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私はアンティル Vol.140 動物の亡骸を抱えて・・・(文字通り)

アンティル2009.04.22

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辛いけど会いたい!!

私はTの間男になった。Kと喧嘩したTが私にかける電話を待ち構え、いそいそと出かける日々。そのために私は車を買った。助手席を倒すレバーが運転席側にあるカーセックスのためにあるようなスポーツカーだ。

ブーーン。夜中にTの家の前でTを待つ。

私と疎遠になってKと付き合ったことがうれしかったのか、Tの母は夜中に出歩くことを容認していた。私達はそのまま近くのカーセックスの名所に向かう。私は決めていた。Kの幼さに不満を持っていたTの気を引くために“大人な男”を演じようと。心の中は嫉妬で渦巻いていてもけっしてその姿は見せまいと平気なふりで車の中でKの話しを聞いた。

Tの父親は母親と30歳近く離れていた。2週間に一度やってくる父親とTの母親(同居していなかった)は激しい喧嘩をすることが多かった。TはKには言えない家の愚痴を私にこぼすこともあった。そう、私はTが会いたいときにだけ会い、したいときにセックスする都合のよい間男になったのだ。

嫉妬にさいなまれ、我慢できずにTと喧嘩になったこともあった。電話が来ない日は、TとKがいる所が頭に浮び離れない。そんな時は布団をかぶり、電話を待った。たまに私から電話してしまいTが出かけていると知った夜は、Wの家に車を走らせた。

そんな日々を続けて半年。久しぶりにTと旅行に行くことになった。
車をピカピカに磨き、Tが好きな音楽や2人の思い出の曲を控えめに入れたカセットテープを3日かけて作る。向かう先は3時間程の所にある温泉。私達は峠を越えて目的のペンションを目指した。その時だった。

道路の真ん中に犬が横たわっている。車にひかれたのだろうか、明らかに息絶えている。犬を避けて通る車の波に乗るように、私が右にハンドルを切った時だった。Tが信じられないことを口にした。

T「かわいそう。あのままだとまたひかれちゃうかもしれないよー(涙)どうにかしてあげて!」

どうにか・・・・私は動揺した。どうにか、とはあの犬を抱きかかえ、道路脇まで運ぶということだ。息絶えたであろう血を流す中型犬をだ。できない・・・
私は心の中で首を振った。横ではTが泣いている。

T「かわいそうだよー早くしないとひかれちゃうよー(涙)(涙)(涙)」

Tの前では“大人の男”にならなくてはいけない私。私の頭の中で“大人の男”=犬の屍骸も触れる勇気のある人 という方程式が浮ぶ。やらねば!

ア「そうだね。じゃあ、行ってくるよ」
T「うん! 待ってるね。」

そして私は平気な顔で犬に向かって歩き出した。
この日から私は何匹の亡くなったもしくは弱っている犬、猫、そして鳥を運んだのだろう。怖くて仕方がなかったけれど、“男ならこのくらい平気! 大人の男ならなおさら大丈夫”という声なき声に尻を叩かれ、Tの涙顔に答えていた。しかし、そんな私の努力もむなしく、TとKの関係は深くなっていった。Kの本気具合がいたるところに溢れ出ているのだ。Tからの話、そしてTの車に乗った時に盗み見るラブホのスタンプカード。そして手紙の束。私の心は張り裂けそうだった。でも私には残された道はない。『アンティル、“大人の男”になるべし!』私は動物の亡骸を抱え続けた。

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アンティル

アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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