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私はアンティル Vol.98 イチゴ事件その30 運転免許

アンティル2007.11.16

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高校3年生の2月。私はTとつきあってから初めて、セックスをしない放課後を過ごした。授業を終えてTとも会わずに駅へとダッシュ!一人電車に揺られ、とある駅でマイクロバスに乗り込む。そこからさらに40分ほど行った所に目的の地はあった。ここに来ることを、私は長い間待ち望んでいた。
『これさえあればもっとTと快適に過ごせる。』
私の夢は無限に広がった。

セーラー服にはあまりに不釣り合いな、大きな男物の革靴と渦を巻く足毛。なるべく制服姿を見られないよう私服を持ち歩いていた私にとって、長い時間その姿を視線にさらすことは覚悟がいることだった。容赦なく投げられる好奇の言葉。
「ねぇ、みてみてあの人・・・・」「あの靴すごくない?」「えっ!足の毛のほうがすごいよ!」
しかし、そんな言葉はその時の私には届かなかった。夢の時間を手に入れるためならばどんな視線にも耐えられた。
私の夢、それは運転免許を手に入れることだった。

これさえあれば電車で指を指されることなくデートが出来る。深夜、急に会いたくなってもいつでも行ける。お金がなくてもセックスができる・・・。運転免許はこれまでのストレスから私を解放し、新たな希望を与えてくれるチケットだったのだ。教習所に通い始める前の日、私は“車と私”というお題を立ててありとあらゆる妄想を膨らました。

“遊園地に車で行く私・・・”
デートであっても、声を出すとオンナであることがバレるため、電車の中ではいっさい会話をしなかった私にとって、つり革に捕まりながら戯れ合う人達は憧れの存在だった。移動中の楽しい会話。うつむくしかなかった私には遠い世界だ。でも、車の中ならばそれが出来る。

(妄想中)
ア『T〜、飴でも食べる〜』
T『うん、食べた〜い』
ア『じゃあ、あーんして〜』
T『やだ、隣の人が見てるじゃな〜い』・・・・

私は雑貨屋で飴を入れる小箱と、Tの好きなレモンキャンディーを買って胸をトキめかしていた。
教官に興味津々な言葉を投げつけられてもへこたれなかった。Tと会えなくとも寂しくはなかった。夢の中でもアクセルを踏み、縦列駐車を練習する夜。

すべての試験を一発合格でクリアし、1つきでとうとう免許を手に入れた。
合格した日、大きな大きな夕日が空に浮かんでいた。自由を灯す旗のような夕日が、ゆらゆらと揺れながら空に落ちていく。それはまるで自分の力で希望と免許を手にした私に吹く旗のように思えた。
『これでTともっと仲良くなれる!』
その思いは、このひと月後に夜の闇へと沈んでいった。

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アンティル

アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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