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負の遺産のリサイクル

中沢あき2017.06.16

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しばらく前、新幹線の線路脇に戦時中の不発弾が埋まっているのが発見され、その処理で運休になる、という日本のニュースをネットで見かけた。第二次大戦中、各地で激しい空襲を受けたドイツでも同じく、当時の不発弾の発見と処理のニュースがたびたび流れる。そして空襲への備えとして建てられた防空壕もまた、ドイツには未だに数多く残っている。当初、2千万人の国民を守るために61都市に総計50万棟の建設が計画されたものの、実際には840棟だけしか作ることができなかったというが、それでも各都市に十数個ずつはあったことになる。日本の防空壕は穴を掘って地下に作られることがほとんどのようだが、英語でバンカー、ドイツ語読みだとブンカー(Bunker)というドイツの防空壕は地上に建てられたものも多く、コンクリと石で固められたその壁の厚さは爆弾の衝撃にも耐えられるようにと、1〜2メートルにも達する堅固なもので、耐火や通気、トイレや水道、電気システムも備え付けられたものだ。ちなみに今年の4月頃、トランプ大統領の発令でアフガニスタンに落とされた最大級の大型爆弾はバンカークラスターという種類らしいが、これはこの堅固な防空壕でさえ破壊する力を持つ、ということだそうだ。それほどの耐久性を考えて造られた建築物ゆえに簡単に解体できるものでもなく、各都市のどこかには必ずといっていい程、このブンカーが残っている。それも住宅街などの真ん中に、一般住宅の建物と並んで突然黒っぽいガッシリとした建物が現れたりするのだが、壊すにもいかないこれらの建物、放っておくにはモッタイナイ、という精神なのか、現代のドイツではいろいろと意外な使われ方をして再生しているのだ。さすがはリサイクルの国。そのうち、幾つか私が実際に見た例を紹介したい。

ブンカーの活用例その1。一番手っ取り早くて、たいして修繕費もかからないのが、倉庫。創作活動をしている我が夫は、なにせ持ち物が多い。そこで過去の作品やら部品やら機材やらを、隣市の元ブンカーの倉庫に預けているのだが、この倉庫はこの市の文化局が管理をしており、芸術家を対象に貸し出しているもの。利用費も一般の倉庫に比べてお得な値段らしい。中に入ると石造りの建物特有のヒンヤリとした空気が夏でも漂い、確かに物の保存には向いていそう。ただし湿気や埃には注意が必要です。

ブンカーの活用例その2。ディスコクラブやパーティーなどのイベント会場として再生。コンクリ打ちっ放しというインテリアがまた、この手のイベントにはよく合うわけで、なかなか粋なパーティー会場となる。薄暗く非日常的な雰囲気もこれまたパーティーを盛り上げるというもの。ダンスフロアの大音量でも、分厚い壁が防音になるというイベントに最適の環境です。

ブンカーの活用例その3。ケルン市内のとある地区にあるこのブンカーは地下壕という造り。住宅街の一角に、昼間は子供たちが遊び回る公園があるのだが、その公園の隅に立つドアを開けて地下に降りると、そこにはなんと音楽スタジオが。ミュージシャンの練習スタジオから、テレビ局も使うという録音スタジオまで、いくつかのスタジオに分れている。壁の分厚さも、音楽スタジオの防音施設としては最適、とはここのスタジオの持ち主のお話。私たちは散歩の途中で偶然このブンカーを見つけたのだが、走り回る子供たちの足下にブンカーが潜んでいる、という驚きの空間を案内してもらいながら、ちょっとした探検みたいでワクワクした。

ブンカーの活用例その4。知人の建築家のアトリエを訪ねたとき、彼が長年温めているプロジェクト、といって披露してくれたアイディアは、ブンカーを住宅施設として改装する、というもの。ブンカーの堅固な外壁はそのままに、内部をオフィスや住宅空間として変えたいのだそう。一部の壁は大きく空けて、光を取り込む工夫も考えているとのこと。ずっとやりたいと思っている企画なんだよね。高級住宅とかじゃなくて、低価格で住みやすい住居になるようなシステムにしたいんだ。儲けとは関係なくやりたい企画、と、大きなプロジェクトを手がけて世界を飛び回る彼が目をキラキラさせて話す。彼の手にかかったら、ブンカーの地味な様相も、シックでモダンな住居に変わるだろう。現在進行中のことで、残念ながらその様子の写真は今回は非公開。いつか完成したらぜひ見てみたいと思っている。

ブンカーの活用例その5。ケルン市内にある別のブンカーは、以前紹介したデンクマルという文化財に指定されている。ギャラリー/イベントスペースとして使われているこの場所では、毎月のようにアート、カルチャー、歴史物、とジャンルを超えて様々な展示が開催されている。オーガナイザーいわく、元は防空壕というその独特の雰囲気を生かした展示を心がけているという。実はちょうど今、私自身も参加する展覧会がここで開催されているのだが、外が夏日和の一方で、ブンカーの内部の常温は17℃、湿度も70%という環境の中での準備はなかなかしんどかった。変な寒さが体を侵してくるようでどうも体が怠くなる。私も同僚も3〜4時間も居るのがやっと。空襲から逃れるためにこんなところに何時間も居るのは辛かっただろうけど、生きるか死ぬかの状況だったんだもんなと、想像する。とはいえ、コンクリの壁や柱の間に配置された作品は別の展示場所とは全く違う雰囲気をまとい、ブンカーならではの展示になるという意味がよくわかった。今後はなんとグランドピアノを運び込んだ音楽のコンサートをやる企画の提案があるんだそうで、どんな音響の空間になるのか、それもまたおもしろそうだ。

戦争遺産という陰の歴史を負い、壊すこともできないままに使われなくなっていた廃墟が再生する。そのポジティブで柔軟な発想がこの社会を豊かにしていくのだろうなと、いろいろなブンカーの現在の姿を見て、思う。

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© Aki Nakazawa
ケルン市内にあるブンカーのギャラリー。ツタに覆われた建物は4階建てくらいの高さでしょうか。その中ではちょうど今、私も参加している映像作品のグループ展覧会が開催中です。

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© Aki Nakazawa
あちこちに分れた薄暗い空間では、展示作品がいっそうミステリアスに見え、来場客にも好評でした。

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中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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