隊を派遣する」「グンジュ産業が成長する」「ギョライを搭載した潜水艦」「センケン隊と合流する」「負けてゾクグンの汚名を着せられる」「他国にシンチュウする」「苦しい戦況にもユウカンに戦う」「敵状を探るためにセッコウを出す」「おとり作戦で敵をアザムく」「戦没者のエイレイに手を合わせる」「戦闘機がミサイルにゲキツイされる」「銃にダンガンを込める」・・・

これらは、いま使っている漢字の問題集に全て掲載されている書き取り問題文だ。まだほかにもある。

「反政府組織をダンアツする」「叔父は陸軍のジュンショウだった」「軍艦にミサイルがトウサイされる」「太平洋カンタイが演習を始める」「敵のカンテイをすべて撃沈する」「戦場ではジュウダンが飛び交う」「戦地でリョシュウの身となる」「勇敢に戦ったが結局ホリョになった」「祖父はかつて陸軍のイカンだった」「従軍中はタイイの指揮に従う」「兵士が村にトンエイしている」「大統領は全軍のトウスイだ」・・・

これらは、まとまって同じページにあるのではなく、バラけてあちこちのページに掲載されている。集めてみると、強烈な印象だ。

漢字の問題集は、国語科の副教材として(学習材)として、一年生に入学した時に1冊、購入してもらうことが多い。前年度に選定し、新年度に間に合うようにする。たいてい、入学してから卒業するまで、3年間同じ漢字の問題集を使う。

昨年度異動して2年生の担当になったため、「2年生はこの漢字の問題集の何ページから始まります」と、引き継ぎで教えてもらい、問題集の途中から使い始めた。毎時間、国語の授業の最初に漢字小テストを実施する。1回のテスト範囲は、問題集の1ページ分。30問程度の問題の中から、10問選んで出題する。

毎時間、この漢字はぜひ読み書きできるようになってほしいなというものを選んで出題しているのだが、「なんだか、この問題文、変だな・・・」と思う文章が数多く掲載されている気がしていた。

以前から、ジェンダーの視点では漢字の問題集をチェックしてきていた。「この問題文を作った、その出版社の担当者のジェンダー感覚」が問題だと捉えていた。辞典の場合もそうだ。国語辞典の意味の書き方にしても用例にしても、その文章を書いた人自身のジェンダー感覚が、言葉となって表出されるので、「女は~」「男は~」という考え方の持ち主であるならば、ジェンダー・バイアスのかかったものとなる。

そう考えていたので、教科書会社や問題集の出版社の方が来校した際には、ジェンダー平等の視点も盛り込んで作ってほしいと必ず訴えるようにしてきた。しかし、いま使っている漢字の問題集は、それだけでは足りない傾向を感じた。それらは、「祖父へ」を主語としている問題文であることが多かったため、当初は、ひと昔前の古い感覚の持ち主が、この問題集の文章を考え、版に版を重ねて今日に至っているのではないかと考えていた。

だが、その問題集の初版は2009年。その後、2年おきくらいで改訂を重ねていた。初版が2009年であることに驚きを禁じ得なかった。軍隊用語だけではなく、結婚や出産、少子化を意識したような問題文も気になっていた。

「男の子がタンジョウする」「子供のセイタンを祝う」「兄の結婚式にレイソウで出かける」「婚礼のギシキを執りおこなう」「ケッコン式でスピーチをする」「上司の娘とコンヤクする」「不意にジンツウが始まる」「鳥類のセイショク機能を研究する」「ネズミのハンショク力はすさまじい」「彼がシンロウの友人です」「良いハイグウシャに恵まれる」「美しいハナヨメに見とれる」「姉のトツぎサキは町一番の旧家だ」「昔の貴族の結婚はムコイりが普通だ」「コンイン届けを役場に提出する」「人間のニンシン期間は約十か月だ」「ニンプの産前教育が盛んだ」「皇女カイニンのニュースが流れる」「母はテイセツを厳しく守った」・・・

これら気になる問題文に付箋をつけていったら問題集が付箋だらけになってしまった。漢字の問題集だけにとどまらない。現代文の教科書にある井伏鱒二の小説『山椒魚』では、かつての指導書といまの指導書では教員側の教えるポイントに違いを感じた。いまの指導書では、何度も「繁殖活動」という言葉が出てきて、それを板書し、生徒に注目させ、ノートに書かせるような記述が出ている。板書内容の例を抜粋すると以下のようになる。

山椒魚に登場する植物(苔、かび、藻)=繁殖活動
めだか=集団行動(共棲、繁殖活動も?)
小エビ=産卵期(繁殖活動)
水スマシ=大小二匹(繁殖活動)
蛙=一匹で突進(非繁殖活動)
杉苔の花粉(繁殖活動)

生徒のノートが繁殖活動のオンパレードになってしまう。繁殖活動していない生き物でさえ、「繁殖活動も?」や「非繁殖活動」などと勝手に説明される。

小論文対策の資料集も例外ではない。ある資料集では2017年版で「『保育園落ちた』3万人」の新聞記事だったのが、2018年版では「出生数 初の100万人割れ」の新聞記事に差し替えられていた。別のページには「非正規にも賞与 同一賃金へ支給求める 政府指針案」の記事が入れ込まれ、まるで政府与党が非正規労働者にボーナスを出すべきだと言っているかのごとき印象を与える作りとなっていた。

果たして、これらの現象は、いったい何を意味するのか。それは、先日、憲法講演会で、小森陽一さん(東京大学)の話を聞いた時に、自分なりに謎が解けた。小森さんの話の中で、教育基本法が2006年に改正されて、10年経った2016年に18歳選挙権が与えられたことについて触れられていた。改正された教育基本法の下での教育を10年間受けた若者なら、自分たちに投票するだろうという確信があったからこその、18歳選挙権だったという指摘だった。

教育基本法が改悪され、学習指導要領も変わり、その下での教科書検定・・・教科書に関しては、世間も注目し、マスコミも問題視して報道していた。教員側も警戒を強めていた。しかし、副教材がここまで変えられていこうとは・・・。実に不覚だった。

教育基本法改悪後に作られた教科書・副教材で、小学校から高等学校までの教育を受けているいまの子どもたち。教材によって、子どもたちが軍事用語に慣れ親しまされている現状を、教職員はもとより、保護者の方々も注視しておかねばなるまい。今後は、教科書だけでなく、副教材「改訂」の度に、どこが変えられたのか、注意深く点検していく必要がある。

この傾向は、無論、国語科だけにとどまらない。全ての教科・科目で、同じようなことが起きている。職員室で他教科の教員に話を聞いてみた。数学では、グラフを扱う単元で、少子化が進んでいるグラフが掲載されていた。化学の教科書では、銅に関する物質(ブロンズ)の説明写真に、幼子と女性の像が掲載されていた。英語の教科書準拠の問題集では、「日本の国旗は、真ん中に赤い太陽があります」と日本語があり、「The Japanese flag (a red sun / has / in / the middle ).」という並べ替え問題があった。

少し目を通しただけで、これだけ挙げることができるということは、詳しく見ていけば、もっと沢山の例が挙がるに違いない。教育基本法が改悪された2006年以前と以後、この二つを詳細に比べることによって、恐ろしい事実が見えてきそうだ。

「憲法9条を変えよう」「三人以上子どもを産むべきだ」「子どもを産まないのが幸せだという勝手な考え」などと発言する輩の思惑が、全ての教科書・副教材の根底に流れているという現実に、その流れが年を追うごとに大きくなっている現実に、どう抗していくか頭を悩ませながらも、まずはその現実を情報発信し、仲間とつながっていこうと考えながら、生徒と向き合う日々である。

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