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ビデオ屋の仕事を始めてから、客への視線をそらすことがうまくなりました。アダルトビデオが商品だと基本的に店員と目を合わせたくない客が多く、けれど店員としては姿を確認しなければならなかったりもして、毎日なるべく視線を合わせないようにお客様の姿を拝見しています。

入り口の脇にレジカウンターがあり、いつもそこで作業をしていますが、そんなわけで、店に入ってきた客をすぐに見ることはあまりありません。店内に入った客がビデオの棚を眺め始めてからどんな人かを確かめます。
ある日、俯いて作業をしていた私の横を、風のように人がすり抜けました。その人がぐるりと店内を一周して戻ってきた頃に、ようやく私はその人の顔を確認しました。視線が合いました。40歳くらいの彦摩呂に似た顔です。
(彦摩呂はこっちのテレビでよく見かける大阪弁の料理レポーターです。私は上京するまでそういう人は関西テレビのタージンしか知りませんでした)

テレビじゃなくてどこかで見た気がしましたが思い出せません。ぼんやり相手の視線を受け止めていると、ひこまろも曖昧な笑顔になって帰って行きました。ひこまろはジャージのズボンにシャツの裾を入れて、ゴムの部分をおへその上まで引っ張りあげていました。私の記憶力も相当悪いのですが、今回はこのひこまろのファッションも悪かったと思われます。ひこまろが誰だったかを思い出したのは、しばらくたってからでした。

オーラちゃんの客でした。時々そうとしかいえない客がいます。2人でレジに入っていても、どちらかにしか話しかけない人たち。そういう人たちは、店員と視線を合わせたくないどころか、むしろ店員と話したい人たちなので別枠になります。
いつも夜遅くに来て私にではなくオーラちゃんに話しかける人。大阪弁でおおきな声で話す人(そこもひこまろ)。結婚をしていて小さい子が1人いて、週末に家にいると2人目を希望している妻とセックスをしなければならないので、それから逃げて来て二丁目で男の子を買っている、と言う人。「この道に目覚めたのは結婚してから」と言います。

ひこまろが私に話しかけないのは、私がその一連の話にあまり興味を示さなかったからかもしれません。人は聞いてくれるひとに話します。
ともあれ、いつもは仕事帰りのスーツ姿なのに、その日は休日の昼間の格好をしていたからか、私はその彦摩呂に似た顔をあのひこまろと認識できなかったのです。常連客ではあるので、(無視したことになったかしら・・)とあとで少し罪悪感を覚えましたが、じきに、しょうがないわ、と忘れました。

その夜、仕事が終わって1人で飲みに行ったら、中越で大学教授をしているというゲイと隣り合わせになりました。彼も40歳くらいでした。顔は誰に似ているというわけではなかったので、呼び名は中越にしておきます。
中越はすでに出来上がっていました。ニコニコしながら小さな声で話します。酔っ払って大きな声にならない、怒っていないという時点で、私にとっては、感じのいい人になります(私は時々感じのわるい人になります)。いろいろ楽しく話していたのですが、途中で彼はこんなことを言いました。

「僕は男子学生には厳しく女子学生には甘く接します。なぜなら、男子の方が社会に出た時に社会で厳しい目に合うからです」
あほらし屋の鐘が鳴りました(斉藤美奈子せんせい)。

そういえば先週も、このお店で同じようなことを言っていた大学院生のゲイ男子がいました。その院生はなにかの話の流れで、中学生の頃は女になりたいと思っていた、と言いました。どうして? と私が聞くと、

「だって女子の方が周りの教師たちがやさしくしてくれるじゃないですか。僕なんか遅刻したら頭を殴られるのに、女子が遅刻しても誰も殴らなかったし・・」

これはもうゲイセクシュアリティーの話ではなくて、フェミの領域だわ、と思います。

>男子学生が企業に資料請求をするとたくさん返事が返ってくるのに、同じ大学の女子学生が二百通送ってもたった数通しか返事がこないといったことがなぜ起きるのか。女性であるがゆえになかなか住宅ローンを借りられないのはなぜなのか。なぜ父子家庭の平均年収は四百万円台なのに、母子家庭は二百万円台なのか。こうした現実が構造的な男性優位社会における女性差別でないとしたら何なのかを説明してみてほしいものです。(ジェンダー入門、加藤秀一、朝日新聞社、2006)

なんだかその手の発言にはこういうことを畳みかけたくなりますが、私は数字を覚えられないのでいつも出来ません。統計はインテリ男子に対して武器になるなー、と小倉千加子さんの本を読んでいても思います。けれど、数字で反論もできず、他の言い方でやり返しても、いいとこ「感じのわるい人」止まりになる私は、そういう思いを抱えつつ院生と中越教授に対して、「ふーん、そう思うんだー」と流しました。

女子と接点を持たずに生きている男子・・そういうゲイ男子の発言を聞くと、ノンケの偉そうな男子よりも、なにかうす気味わるいものを底に感じます。
その点、最初に登場したひこまろは、シャツの裾をジャージに入れてそのゴムをおへそまで引っ張りあげていました。そこに私はひこまろの「妻」の視線を感じました。そういう意味では、(ひこまろの方がまだマシかも)と思いましたが、(そのマシもどうよ)とも思います。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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