ラブピースクラブはフェミニストが運営する日本初のラブグッズストアです。Since 1996

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「チンコ星人を粉砕するというのなら、なぜコンドームを売らなきゃならないのか。チンコ星人は粉砕してもチンコは必要なのか、そういう矛盾をラブピースクラブは引き受けて解決していかなければならない、お気の毒になあと思うのです。 」

ラブピースクラブイベントにて、小倉千加子さんがおっしゃった予言である。
 
小倉さんは占い師なのかも。お話を伺いながら思う。その証拠に、聞き終わったフェミ友たちは興奮したように「当たってた~!」と言うのである。結婚について、フェミについて、母について、長女について、「私のお母さんもそうだったー」「私が苦しかったのはそういうことだったのよ」と、興奮して語るフェミ友たち。中には「聞いてる時は全然当てはまらないよアタシにと思ってたけど、よーく思い返せば確かに当たってる」と数日後、神妙に語る友もいた。よく当たる占い師に話しを聞いた時の反応と同じような興奮を、フェミ友たちは小倉さんのお話を伺った後に共有していたのだった。
 
よく当たる「占い」に「興奮」を感じる人が多いのはなぜだろう。「当たる!」という驚きは、どういう類の感情なのだろう。私は正直「当たる!」と思って占いを受けたことはない。「当たる」占い師と話しをした後に感じる感想は「うまい!」である。優れた占い師が私の星をどう語るのか、物語として聞くのが大好きなのだ。その物語の質が、占い師の才を決めるのだと思う。
 
優れた占い師。それは「当たる」占い師ではない。語り部として才能があるかどうかではないだろうか。例えば、占星術や四柱推命くらいは誰だってちょっと勉強すればできるようなものだ。後は、星の持つ意味を「彼女」の物語として紡いでいく作業になる。誰が見ても同じ星の位置を、どう読み解くか。その読み解き方、そしてその語り方が、占い師の才能なのだと思う。
 
すでにある「サイン」=「構造」が、あなたにどのような意味を持ち、あなたにどのように左右するのか、あなたにどんな影響を与えるのか。優れたフェミの語り手が、この社会の「構造」を「私=女」の視線で読み解く時に感じる溜飲が下がる思いは、優れた占い師に自分の星を読み解かれる快感と似ているのかもしれない。一般に、女の方が男よりも占いに詳しいのは、自分が、自分のコントロール外の複雑な渦に巻き込まれている感を常に感じている側として、当然のことのようにも思う。私たちには「おんな自身」の物語が必要なのだ。
 
そしてもう1つ、優れた占い師であればあるほど、自分を語ることはタブーである。自身の恋愛、自身のセックス。慎み故ではなく、商売故にそれは語ってはならないことだろう。星に振り回される占い師など、私たちは見たくないのだから。そういう意味で、多くの学者フェミが「私語り」をしないのは、学者という商売柄はもとより、物語られる者としての地位に自分を置くことで、語り部としてのカリスマを失うことを知っているからなのかもしれない。男に振り回されない女、婚姻制度に振り回されない女、対幻想に惑わされない女、構造に苦しめられない女。そんな幸運な女の幻を見たい「語られる側」の女も、フェミの私語りを許さないのかもしれない。
 
そういう意味で、私は商売フェミ=優れた占い師としては失格なのだと思う。語られる側の女の常として、くり返される物語から逃れられない閉塞感を謳うだけならば、それは占い師の行列に並ぶ迷える女の一人である。優れた占い師の元へ嬉々として通い、自分の星を読み解いてもらうことにまだまだ快感を覚える私は、他人の物語を読み解くことにそれほど関心を持たない自室フェミだ。だから何だ、ということだけれど。
 
さて、前置きはここまでで、ここからが本題である。小倉さんが予見した「コンドームを売る」ことと「チンコ嫌い」でいることの矛盾である。今後ラブピースクラブはその矛盾を引き受け、解決していかなければならない、との当代きってのフェミ・占い師にそう言われてしまったのである。さて、どうしようか。「当たっている~」と呑気にはいられない。
 
数ヶ月前、「なんで男とセックスするんだっけな」な問いかけにモンモンと苦しんだ後、「チンコくわえながら、ラジカルでもないだろ」とラジカルぶりっこから一抜けた~と勝手に肩の荷を降ろしたつもりになっていたのだけれど、やはり問題は解決されていないのであった。当たり前か。この問題が再び浮上したことを受けて、ふたたび「なぜチンコなのか」を「挿入問題編」として考えてまいりましょう。
 
と、その前に。小倉さんの冒頭の言葉を受けて、何人かの知人・友人が不思議なことを私に言ったことを記しておこう。「小倉さんが言ってた矛盾、北原さん、どう思います? 商売、できなくなっちゃいますよね」と。え? なんで? と聞くと、「だって、チンコ嫌いと言いながらバイブを売るのは矛盾だって、小倉さん、言ってたじゃないですか」と。は? 違うよ、小倉さんはコンドームを売ることとチンコ嫌いが矛盾するって言ってたんだよ、と言い返すのだけれど、「え? そうでしたっけ?」という顔をする人が数人(一人じゃない)出てきたのであった。
 
「聞き違い」というよりは「思いこみ」。コンドームとバイブ。字数も違えば、リズムも違うし、意味も違うしな。で、考えたのだけれど、やはり多くの人にとって「バイブ」とは挿入する道具、チンコの代用品なのだろう。だから、「チンコ星人はんたーい」と始まったイベントの主催者が「チンコの具現化=バイブ」屋であることは、「そうよ、矛盾よ!」と頭の中で転換してしまったのかもしれない。
 
チンコが嫌いと言いながらチンコを入れたがるのは矛盾である。そりゃその通りだと思う。100%賛成。じゃ、チンコが嫌いと言いながらバイブを入れるのは矛盾。なのだろうか。
 
バイブ屋としては、正確に「バイブは入れるものではなく、当てるものです」「コンドームはチンコではなく、バイブにつけて」と訂正したいところだけれど、ディルド(ペニスの張型)も販売している身としては、友人たちの「聞き違い」に、耳をすまさなくてはならない。「チンコが嫌いと言いながらバイブを入れるのは矛盾か」。この問題に読者の皆さんはどう答えますか?
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北原みのり

北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めてフェミニストが経営する女性向けのプレジャートイショップ「ラブピースクラブ」を始める。2021年シスターフッド出版社アジュマブックス設立。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)・佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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