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去年の秋口に、なぜか無性に水族館に行きたくなりました。まず、「たくさんの水が見たい」と思い、「その中で泳ぐ無数の魚を見たい」と思い、「いや、イルカが見たい、クラゲかもしれない、海亀もいい」と、友達とのご飯の席で、思ったことをそのまま口にして壊れていたら、見かねた友達が、「じゃあ、いっしょに江ノ島へ行こうか、いいよ」と言ってくれて、その希望がぜんぶ叶う江ノ島水族館へ行ってきました。

大量の水も魚もイルカもすべて見ました。たまたまなのか、その日は幼稚園の団体が幾つか来ていて、五歳くらいの黄色い帽子の子供たちもたくさん見ました。魚の群れは誰ともぶつからないで泳いでいるのに、走り回る子供たちは「(私の体の)そこに来たか」というぶつかり方をしてきます。父親と間違えられて手も握られます。水槽の中も館内も普段から接していないいきものばかりでオロオロします。

ようやく整列した子供たちと一緒にイルカショーを見ながら、「よく働くイルカたちだわ」と感心しました。一日に二回も同じショーをしているようです。やっていて飽きるイルカはいないのかしら、今日はやる気が出ないからサボっちゃおう、ということはないのかしら、と思って、人じゃない生き物に人の事情を重ねることはおかしいことかもしれない、と思いなおしました。

水族館を出て、満足したかと友達に聞かれて、普段見ない生き物と子供たちをたくさん見た疲れも出て、「はい」と答えましたが、なぜそんなに水族館に行きたかったのかはわからないままでした。

わからないまま年を越して、先日は「オーシャンズ」という映画を見に行きました。海のドキュメンタリーです。まだ海の中を見たかったのか、と思いました。
もともと、宇宙、地球、自然、といったNHKのドキュメント番組は好んで見る方ですが、こんなに海中に固執しているのは初めてです。

映画を見ているうちに、このイグアナは「俺は淋しい」とは思わないんだろうな、とか、魚眼って感情ないなー、とか、巨大なクジラが泳ぎ去っていく姿に孤独を感じて、ああ、また人の事情を重ねている、と思って気がつきました。

そう、私がいま、淋しくて、(あまり)感情がなくて、孤独なのでした。私の事情を重ねていたのでした。そうして重ねられても、人じゃない彼らはそれを屁とも思わないことに安心しているのでした。

イルカやクジラは(なったことがないのでわかりませんが)人の感情に似たものを持っているかもしれませんが、カニやタコにはなさそうです。でも、イルカやクジラにしてみても、淋しいという状態になることはなさそうです。彼らの姿が伝えてくれるのは、死ぬまでにやることは決まっていて、日々食べて繁殖して生き延びるというシンプルな活動です。それがうらやましくなりました。

ここのところ、人恋しさや、人淋しさや、人懐かしさ、といった人依存の感情を扱いきれなくて、自分とは違う生き物たちをたくさん見て、一息つきたくなったのかもしれません。その舞台がなぜ海だったのかはわかりませんが、「オーシャンズ」に出て来た深海から南極までのどこでも、こんなところじゃ私はすぐに死んでしまう、生きていけない、ということはわかりました。

ところで、先月「婦人公論」の上野千鶴子さんと谷川俊太郎さんの対談を読んでいて、谷川さんが作家の佐野洋子さんと離婚されていたことを初めて知りました。13年も前の話だそうです。ずいぶん知らなかったものだと思っていたら、最近読みはじめた佐野さんのエッセイ集にそのことが書かれていて、私の頭の中では、雑誌の谷川さんの発言と佐野さんの文章で二人の離婚が立体的になったような気分になりました。谷川さんは三度目の離婚で、佐野さんは二度目の離婚だったようです。

谷川さんの発言では、「(「おひとりさま」暮らしは)全然悪くない。それより今が一番いいという感じです(笑)」「(「おふたりさま」は)もうまっぴら御免(笑)。二人暮しの苦労をさんざん味わったから、この年になってあれはやりたくない」「同じ家に24時間一緒にいるということに懲りたんですね」という感じで、佐野さんのエッセイでは、「結婚は制度であるから、気がついたら制度にはまっていた」「四十二歳の相手といえば相手だって一回位結婚しているのである。私の相手は二回していた」「なのに私は又離婚したのである」「これは疲れた。本当に疲れた」「今になってつくづく結婚向きの女でなかった」といった調子で、私の頭の中でかけあい漫才のようになります。

上野さんが「お付き合いがオーバーラップしている時もあったでしょう?」と聞けば、谷川さんは、「はい。でも重婚はしていません。つまり、この人とはもううまくやっていけないという時に、女性性に飢えて、他の女性を求めていっちゃうというのはありましたね」と答えます。

佐野さんが、出会った頃の谷川さんのことを、「二回目の妻とは別居中だったが、私の外にも二、三人の女が居るらしいのである。何でも真っすぐつき進む私は、本気でやらぬのなら、そんなもんはいらんと言ったら、相手は整理整トンに走ったが、机の中の整理が良いのに、人間を整理するのに実に下手くそであった」と描きます。

「女性性に飢えて」いた谷川さんも、「制度にはまった」佐野さんも、結果、「もうかんべん」といったところに辿り着いていることが可笑しくて、なぜかホッとしました。
結婚は、水族館の魚たちが誰ともぶつからずに泳ぐように、海の中では群れで泳いでいても一匹だけでも「淋しいから」でも「孤独」だからでもないように、「そういうもんだから」と淋しさに煩わされることなく、人が人以外の生き物のようにシンプルに生きるために考え出した制度かもしれない、と思いますが、人が海では生きていけないように、他の生き物のようにというのは無理があるんじゃないか、ということを、二人がからっと笑って言いあっているように思いました。

けっきょく私をラクにしたのは、海中の生命体ではなくて、シンプルに生きてこなかった「人」の言葉でした。
「婦人公論」2010/1/22号 上野千鶴子・谷川俊太郎 「しがらみから自由になって、アナーキーに生きよう」
「覚えていない」 佐野洋子 2009 新潮文庫
から抜粋しました。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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