ラブピースクラブはフェミニストが運営する日本初のラブグッズストアです。Since 1996

banner_2212biird

Loading...

いま付き合っている(と言えるのかどうかはさておき)クロと出会って、半年以上たちました。正月になんとか(という言い方も変ですが)クロの家に一泊したくらいで、そのあとはまた、週に一度ゲイバーで飲んで、それぞれの家に帰るという関係が続いています。私から連絡を入れることは、ほぼなくなりました。クロからの誘いがない限りその週一のゲイバーも実現しない状況です。

ただ私が毎日二丁目のビデオ屋で働いているため、クロが私に会いに来ることは出来ます。とつぜん私の家に来るという方法もありますが、ずいぶん前から私がクロの訪問を断り続けてきたせいか、最近では、私の家に行くという発言自体をしにくくなっているようです。ビデオ屋やゲイバーで私にモノ(その日に買ったDVDとか)を預けて、「今度(私の家に)取りに行くから」と言う婉曲的な表現をします。私は私で積極的にクロに会おうとしなくなっているので、クロは昼間に仕事の合間を縫ってビデオ屋にやって来ます。

ビデオ屋に入ってきたクロは私に声をかけません。そのまま店内の奥に向かい棚を眺め始めます。私も入ってきたクロに気がつきません。しばらくしてふと店内にクロがいることを知ります。

私には、入ってくる客をいちいち見ないというエロビデオ屋の店員としての作法もありますが、知らない人でもないのに声をかけないクロを当初は気味悪く思いました。
「どうしてなにも言わないで入ってくるのか」と尋ねたら、「(私に)気付かれないように入るのが楽しいんだ」と答えました。
どうやら一人遊びだったようです。

店内の奥にいるクロに気がついた私にクロはいち早く気がつきますが、それでも私と目を合わせようとしません。その遊び方に馴染めない私は、またかよ、と少し苛立ちながら放っておきます。しばらくして、店内をじっくり見回ってきたクロはレジに近づきようやく私に声をかけます。「なんかおもしろいの(ビデオ)ないの?」

そういえば私は昔から、好きな人や付き合っている人が自分の職場に来るのは苦手だったことを思い出しました(私のしてきた仕事は店頭での接客業ばかりです)。
職場では仕事の顔をしているからでしょうか、プライヴェートな付き合いをしている人がそこにやってくるとどんな顔をしていいのか混乱してしまうので嫌なのか、それとも他の人の視線が気になるからなのか、なんなのか、よくわかりませんが、とにかく苦手でした。クロと付き合いだした頃に、私はその話をして、なるべくビデオ屋に来ないで欲しいとお願いしたことがありました。「わかった」と、その時は酒に酔った顔でうなだれたクロは、結局その願いをちっとも聞き入れませんでした。私が変わるしかないのか、とビデオ屋にやってくるクロを睨んでいるうちに慣れてしまったようで、今はどうでもよくなってきました。
そもそもビデオ屋で働いている私をクロがナンパしたことで始まった関係でもあるので、クロが私に会いにビデオ屋に来ることは自然な流れで、私がクロに見せている顔と店員の顔との違いがそんなにはなかったせいかもしれません。
私がすすんでクロと二人だけの濃密な時間(みたいなもの)を過ごしていれば、クロがビデオ屋に来る必要もなくなっていたのでしょうか。店員の顔とプライヴェートな顔がもっと違えば・・。

ビデオ屋で、ようやく私と会話を始めたクロは持っていた紙袋を私に預けようとします。「これ預かっといて」と言います。私の家に持って帰るのか、と聞くと、この店に置いといてくれたらナントカ(人の名前)というのが取りに来るから、と答えます。直接そのナントカに手渡せない事情はよくわかりませんが、時々クロは、こうして私の職場を手荷物預かり所のように使う癖があります。「とにかく、じゃあ、お願いね」とクロは忙しそうに出て行きました。さっきまでのんびりしていたくせに、と私はどこかわざとらしさを感じて預かった紙袋をカウンターの中に放ります。夜になってそのナントカさんが取りに来ました。
職場で相方のオーラちゃんは分析します。

「その行動は、あとで茶屋ちゃんとできる共通の話題を残しておくためと、そのナントカに自分の彼氏が二丁目で働いていることを言いたいというのと、二丁目で自分の顔の幅が広いということを誰ともなしにアピールしてしまう性分から来ているのではないか」
あとでそのナントカさんがすぐ近くのゲイバーのママだったことを知り、その夜にまた二丁目に姿を見せたクロと飲んだときに、なぜ夜になるのを待てないで、自分で直接ママに渡しにいくということが簡単に出来るというのに、ロッカーが必要なほどの大荷物ではないのに、なぜ私(ビデオ屋)を使ったのか、という疑問が浮かび、オーラちゃんの分析に納得しました。私にはややこしい男心ですが、クロにしてみれば自然なことなのかと驚きます。
「そんなのオカシイと思う!」とか、「なんかヘンなの!」とか言えばいいのでしょうが、そういう態度も示さず、ビデオ屋にやってきて一人遊びを繰り返すクロを放っているうちに、ゲイバーで飲んでいるときにもクロはオカシイ言動をするようになってきました。
いつも行くそのバーでは若い学生バイトを何人か雇っています。もともと私が紹介したバーでしたが、今ではすっかりクロのほうが私より馴染んでいます。クロは二十代の細身の男子が好きなこともあって、そこのバイトの子とよく喋りお酒も飲ませます。飲みに来ている他のバイトの子たちに挨拶もされて上機嫌です。私と二人で飲んでいるときより楽しそうなので、姥捨て山ではありませんが、このままそっと置いて帰ろうかしらと思うほどです。その子たちの誰かと付き合ったほうが、もうクロが苦しまなくてすむような気がするからです。

先日はそのバイトの一人と携帯の番号を交換し始めました。そしてデートに誘っています。私とクロが付き合っていると思っているその子が困惑して、「じゃあ三人で行きましょう!」と笑顔を絞りだしました。それは、クロがいつも無反応な私にヤキモチを妬かせようとして起こした出来事でした。私は黙って笑って流してしまいました。
翌日、クロはとつぜんビデオ屋に電話をかけてきました。どうってことのない用事です。「それはどうでもいいから、とにかく、職場には電話をかけてこないで、ハイ、じゃあね」と早々に電話を切ったとき、その自分の言い方が、どことなくクロの物言いに似ている気がしてハッとしました。

RANKING人気コラム

  • OLIVE
  • LOVE PIECE CLUB WOMENʼS SEX TOY STORE
  • femistation
  • bababoshi

Follow me!

  • Twitter
  • Facebook
  • instagram

TOPへ