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乳房切除手術を受けたFTMが死亡したというニュースを新聞で知った。去年の5月、新宿の病院で21歳の方が手術中に亡くなったという。原因はなんだったのか、それを伝えるNEWSはなく、あまりに時間が経ちすぎてからの報道に違和感を感じずにはいられなかった。聞いた話によれば、この事件(あえて事故ではなく事件とさせていただく)を埋もれさせてはいけないと声を上げた人々の力が発表を後押ししたようだ。

私は13年前に乳房除去手術を受けた。当時私が行った手術は、乳輪を取り、脂肪を吸引して乳腺を切除し、乳首を小さくし、再び縫い付けるという方法のものだった。今の手術技術がどうなっているのかはわからないが、ある病院のサイトを見ると、今でも胸の大きさによって2つの方法で除去しているらしい。当時、私はFカップの巨乳。担当医はこれまで、サイズの小さい人に行う手術方法で施術した最大のサイズだと言っていた。子宮と卵巣の摘出も同時に行ったその手術は数時間にも及び、病院内を歩けるようになるまで1週間。入院日数は2週間近くにもなった。仕事に完全復帰するまでには1ヶ月を要した。

「ホルモン療法をしていなくても、カウンセリングをしていなくても、手術は可能です。どちらの場合も手術は一日で終わり、1週間後の抜糸の頃には通常の生活ができます。ただし手術器具を翌日まで挿入しているため近くのホテルに泊まることをおすすめします・・・・」

“FTM 乳房 除去”とキーボードを打てば、美容整形のHPが無数に出て来ることに驚く。そしてそこには、その手術が気軽で、リスクの少ないものだと感じさせる文章が載っていた。私が経験した手術の苦痛とのギャップに首を傾げる。それは、私が乳房除去のみの手術だからなのか?

手術が終わり、全身麻酔が醒めて、まず私を襲ったのは吐き気と怠さだった。グルグル巻きに巻かれた胸にはカテーテルが刺さり、その先にはハガキ大のパックが2つぶらさがっていた。パックには血が溜まり、定期的に看護士が血を捨てる。それが1週間ほど続いた。子宮や卵巣が摘出されたことを意識するような違和感も痛みはなかったが、胸の手術によるだろう苦痛はかなりのものだった。だから、1日で帰れるなんて私には到底、想像できない。

「乳腺除去手術は日帰りで行っています。
術後、歩行ができること、飲食ができること、排尿も問題なくできることから敢えて入院治療は必要がありません。」

そんな医者の書き込みに、その他人ごとな言い方に、私は軽い恐怖を覚える。
まだ日本で性別適合手術が認められていなかった20年前、MTFの友人が国内で男性器の摘出手術を受けた。朝、新幹線で都内から名古屋に向かい、お昼に手術を受けて、夕方には新幹線で帰路に経っていた。痛みは強く、どうやって帰ってきたのかわからないほどだったと言っていたのを覚えている。友人はその後数日、部屋を這って歩き、気がついたら傷口から出た血が止まらなくなっていて、再び名古屋に向かった。

1日でも早く、少しでも安く・・・・
当事者ならわかるハヤル気持ち。ガイドラインに沿って治療を進めた私は手術まで3年近くの時間と、100万円近くの治療費を要したが、そうとは言ってはいられない人達はもっと手軽で安い方法を選ぶ。海外での治療や、今回のような経験の少ない医者による手術・・・。

事故を起こした病院の医院長を名乗る過去の書き込みを見ると、“都内最安値”とうたっていた。病院のスタッフに当事者が多く、執刀医もそうであったとの話もあるその病院は、当事者にとってありがたい便利な病院だったのかもしれない。そんな病院を、そんな医者を、批判をするのは簡単だ。でも、それだけ済まされない何かがあるように思えてしかたがない。なぜ健康保険が使えないの? なぜガイドラインに沿った治療を選ばない人が多いの? なぜ被害者はこの病院を選んだの? なぜ死因が発表されないの?

事故からいや、事件から9ヶ月経ってようやく報道されたことが、その答えを導こうとしているように思う。
この被害者が胸の除去を切望するまでに至る人生を私は知らない。そしてその後の人生をどう描こうとしていたのかも計り知れない。でも、これだけはわかる。堂々と胸を張って歩ける自分を被害者は待っていた。
当事者一人一人が自分の物語とその経験を語ることの必要性を今私は強く感じている。

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アンティル

アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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