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 ブラジャーをつけないフランス女性が増えている!
 街を歩いていても気づかないけれど、facebook にはSans soutif/NoBraというページができ、ツイッターでは♯NoBraChallengeが、ゆっくりとノーブラに移行し周囲にも認めさせるためのアドバイスを交わすツールになっている。
 締め付けない、快適、ありのままの自分を肯定する、男は上半身裸で許されるのに、なぜ女は胸を隠さなきゃいけないの? そう言えば、過激なフェミニスト運動Femenは、上半身裸でどこにでも乗り込みパフォーマンスをするのだった…

 1970年代の女たちはブラジャーを焼き捨てるパフォーマンスをしたが、現代の女たちは自分の生活のなかでブラジャーを捨てる。♯MeTooに続いて、今度は静かな日常的フェミニズムが進行しているのだろうか。

 しかし女の体に関わることは、なんと複雑なのだろう。特に乳房は強く女性性を訴える部分で、エロティスムと切り離しがたい関係がある。

 2013年12月、TF1のキャスター、アンヌ=クレール・クードレイがフェイク革の服の下にノーブラで登場したときは、大きな反響を呼び、謝罪させられた。彼女は、「色っぽい格好をするのは仕事と関係ないことで不適切だった」という理由で謝罪したのである。
 フランスの女性キャスターは、日本の同業者に較べたら格段に露出の多い格好をしているのが普通だが、そこでもノーブラは視聴者の許容範囲を超えたということだろうか。こういう線引きは実に微妙なものだが、この謝罪では、「胸」のエロティックな効果を彼女は認めているということになる。
 セレブの世界では、数年前からフリー・ザ・ニップル運動が始まっている。ナオミ・キャンベル、レディー・ガガ、リアーナ、ジェニファー・ローレンス… 今、ノーブラがおしゃれという情報は日本でも耳にしたことがあるに違いない。

 が、ノーブラがオシャレだとして、それは「胸」がエロティックだからなのか、それとも反対に「胸」のエロティスムを否定するからなのか。性的対象だからなのか、性的なものから乳房を解放しようとするからなのか。
 胸の解放は両義的だ。女に関わることはいつも両義的になってしまう。

 男性を誘惑するための美しい乳房、それにフランス女性は伝統的に執着していたのではなかっただろうか。
 フランスは赤ん坊への授乳が最も普及しづらい国でもあり、それは乳房の形が悪くなることを嫌うからというのもひとつの理由だった。
 乳がん後の乳房再生手術も盛んで、病気になっても、乳房を喪失しても、再生手術をしてデコルテを着て、エロティスムを諦めない、それがフランス女の心意気だと思っていた。

 「楽だから」乳首を人目に晒し、性的な目で見るな、なんでもないただの胸だ、と男性の意識を改革しようとするのは、まったくそれとは反する新しい感覚だと思う。

 エロティスムかフェミニズムか。

 今年はなかなかセーターとブーツが手放せない天気が続いていたのだが、5月も半ばを過ぎてようやく夏服が着られる陽気になった。
 夏の靴を買わなければと思って歩いていると、街にスニーカーが溢れている。老いも若きもスニーカー。「パリジェンヌはペタンコ靴かハイヒールしか履かない」とどこかで読んだけれど、ハイヒールなんて、あんまりいないような気がする。スニーカーはもちろん必需品だけど、ここまで人気があったかしらと思う。その姿は、関係ないかもしれないがノーブラを連想させ、「楽」を「エロティスム」に優先させる、現代女気質の現れのように思った。そういえばカンヌ映画祭で、ハイヒールを脱いで裸足で歩いた女優さんもいたな。

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中島さおり

中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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