ラブピースクラブはフェミニズムの視点でセックスグッズを売り始めた日本で最初のトーイショップです。

チンコな世界。挿入編(2)

北原みのり2004.03.01

Loading...
立位排尿ができる。
 
 
埼玉医大が性同一性障害の当事者に向けて記した、性器創建手術の説明文には確かにそう書いてあった。というか、それだけしか書いていなかった。チンコをつける目的について、である。
 
 
ペニスの創建にも段階がある。まずは女の体の場合、内側にある尿道を外に出して皮膚と膣の粘膜を利用してチンコを創る。これによって、タチションができる。のである。
 
 
私はこの一文を読んで複雑な気持ちというか、なんというか、一気に肩の荷が降りたというか、安堵のため息をついたというか。難問にとりかかっているつもりが、難問にしていたのは自分の考え方に問題があるだけで、実はものすごーくストレートな問いでした、小学一年生、というような体験をした気分になったのであった。
 
 
だって。チンコをつけたら、タチションができる。それだけ。なんですよ。これはもう、世紀の大発見なんじゃなかろうか。
 
 
もちろん。性同一性障害の人にとって、こそこそと個室に入ってトイレをすますのではなく、堂々と「男として」タチションできるのは、トイレ問題を解決する重大なことなのだろうと察する。それでも。タチションができる。それだけ? 私は性同一性障害の友人が持つ手術の説明文を何度も何度もも読み返してしまうのである。
 
 
「男の子は立ってするの。女の子は座ってするの」4才の姪が女と男を定義してこう言っていた。
幼稚園に入るまで自分がオスなのかメスなのかもはっきり分からなかった(というか、彼女にとってはどうでもよい事柄だったらしい)のに、幼稚園に通いだした途端、「男の子はぁ、女の子はぁ」と言い出すようになった4歳児である。あんまりうるさいので、「男の子って何ですか~? 女の子って何ですか~?」と聞いてみると、前述の答え。
 
 
その時に私は、こう言ってしまったのだった。「あら? 男だって座ってする人もいるんじゃないの? というか、女だって立ってオシッコする人もいるわよ。あたしだって時々するけど」と。頭にあったのは映画『フルモンティ』である。男のストリップを見に来た女が、男子便所でタチションをするシーンがある。それがまぁ。キレイに弧を描くそれはそれは見事なタチションだったのだ。
 
 
で。私は何をしたのか。姪に私のタチションを披露したのであった。「オバチャンも立ってするの?」姪は驚いて聞く。「まぁね」「やってよ」と、後にひけなくなってしまったから。で、結果は。ま、なんとか飛び散らしながらやりました。飛び散らすことくらい、全ての男がやってることだしね。うまく方向が定まらなかったのも、きれいな弧が描けなかったのも、「ああ今日はちょっとオシッコの調子が悪い」とごまかした。後でトイレ周りを掃除しながら、ウソはいけないと思った。
 
 
そこまでして私が4才の姪に伝えたかったこと。「男の子はこう、女の子はこう、という固定観念を捨てなさ~い」という、フェミ汁的思考なのであった。現実には、頭のおかしなオバチャンだったなぁ、という幼い頃の奇妙な思い出しか残さないとしても。
 
 
しかし。姪は正しかったのだと、埼玉医大の説明文を読んで思う。というか、訂正する必要すらなかったのだと自戒する。チンコとはタチションする道具。そっちの方がシンプルだ。
 
 
こんなにも「感激」している自分に動揺しつつ思うのは、マンコや子宮の「お道具感」を感じてしまっているマンコ持ちの日常である。子どものいない女友だちが「せっかくアルんだもの、使わなくっちゃね」と子宮を指す時の薄ら寒い気分や、レズビアンの女友だち(美人)に向かって「もったいないなぁ~」とつぶやいた男友だちの気持ち悪さとか。「女は子産みの道具じゃねーぞ」「女は穴じゃねーぞ」と百年前からフェミが言ってることを未だに感じる、マンコ持ちの日常である。
 
 
私は道具じゃない。マンコは道具じゃない。そう言い続けていた私にとってはだから、埼玉医大の「ペニス=立位排尿ができる」の明快さは盲点だったのだ。チンコもまた、道具、だった。発想の転換とはこのことだ。マンコのお道具感に比べて、私はチンコのお道具感については気が付いていなかった。だって。チンコを持つだけで、チンコがあるってだけで、男の自己肯定感たらすごいじゃん。あれは道具じゃなくて、生き霊みたいなもんだ認識してたのかもしれない。
 
 
ふと気が付いたが。私が読んだ説明書はFTM用のものであったが、MTFの方の手術には何と書いてあるのだろうか。クリトリスは何のためにある、と説明されているのだろうか。クリトリスで何ができると、記されているだろう。クリトリスほど、「道具」として役に立たないものもあるまい。
 
 
性同一性障害の人のペニス創建。最終段階は「勃起するペニス」である。性的興奮で「勃起」するのではなく、常にある程度堅く、大きなペニスを創る。この目的は何か。もちろん「挿入」である。え? やっぱりそれだけなの? 改めて声に出して、私はそのシンプルさに戸惑ってしまう。そうか。そんな簡単なことすら分からなかったなんてオレはアホだな。チンコはタチションし、挿入する道具なのだった。
 
 
タチションしない、挿入しないチンコは、それでは、子どもを産まない・チンコを挿入しない膣や子宮と同列だろうか。「使わないと損よ~」とか、おせっかいなことをチンコも口に出されて迷惑だとか思うこともあるのだろうか。
Loading...

北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めて、女性だけで経営するセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」を始める。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)など。佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・最新刊は香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

RANKING人気記事

Follow me!

  • Twitter
  • Facebook
  • instagram

TOP