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南北首脳会談と冷麺、そして朝鮮学校への高校無償化除外

李信恵2018.05.02

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4月27日、韓国の文在寅大統領と朝鮮民主主義人民共和国の金正恩朝鮮労働党委員長が板門店で南北首脳会談を行った。その日の朝、しばらく続いていた気管支炎のために飲んでいた咳止めのせいか、なかなか起きられずにいた。が、「金正恩がもうすぐ到着するで、はよ起きや」と息子に起こされたのだった。

テレビの前に座り、その瞬間を見守っていた。南北首脳が38度線を越えた時、握手の瞬間をリアルタイムで観た。まさか、いきなり共和国側へ両首脳がまたいで行っちゃうとは思わなかったので、びっくりした。朝鮮半島が平和へと向かうニュースを親子で一緒に観られたことも嬉しかった。

去年の7月14日に韓国の忠南世宗市で開催される「大学生統一未来戦略フォーラム」で「在日同胞が語る朝鮮半島統一」という題で講演をした。韓国の大学生たちが集い、朝鮮半島の平和と統一を語り合う場所だった。韓国内では、市民運動や社会運動に積極的に関わっている人々や学生の中でも、統一問題については関心が薄くなっているとも聞いた。それから一年も経たないうちに、まさかこんなに早くに南北首脳会談が実現する日が来るとは思ってなかった。

また、今回の10年半ぶり3回目となる南北首脳会談は、年内に朝鮮戦争の終戦宣言をし、休戦協定を平和協定に転換するための会談を進めることで一致した。よくよく考えてみれば、朝鮮戦争は休戦から65年。自分が生まれる前から続いていた戦争が、やっと終わるって、これも何とも言えない。自分のオモニ(母親)は、現在認知症なのでこのニュースのことをちゃんと理解しているのか定かではない。戦争が終わったとしても、朝鮮半島の南北どちらの地を踏むことも難しいかもしれない。でも、ただただ良かったなあと思う。

私はいろんなところで明らかにしているけれど、共和国に兄と姉がいる。私が生まれるずっと前、帰国運動の際に日本から共和国へと渡って、一度も会ったことのない兄と姉だ。しばらく連絡も途絶えているので、もしかしたら、もう亡くなっているかもしれない。探しに行きたいけれど、時間もお金もいっぱいかかる。けれど、戦争がきちんと終わったら。もっと簡単に、会うことが出来るかもしれない。南北両首脳が38度線を簡単に行ったり来たりしたように、日本と共和国もそう云う関係になれたらいいのに。

諦めかけていた願いが現実のものになるというか、すぐそばまで来ている。手を伸ばせば、届きそうだ。まるで夢のような、すごく不思議な日だった。いつもはヘイトコメントばかりが寄せられる自身のTwitterも、この日ばかりは割と静かだった。むしろ、記念すべき日を祝うようなものばかりだった。「これで安心して祖国に帰れますね」というようなものも若干あったけれど、笑って無視できる余裕もこの日はあった。

朝鮮半島で何かが起こると、いつもだったら、体も心もぎゅっとこわばる。共和国がロケットを発射すれば、在日の集住地域に街宣車が現れ、朝鮮学校にも攻撃が及ぶ。新聞やテレビでは、北の脅威を煽る。Jアラートも鳴り響く。韓国や諸外国で少女像が設置されれば、それもまたバッシングの火種となる。

けれど、この日だけは、ずっと朝鮮半島に関連するニュースを安心して観ることが出来た。それだけでも泣きそうだ。当たり前の日常というか、そういうものも知らないうちに在日は奪われてきたんだなと思う。この日ぐらいは、南北の第一歩を心から喜びたいと思った。

そして、南北首脳会談の際の夕食会のメニューに本場平壌の冷麺が登場することから、この日を祝うため日本人や在日の多くの人たちが冷麺を食べ、その画像をアップしていたことが嬉しかった。韓国でも、冷麺屋さんが大繁盛し、列をなしていたという報道もあって笑った。みんな考えることは一緒だな。私ももちろん食べた。急きょ近所で買って来たインスタントの冷麺だったけど、美味しかった。

その一方で、27日の午後には、ある裁判の判決が下された。朝鮮学校を高校無償化制度の対象から外したのは違法として、愛知朝鮮中高級学校の卒業生10人が国に計550万円の損害賠償を求めた訴訟の判決があり、名古屋地裁は「国の判断は合理的だ」として元生徒らの請求を棄却した。

朝鮮半島の人々はもちろん、在日も多くの日本人もこの歴史的な日を喜んだ。けれど、同じ日に日本ではこのような判決が下された。朝鮮学校を支援するある人は、「朝には南北首脳会談で喜んだが、昼からどん底に叩き落された。まるでジェットコースターのような一日だった」とつぶやいていた。

南北首脳会談の少し前、4月24日は私自身の裁判(対保守速報とのヘイトスピーチ裁判、この日で控訴審の結審を迎えた)もあったのだが、その少し前に大阪状公園内にある教育塔へと向かった。この日は阪神教育闘争から70年目となる日で、それを記念して行われた集会が行われるからだった。ちなみに毎週火曜日、正午から1時間、大阪府庁前では、朝鮮学校への補助金支給再開、朝鮮高級学校への「高校無償化」即時適用を求める「火曜日行動」と呼ばれるアピールが行われている。

オモニは、昔よく阪神教育闘争の際の話をしてくれた。放水車に水を掛けられ、ずぶぬれになったと笑っていた。あれから70年が過ぎたけれど、朝鮮学校を取り巻くこの社会の状況は、ほとんど変わっていないように見える。4月1日に大阪で行われた『ダイバーシティパレード』の際、前川喜平前事務次官はスピーチで「朝鮮高級学校への高校無償化除外は、『官製のヘイト』だ」と語られていて、私もその通りだと思う。

自分が生まれ育った国はこの日本だから、朝鮮半島が平和へ向けての第一歩を踏み出したのに、その蚊帳の外に置かれている状況は情けないし哀しい。そして、政府自体が朝鮮学校への差別を下支えしていることも、とても恥ずかしくて悔しい。南北首脳会談が行われ、朝鮮半島が平和へ向かおうとしている今、日本政府の朝鮮学校への誠実な在り方も問われている。

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李信恵

李信恵(り・しね)

1971年生まれ。大阪府東大阪市出身の在日2.5世。フリーライター。
「2014年やよりジャーナリスト賞」受賞。
2015年1月、影書房から初の著作「#鶴橋安寧 アンチ・ヘイト・クロニクル」発刊。 

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