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第六回  「国防男子」マモルくんたちが、実際に「守る」のは、人ではなくて「命令」「指示」。

牧野雅子2015.06.24

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ネット上でうっかり目にした、自衛隊茨城地方協力本部が作成したという、昨年度の自衛官募集ポスター。ありえない制服を着た巨乳の萌えキャラ3人娘が躍動する画にかぶせられたコピーは「「誰かを守れる自分」はじめよう!」。
誰かって誰やねん! 守れる自分って自分磨きが目的かいっ! 「少し早起きするだけで一年後の自分はこう変わるあなたも始めよう明日から朝活!」的なノリで、入隊を勧める姿勢もすごい。そのコピーがアタマから離れず、自衛隊ってどんなとこよ、と『国防男子』『国防女子』の写真集・DVDにまで手を出してしまったほど(注:レンタルです、念のため)。
かつて「制服女子」だったわたしも、「誰かを守る」仕事をしていたと言っていいのかもしれない。だけどね。与えられる業務は自分の主義主張と相容れないこともあるし、何かが起こればそれが生活の中心になるから、私生活に支障を来すことだってある。身近な人を悲しませたり、負担を掛けることも少なくない。それに、実際に「守る」のは、人ではなくて「命令」「指示」だから、目の前の人の訴えを受け止められないこともままあって、そんな自分が空しくなることだってある。
講義や講演で若い人たちに刑事司法や性暴力の話をすると、その後の懇親会などで、「警察官ってどんな人と結婚してるんですか」「警察官とどうしたらつきあえるんですか」と、よく聞かれる。同業者が多いですねぇ、とかなんとかと答えつつ、内心は違うことを考えている。
一般に思い浮かべる、「守る」事を仕事にしている人たちといえば、自衛官、警察官、消防士、医師……あたりだろうか。わたしがこれまで話を聞いてきた加害者の中にも、そういう職業についていた人たちがいる。「誰かを守りたくて」その職業についた「のに」、性暴力事件を起こして、誰かを傷つけたばかりか仕事も辞めさせられたという人たち。
彼らは自分の職業生活を振り返って、言う。「守れる自分が誇らしかった」。
一見、良さげな感じ。自分の仕事を誇りに思っているって素晴らしい、なんて声も聞こえてきそう。でも、ベクトルが違うのだ。彼らは、目の前の助けるべき相手ではなく、自分に目が向いている。救助のことを語る時、相手が助かったことを喜ぶのではなく、「助けたオレってすげー」という文脈で彼らは語る。「オレってすごくないっすか」「オレを認めて」「オレを褒めて」っていうオレサマ目線。被害者も被災者も、自分は人助けが出来る人間だと思わせてくれる、オレサマ物語の脇役として見ているんじゃないかと思うくらい。実際には、体力もスキルもある彼らは、現場では活躍したことだろう。感謝されもしただろう。でも……。
「誰かを守る」あたりのワードで検索すると、「自分に自信がないです誰かを守れる自分になりたいですどうしたらいいでしょうか」といった、悩める若者の相談ページやブログがヒットする。先の、自衛官募集ポスターのコピーは、萌え系イラストが暗示する「宛先」を考えても、こういう自信が欲しい若者をターゲットにしているのだろう。自分に自信がないから誰かを守りたいってどういうこと? と言いたいところだけど、順番が逆な彼らの問いに潜む願望こそが――自分に自信のない自分が嫌、誰かを守れれば自分に自信がつくはず、守れる力が欲しい、力があると思わせてくれ――、「マモルくん」たちを(性)暴力に向かわせるのだと思う。欲しいのは自信だから。自分の存在価値だから。自分に力があると思わせくれる、そんな人や出来事だから。彼らが時に、他人の不幸を嬉しそうに語るのも、それこそが自分が活躍できる場だから、不幸であればあるほど、自分の存在価値が高まるから、存在感を増すことができるから。
ところで、『国防男子』ですが。DVDのケースに書かれた宣伝文句によれば、「女性ファン」を意識しているらしい。「鍛え上げられた上腕2頭筋を見よ!」だそうですよ。ちなみに、DVDは写真集のメイキング的な印象が強く、メインの写真集の撮影、後書きは「不肖・宮嶋」によるもの。
それらに登場する海上自衛官の語る、入隊のきっかけ・動機は様々だ。「制服がカッコいいから」「海が好きだから」「国際貢献や災害派遣など、人を助ける仕事がしたい」という、なるほどと思える動機を語る人がいれば、自衛官の父親や祖父に憧れて入ったと話す人も少なくない。中には、「陸上を続けられる」「好きな音楽を仕事に(注:音楽隊員)」「奨学金制度のため」という人もいて、それって別に自衛隊じゃなくてもよかったんじゃ? と思ったり、「キング牧師やガンジーを尊敬しています。過った権力の横暴に屈することなく、この世の不平等や不正義に、真正面から立ち向かったからです」と語る人には、ええ? それで自衛隊? 矛盾してませんか大丈夫ですか組織の中でやっていけますか、と心配になったり。
実際はどうなのかはさておき、表向きは大変にソフト。あからさまに、「敵」との戦争を念頭にした動機や決意を語る人はいない。その代わりなのか、後書きで「不肖・宮嶋」が気炎を吐いている。荒々しい言葉を振りかざして「敵」をけしかけ、最後にこう書くのだ。「よく見ろ、侵略者共、これがジャパンネイビーだ。これが帝国海軍の良き伝統を受け継ぐ近代海軍の男たちだ。本書に目を通しそれでも島を奪いに来るのなら彼らが相手になる」。
いやあ、わたくし、ずっこけました。マジで。吉本新喜劇ばりに。ギャーギャー騒いで「敵」呼ばわりし、来るなら来いとけしかけて、自分が正面から受けて立つのかと思いきや、ささっと「彼ら」の後ろに隠れてその背中越しに、「彼らが相手になる」ですよ! そこは、「不肖・宮嶋が相手したる」でしょう。ほんま、「喜劇」としか言いようがないわ。ずっこけたショックでスルーしたけど、「近代海軍」とか書いているのも、おいおい! とツッコミを入れるのを忘れずに。
「彼らが相手になる」なんて、勝手に相手にさせられる方はたまったもんじゃないよね、って言ったら「彼ら」の誇りを汚すことになるのだろうか? ああ、そう言いたそうな永田町の人たちが目に浮かぶわ。国会で繰り広げられている、これまたずっこけそうな審議も、「喜劇」そのもの(ここでは、敢えて「喜劇」と言う!)。その上、「マモルくん」は、も一つ上の「マモルくん」に簡単に利用されるんだなと、「マモルくん」の業界事情を見せつけられている感じもして、永田町界隈から目を離してはいけないと思うのでありますよ。

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牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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