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怒ることって、そんなに悪いことですか?

2015.12.10

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皆さんはスーパーは好きですか? 私は大好きです。とくに海外に行くと、どんな商品があるのかと見ているだけでワクワクします。味不明のお菓子やパッケージが気になる洗剤のたぐいを、どっさり買ってしまったり……。巨大なスーパーにズラリと並ぶ商品棚を見ると、胸のときめきが抑えられません。
 でもあのモノが溢れる商品棚って、陳列するのも在庫管理をするのも本当に大変そう。欠品がないように、見栄え良くすき間を作らずキッチリ並べるなんて、まさに職人技なんじゃないかと思います。働く人の負担たるや、相当なものなのではないでしょうか? でもスーパーで働く人はその多くが、パートやアルバイトなどの非正規雇用ですよね。しかも都心では今や、深夜営業する店もザラだし……。買う側にとっては気軽で楽しい場所だけど、働く側にとっては、実は結構な重労働環境なのかもしれません。

 そんなスーパーを舞台にした韓国映画『明日へ』を、先日何の気なしに見ました。「非正規雇用の女性たちが労働組合を結成する話」「EXOのD.O.が出演している」程度の知識しかなかったのですが、もうすぐ公開が終わるというので慌てて行きました。
スーパーの「ザ・マート」でレジ打ちをしているソニには、2人の子供がいます。夫は出稼ぎに行っているのか、長期に渡って不在。暮らし向きはあまり裕福とは言えません。
何年間も減点なく、サービス残業も引き受けていた彼女に会社側は「ついに3カ月後には正社員になれる」と言うのですが、ある日彼女だけでなくレジ打ちと清掃担当の「おばさんたち」は、突然の契約解除を言い渡されます。不当解雇です。そこで彼女たちは「団結は生 分裂は死」を合い言葉に、会社側と闘うべく労働組合を結成します。

しかし会社は「おばさんたち」のしていることだと、真面目に取り合おうとしません。それどころか一部の人に「あなただけは社員にしてあげる」と持ちかけて分裂をもくろんだり、スーパー内を占拠する彼女たちを暴力的に排除し、マスコミを呼んで「不法占拠」という印象操作をします。さらにごろつきを雇って労働組合のテントをめっためたに破壊したり、放水したりとやりたい放題。
俗っぽい私は「なぜ組合は弁護士を雇わない!」「君らもメディアを使え!」と心の中でツッコミまくりながらも、大手資本を前になすすべもない個人の、あまりの弱い立場に怒りと悲しみを感じていました。と同時に、たくさんのモノやサービスが手軽で安価に手に入る理由は、たくさんの労働搾取があることに改めて気付き、とても居心地の悪い思いに駆られました。
ちなみにこの話は、E-LANDという韓国の財閥企業(一時期日本にも進出していた、SPAOやMIXXOというアパレルショップが有名)のスーパーで実際に起きた、労働闘争がモデルになっています。そして暴力や放水(しかも催涙成分入りの水)も、韓国では機動隊がデモ参加者を排除する際に使っています。一体、何時代だよ……。

私は最初のうち、ソニにあまり共感できませんでした。周りに同調して迷いながら関わっているようで、主体性を感じられなかったからです。しかしD.O.くんが演じる息子のテヨンをボコボコにした、バイト先の店長に怒るあたりから俄然態度が変わります。そして仲間達に「オンニ」と、親しみを込めて呼ばれるだけある存在になります。闘いと仲間が、彼女を成長させていくのです。
また不当解雇を気の毒に思いながらも、なすすべもなく見ていた人事チームのカン主任はじめ一部男性も、自分らも解雇されたことで目が覚めて共闘します。非正規雇用のおばさんVS.会社で話が進むのではなく、不当解雇はおかしいと声をあげた人たちが手を取り合うシーンは、全編にわたって重い空気が漂うこの話の、まさに救いの瞬間でした。

おそらく彼ら彼女らは、闘いたかったわけでは決してないと思います。「私達の望みは話を聞いて欲しいだけ。人間扱いして!」とソニが叫ぶように、人間であることを無視して、ただの「人材」「労働力」としか見なさない会社側に気付かせるには、この方法しかなかったのでしょう。
また「韓国って大変なんだね~」で終わりにできない、人ごとではない作品だとも思いました。だって似たような光景は、日本のあちこちで見られるから。彼女らの闘いは決して、よその国で起きているただの作り話ではないのです。
日本でもたとえばブラック企業や国会前、そして辺野古などで、多くの怒りの声があがっています。本当は誰だって会社や政府を相手に闘いたくなんかない。平穏な暮らしがしたい。でも「仕事をして対価を得て、人間らしい暮らしがしたい」「未来の世代が戦争に巻き込まれて欲しくない」「先祖代々の美しい土地を、銃剣とブルドーザーで破壊されたくない」というささやかな願いが壊されてしまうとしたら、怒るのは当然だと思います。
なのにそんな声を他人事として無視したり、「企業や政府相手に争うなんてバカみたい」と揶揄したり、挙げ句のはてには「反日左翼」と決めつける声も、ネットなどには溢れていますよね。まるで「怒ること=悪」だとでも言わんばかりに。

怒るのって、そんなにダメなことですか? 闘うのは愚かなことですか? お上は絶対と、誰かが決めたことに従うのが正しい在り方ですか? それが人間の幸せなのですか? いーや違うね。「怒り」だって感情のひとつなのだから、出す時には出さないと人間らしく生きられないと、私は思います。
自分や誰かが不当な目に遭った時、どうするか。諦めるのか、黙って従うのか、体制側に寝返るのか、それとも誰かや自分のために怒りの声をあげるのか。エンタメでありながらも、同時に「あなたならどうする?」を真剣に突きつけてくる作品でした。
本当に私なら、そしてあなたならどうする? 私は逆ギレっぽくならずにきちんと表明できるように、まずは怒りの練習をしたいと思います。

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