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カーニバルという風刺

中沢あき2017.03.10

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あっという間に1年が経って、またこの季節が巡ってきた。ケルンの街中はこの数日、仮装をした人たちがゾロゾロと歩いている。つい先日、舞台衣装のレンタル屋の放出セールにて1ユーロでシャツをゲットした!と自慢していた友人いわく、周りはカーニバルの衣装を揃える人で一杯だったとか。なるほど、この時期にセールをやる衣装屋も考えたもんだ。そんな仮装の様子は昨年のコラムで紹介したので、今年はカーニバルの山車のお話を。
カーニバル自体はそもそもキリスト教の謝肉祭というお祭りで、主にカトリックが多い地域で行われてきた。有名なのはリオやベネチアのカーニバルで、その他の国々でもそれぞれのカーニバルがある。ドイツのカーニバルの特徴は、そのパレードの山車にある。市内の様々な団体が参加し、それぞれのグループで鼓笛隊やダンサーが伝統的な衣装から創意工夫を凝らした衣装を身に付け、そして山車を伴って行進するのだが、山車、といっても大概はトラックの上に載せたりトラクターで牽引しているもの、ときたま馬が直接引いていることもある。
その山車に、毎年の時事ネタを元にしたハリボテが載せたものが幾つか登場する。特に政治関係や社会問題で話題の人物や出来事がモチーフに選出され、ここ数年はロシアとウクライナの対立や中国経済の力、脱原発問題や難民問題、そしてもちろんメルケル首相はほぼ毎年登場、と要は風刺なのだ。日本の原発問題や、先日トランプ大統領と仲良く握手をしたりと何かと話題の安倍首相なんかも登場するんじゃないかと思ったりするが、今のところその機会なし。まあそれだけ日本って欧州では重要視されてないんだなと思うと、なんか寂しい気もする。日本もその手のネタはたっぷりあるんだけど…。
さて今年登場したのは、秋の国政選挙を控えるメルケル首相がもがくテントウ虫に、そこに舞い降りる蝶となった対候補者のマーティン•シュルツ氏、という今のドイツの政治状況を見立てた山車。他の山車では、昨年のクーデター事件から独裁政治を一気に押し進めて批判を受けているトルコのエルドアン大統領が金髪のお下げの鬘をかぶって長靴下のピッピの恰好で登場したけれども、その目線の先に空ろな顔の人々が閉込められた牢獄が一緒に載せられているのが怖い。そしてなんといっても今話題のこの人。1月の就任以来、予想通り?の大混乱を引き起こし続けている米国のトランプ大統領が向き合うのは、ロシアのプーチン大統領。プーチン大統領もメルケル首相並みに何度もカーニバルの山車に登場している。とまあ、なかなか濃ゆい面子が揃うのだ。
その他の山車では、足りない保育所の問題をやじったものとか、何年かかっても終わらずに毎日渋滞を引き起こしている橋の修繕工事を皮肉ったものとか、身近な社会問題への風刺もあって、伝統的なお祭りの一方で、なかなか政治的でもあるのだ。
ところでこの風刺の精神、ドイツやフランス、その他の国々でも盛んな文化で、しかし挑発的な面もあるゆえ、しばしば問題にもなる。近年知られる事件となった風刺は、パリのシャルリ•エブド社襲撃事件だろう。つい先日、友人との間でたまたまその話が出た。若い頃から海外で暮らし、仕事で様々な国を巡っている日本人の彼は、あの風刺はよくなかった、と言う。もちろんそれは人を殺していい理由には絶対にならないけれども、やはり違う文化や宗教をああいう形で一方的に描いてしまうのは、風刺といえどもよくない、と。背景にある事情は複雑で、簡単に良い悪いを言えることではないのだけれども、実は私もあの事件とその後の社会の反応に複雑な思いを感じた一人だ。人を簡単に傷つける表現は、ユーモアとエレガンスに欠ける。
しかし相手を傷つけるから風刺は良くない、というのもまた簡単には言えない問題であり…。しばらく前に、ドイツの雑誌シュピーゲルが、トランプ大統領が自由の女神を斬首するイラストを表紙にして物議をかもした。それについてとある日本の記事が、これはヘイトスピーチだ、と書いていたのだが、それにも大きな違和感を感じた。ヘイトスピーチって、こういうことを言うんだっけ?なんだかこれでは、メディアからの批判を逆手に取って騒ぐトランプや日本の某政治家たちとそっくりだ。
風刺は元々、社会の中の愚かな人や事柄を暴き、ユーモアをもって皮肉り、批判するものだった。権力や金のない一般市民が権力者に対して、その不満を風刺で紛らわすこともあっただろう。弱い立場から強い立場に対する抵抗と闘いでもあったのだ。対してヘイトスピーチと呼ばれるものは大概、弱い立場の人たちに向けて、その非難の理由の根拠なく、人種や宗教、文化の違いということだけで投げつけられる。トランプを始め、よく風刺の対象になる権力者たちは、その風刺のネタになる悪事や疑惑を実際に持っているわけで、尚かつ権力を独裁的に振り回す。それを風刺で批判するのは、市民の表現の権利だ。でも外国人やその他のマイノリティに対するヘイトスピーチは、対象になる人たちには何らその非難を受ける根拠がなく、ただ単に生まれ持った条件のみで酷い言葉を投げつけられる。それは風刺でも批判でもなく、単なる「憎悪」でしかない。だから、風刺をヘイトスピーチに結びつけるのは、論点ズラしとしか思えない。
とはいえ、風刺もまた一歩間違えると、冒涜になる。例え批判といえども、相手に対するささやかな配慮としてのユーモアとエレガンスに欠けると、笑い飛ばせないことになってしまう。
今年も現在形の風刺を盛り込んだカーニバルのパレードだったけれど、大都市ゆえの多国籍の沿道の人たちから歓声が上がっていたところを見る限りは、この風刺は皆の気持ちを代弁しているんだろうなあと思う。それに祭りという無礼講の場であれば、風刺も余計に笑い飛ばせる。
日本もお祭りの山車で、こんな風刺、やりませんかね?威勢のいいかけ声で揺れる神輿や引きずり回される山車に、市民の気持ちが風刺となって宿るのも、新聞やテレビ以上に皆の心に共感をもたらすかもしれませんよ、なんて。
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© Aki Nakazawa
金髪のかつら姿のエルドアン大統領と牢獄。トルコ系移民が多いドイツでは、トルコの内政も大きな問題です。
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© Aki Nakazawa
新トランプ大統領こと、ドナルドJr.と一緒に山車に乗っているのは自由の女神と…
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© Aki Nakazawa
プーチン大統領。しかしこのトランプ大統領、あまり似てませんね。後でテレビニュースで見た、デュッセルドルフ市の山車のトランプ大統領の方が、よく出来ていました。ちょっと残念。
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© Aki Nakazawa
保育所が足りない問題への抗議の山車。身近な社会問題も皮肉っちゃいます。でもこういうことが、当事者以外の関心も引き寄せたりするんですよね。
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© Aki Nakazawa
もちろん今年も仮装の人々は健在です。
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中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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