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「すれ違いの生活 4」

茶屋ひろし2011.08.02

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職場のオーラちゃんが茶化したのは、もっと日常の話でした。
「そんなに気に病まなくても、すぐに出て行くんじゃない? だって、リピーターのない家なんでしょう?」
そうです・・狭くて汚くて。
「新宿でひとり暮らしをしているんだー(マンションかしら)、今度出張でそっちに行くから泊めてくれない?(ホテル代浮くし)」
と、私が「ウチは狭いし汚いよ」と前置きをしているにもかかわらず、なぜかそれを謙遜と受けとめ、私の事情をかいかぶってしまう友人たちを、一度泊めると、それ以来「泊めて」依頼がこなくなる私の家です。唯一二回、泊まりにきた二十歳の女子は、三度目の上京の際に、「もう働いていて大人になったので、今回はホテルに部屋をとりました!」とすみやかに報告してきました。
オーシマが来る前に、それでも片付けはしました。地震のときにあらゆる棚から滑り落ちてきた本やCDを、もとに戻してもまた崩れると面倒だし寝ているときに顔に落ちてきたら嫌だから、とかで二ヶ月くらい放置していました。それ以前に、床には物がいろいろと落ちていたので、それがクッションとなってCDやガラス物が何も割れなかったことは幸いでしたが、足の踏み場がない床が層になってしまったことは憂鬱でした。
これを機にブックオフに売ってしまおう、と思い立ちました。人一人が来るということで空間を広げたいし、しばらくは多少の生活費も援助しなければいけないだろうからお金もあってこしたことはありません。一日かけてダンボールで八箱分をまとめました。あれ、引越しするのかしら? と途中で勘違いしてしまうような作業でした。
続けて部屋を掃除して、布団をもう一組押入れから出して、風呂場とトイレを少し掃除して、もういいわ、これくらいで、とオーシマを迎えたのでした。
そういえばオーシマも刑務所からの手紙で、「もしかしてマンションですか? すごいですね!」と、私は何も言っていないのにかいかぶっていました。勝手に期待されることにくたびれていた私は、それを放って置きました。
「汚いでしょう?」とオーシマに言うと、「いやー、男の一人暮らしなんてこんなもんじゃないっすか」と否定されませんでした。
オーシマがやってきたのはゴールデンウィークの真最中で、「施設」にコンタクトするにしても、日雇いの仕事を探すにしても、連休明けかしらね、といった状態でした。出所してきたばかりで、羽を伸ばしたい気持ちもわかり、けれど使えるお金もそんなになく、一週間ほど、べたーとウチにいる具合になりました。
私は連休中も毎日働きに出かけていました。ある日は、出掛けに洗濯をお願いすると、「掃除もしていいっすか?」と訊かれました。「ええ、お願い」と当然のようにすましながら、内心は、やっぱり汚いのね・・、と申し訳なく思いました。
雑巾や洗剤や掃除機を出して後をまかせました。その日は、なんだかんだ褒めてやらないといけないような気がして、まっすぐ帰宅しました。
トイレの便座に新しくカバーがかかっていて、それはピンクのゼブラでした。
便器を洗うブラシ、洗剤、ビニール手袋、雑巾・・、風呂場に買ったばかりのものがあふれています。
・・だから、あるものでなんとかしなさいよ、なんで、すぐにお金を使っちゃうの、と思いましたが、汚かった風呂場と便器が綺麗になっているのは事実で、というより、私が使っていた(否、あまり使っていなかった)掃除用具に触れることさえ嫌だったのかも、と引け目もあり、私の口から出てきた第一声は、「ピンクになってる~!」という阿呆な歓声でした。
「ひろしくん、ピンクが好きなんだと思って」と笑うオーシマにつられて視線を辿ると、たしかに私の色々なピンクのシャツがハンガーに干してありました。
「幾らくらいしたの? お金出すよ」
と、財布を取り出すと、「いいっすよ、ていうか、もともとひろし君のお金だし」と断られました。ああ、刑務所に送った時の金か、と財布をしまいました。ちなみに刑務所内での作業で得られるお金は月にニ、三千円とのこと。私が送ったお金は使わずに貯めていて、それはもし、私の家を宿にできなかった場合の予算にするつもりだったようです。まだ、二万円くらいはあるとのこと、それ、仕事がみつかるまでの食費だね、と思いましたが、その認識はすぐにくつ返されることになりました。
その翌日は家に帰って来ませんでした。携帯電話を持っていないこともありますが、連絡もありません。三日でプチ家出? と展開の速さに驚きましたが、一人になりたいのかしら、とたいして心配もしませんでした。朝になっても帰ってこなくて、合鍵は渡しているので、私はそのまま出勤しました。その晩帰るとオーシマはいて、昨夜は池袋(なぜ?)のカラオケボックスに一晩中いたこと、たくさん歌ったあと、一人で考えていたら眠くなって寝たこと、を報告しました。その結論はこうでした。
「ひろし君、俺、施設に入ります!」
「あ、そうなの? じゃあ、明日は平日だから、いろいろなところに電話して聞いてみようか」と答えました。
そのあと、また住み込みでホストやるよりも、まずは地味でも昼間の仕事をコツコツこなして、アパート借りて自立するほうがいいんじゃない? というようなことを言いました。「はい」「はい」と神妙に聞くオーシマです。
嫌になったらすぐに仕事を辞めて、お金が入ったらすぐに使い果たして、あとに続かないことを繰り返して、そんなことを続けていてもしょうがないんじゃない? というようなことを言いながら、あんまり人のことは言えたもんじゃないけど・・、と自分に返ってくるようでした。
てっきり私は、オーシマが同じ画を描こうとしていると思い込んでいましたが、後になってそうじゃなかったことがわかりました。施設になんか入りたくないし、コツコツと働くなんて意味がわからない・・、ただオーシマは宿主の私に話を合わせようと必死だったようです。
(続きます)

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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