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私はアンティル vol.5 「FTMのアンティルです!」

アンティル2005.04.20

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私は初対面の人に会う時、「FTMのアンティルです」と挨拶をする。でも最近私は“FTMの”というとき、少し口ごもってしまう。FTMのアンティル・・・FTMの・・・FTMに出会えば出会うほど、私からFTMは遠のいていく。


私は1年前まで、FTMでありながら、FTMの人と話をしたことがなかった。病院の待合室で見かけることはあっても、話すことはなかったのだ。そんな私が「FTMのアンティルです」と、初めて挨拶したFTMは知人の紹介で会ったTさんとIさんだった。


TさんとIさんに会う日、私はとてもウキウキしていた。
「会ったらどんなことを話そうかなぁ、どんなSEXしてる?それとも、どんなディルドが好き?」
私の頭の中では、話に花が咲くFTM3人の顔が、はっきり浮かんでいた。雨の中、TさんとIさんは現れた。


二人はとてもオトコだった。ともに身長170センチ以上、鍛えられた腕にはスジが浮き出ている。贅肉などどこにもない。どこからどう見てもまさしくオトコ。私には、この人達がマンコ持ちであるとういことが信じられなかった。


ちなみに私はというと、身長168センチ、体重68キロ。背は低いほうではないのだが、足が極端に短く、胴は驚くほど長い。高校生の時のデータだが、私の座高は1メートル3センチだった。ということは、少ななくとも、今の私の足の長さは65センチである。誰もがこの話を信じないが、先日、同じ身長の北原さんと足の長さを比べてみたら、北原さんの足の付け根が、私のおへその下まであった。私が座わると、だいたい180センチくらいの背丈の人と同じくらいの高さになる。電車で座っていると、いつも一番高い。車を運転していると、天井に頭が当たり不自由だ。


どんどん話が脱線していくが、私の父もほぼ同じ比率で足が短い。身長が175センチある父の座高は、ほぼ1メートル15センチ。これは2メートルくらいの身長に匹敵する。うちの車の運転席の天井には、いつも黒い痕が丸くついている。車を乗り換えても乗り換えても、その痕は同じ所に同じようについているのだ。子供の頃はそれが不思議でたまらなかった。その正体は父の頭だった。天井に頭を擦り付けながら運転するしかない父は、車に黒い痕をつける。父の頭が天井につかない車などそうそうないのだ。


父から遺伝したこのヘンテコなスタイルは、私をぶかっこうな生き物にする。4つ足動物が無理矢理立ち上がったような体の形。それにひきかえ、TさんとIさんはかっこいいFTMだった。私は、「完璧なFTMだなぁ」と感心し、じーっと見入ってしまった。しかし一番驚いたのは、2人の関係だった。TさんとIさんは年が離れている。そのためか、頼れる兄貴とかわいい弟という感じだった。


T「このままの状態で生活するのはつらいっすよ。」
I「くじけずがんばろうぜ!オレも、がんばるからさぁ」
「あの~私もFTMなんですけど・・・」「がんばってるんですけど・・・」

と話に入ろうと思ったが、そんな隙間はどこにもなかった。オトコのアツ-イ友情で結ばれた2人。私にはそんな会話は出来ない。2人もそんな私に気付いたのか、ほとんど私に声をかけることなく地下鉄に乗って帰っていった。FTMらしい2人とその中に入れなかった私。私は少し寂しい気持ちで家に帰った。初めて自分がFTMらしくないかも?と、思ったそんな夜だった。

らしくないという言葉は私にいつでもついてまわる。子供らしくない、女の子らしくない、オンナらしくない。私は19歳の頃に、みんなが言うオンナらしい人になろうと、自分を変えようとしたことがある。それにはまず、オンナ好きをやめねばならないと思い、私は毎晩テレクラに電話をしてオトコと話し、オトコを好きになれるよう、夜な夜な自己練していた。


そしてある夜、私は20代後半のオトコと会う約束をした。特訓である。私はクローゼットをあけて、一番オンナらしく見られる服に着替え、待ち合わせの場所に向かった。オトコは白い車で来るという。その時私は、“セックスはイヤだけどフェラチオはいいことにしよう”と、心に決め、約束通り雑誌を小脇に抱え、立っていた。数分後、それらしき車がすーっと現れた。しかしオトコは降りてこない。私は自分から運転席の窓をノックした。電話で話した時はノリノリで話していたはずなのに、オトコのテンションは見るからに低かった。


そして5分後、私は車から降ろされた。距離にして1キロほどだった。フェラチオどころか、質問一つされなかった。“オトコは異様なものを乗せてしまった”というような顔をしながら運転していた。私はこのオトコの横顔しか見ていない。ボウボウにはえたスネ毛も脇毛も剃ることもなく、フェラチオ覚悟で助手席に座る私を、オンナらしい格好は隠しきってくれなかったのだろう。まんこはあるのに・・・やる気まんまんだったはずなのに・・・私は歩いて家に帰った。

しかし、そんな私をオンナらしいというオトコもいた。
「いつもパンツ履いて、強気な感じだけど、オレにはわかるんだ君のオンナらしさが、甘えていいんだよ、いつでも」
確か、そんなことを言われ続けた。テレクラ同様、チャレンジ期間だった私は、このオトコの誘いにのりドライブデートに出掛けた。待ち合わせは、都心から電車で1時間半くらいかかる埼玉県のとある駅。オトコは私を車に乗せ、畑の周りをグルグルまわり出した。3時間位のドライブだった。本当の私を知っているというオトコの顔は楽しそうだった。あのオトコは、私にどんなオンナらしさを見ていたのだろう。それきり会うことなく、たまに電話で話す程度だったが、友人によるとそのオトコは2年近くの間、私を忘れられないと嘆いていたらしい。


私のまわりにはいつも、らしさという言葉が回っている。気にせず無視をしていると、らしくないという言葉が私を否定する。これから先、私はどんならしさを求められるのだろう。今のわたしは何かに対し、らしさを求めていないだろうか。「FTMのアンティルです。」私はいつまでそう笑って言えるのだろうか。

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アンティル

アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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