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新連載 第一回 あなたの隣のマモル君

牧野雅子2015.01.27

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時は2002年、場所は某県拘置所。面会時間終了間際に、その連続レイプ犯は言ったのだ。レイプをしたのは「妻を守るためだった」。
このときの衝撃をどう表現したらいいのか。妻を守るために他の女性をレイプしたって? それって、どーゆー理屈よ? 全くもって、意味不明! そのときの様子を動画再生したならば、太文字字幕で「えええええーっ!」って、絶対に入っている。
レイプという暴力が「守る」という言葉で、まるで正義のように語られる。そもそもそれって、妻に対するDVじゃないか、守るどころか、傷つけとるやないか、そこんとこどう考えとんねん、ええ? とあらゆる点を詰め寄りたかったが、時間切れ。
あわててつけ加えると、妻と事件は全く関係ない。被害者との面識もないし、妻に問題があったわけでもなんでもない。守られる必要も必然も、全然ない。
もうひとつ付け加えると、彼は名前をYといい、『刑事司法とジェンダー』に出てくる、連続強姦犯だ。
面会から帰宅してすぐに、彼が語った動機について質問する手紙を書いた。次の日の面会でも聞いた。その次の日もそのまた次の日も。妻を守るって言ったくせに、その意味を彼は説明できなかった。その代わりに彼は繰り返す。「守りたかったんです」「守ろうと思っていたんですよ」。
彼の「守る」という語りからは、何から守るのかも、何を守るのかも、何をすることが守ることなのかも一切分からなかった。守るって何ですか、どうすることが守ることですか、という問いには「守るについては、金銭面・外敵・運命といった外からのものに対して守り……」。いや、だから、「守る」の定義を聞いているんだってば。
「守る」の説明をするのにも「守る」という言葉を使うほど、守る守る守る守る……と、連呼するくせに、その内容はすっからかんで、なんだか、「守る」という言葉のまわりを、ぐるぐる回っている感じ。
ほとほとこのやりとりに疲れた頃、彼は言った。「守るという言葉だけが存在意義で、それ以外はあまり重要でなかった」「守ると相手に言う、その事実が大事だった」。
「あなたを守る」と相手に言うこと、その行為自体が目的なのだ、と。なるほど、「守る」発言の空虚さも、「守る」ことを語っているつもりが、そのまわりをぐるぐる回っているだけなのも分かる気がする。だって、「守る」の中身なんて要らないんだもの。
もちろん、彼がすべてを話したわけでも、真実を話したわけでもないだろうし、騙されたのかもしれない、と思ったこともある。が、これまで30人を超える性暴力加害者たちにインタビューする中で(中には、刑務所や拘置所に入所中ゆえ、お手紙だけのおつきあいの方々も)、彼が特殊なのではないと思い至った。
彼らは、「守る」という言葉を使いたがる。「守る」という名目で暴力が振るわれることもあるし、自分の行為を正当化するために「守る」という言葉が後付けで使われることもある。中には、「守る」の意味を自分の好きなように定義して、都合よく使っている者もいる。
共通しているのは、自分より弱い人がいなければいけないことと、力を振るうことがよしとされていること、何かを一つでも守ってさえいれば、後は何をしてもいいらしいこと。
そう、Yも言っていた。自分の担当地区の女性は守る対象だけど、他の地域の女性は襲っても構わない、って。「守る」って言葉は免罪符にもなるわけですね。いやー、「守る」って便利な言葉だなー(棒読みで)。
彼ら「マモルくん」は、一見優しい。弱ったココロに染みる一言(「ボクが守ってあげる」だ、もちろん!)を言ってくれるし、寂しいときには、一晩中電話につきあってくれもする。例えて言うなら、大きな熊さんのぬいぐるみに抱かれているみたいな感じ。
守られたい女性がいるのも分かる。それでも、気をつけた方がいいよ、と、わたしなんかはお節介にも思ったりする。
彼らに言わせれば、ボクのために「守らせて」なのだ。ボクが強いって思わせて。ボクのために弱いままでいて。強くなるのは許せない。女性たちを放っておいて、言葉だけが、マモルくんの妄想だけが暴走する。
「守っているオレってすげー」っていう自己イメージ。それが欲しいから「守る」と言う。自分ひとりではそのイメージは成立しない。そのためには、弱い相手が必要で。力関係が逆転したら、暴力を振るってでも相手を弱らせて、自分が上位に立つ。時には仮想敵を登場させもする。相手が闘わせてくれない時には(当たり前だ、仮想、なんだから)、自分から攻撃を仕掛けてみたり。
ああ、なんだかおクニの話をしているようでもありますね。
そういえば、かの雅子さんの婚約会見が行われたのも、今頃でしたっけ。「全力でお守りしますから」と皇太子はおっしゃったとか。キャリアウーマン(死語?)の雅子さんを好きだったわたしは、勝手に落胆したものでした。
そうそう、わたしの名前も雅子といいます。どうぞ、ご贔屓に。

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牧野雅子

牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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