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パンツを見せる女の子

田房永子2013.03.27

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 小学4年生の時、「パオパオチャンネル」という関東ローカルの子供向け番組が学校で爆発的に流行っていた。月から金の夕方の帯番組で、曜日によってMCが変わる。毎日面白かったけど、当時スターになったばかりのウッチャンナンチャンがMCをする金曜日は特に人気があった。アメフトの格好をした男子が床に並べられた大きなカルタを取り合うゲームとか、床をプールに見立て床泳ぎの速さを競うゲームとか、「ドラえもん」にまつわるクイズのコーナーなどがあった。そのほとんどが毎週「出演者募集」をしていて、視聴者の小学生が多く出演していた。
 その中で唯一、女子向けの競技があった。「靴下脱がしレスリング」というもので、3対3で敵の靴下を脱がし、1分間で多く脱がしたほうが勝ちというもの。勝ったら豪華なおもちゃやグッズがもらえる。毎週それをボーッと見ていたのだが、クラスの女の子Aちゃんが「一緒に出よう」と誘ってきた。もう一人のBちゃんと、3人で一緒に応募ハガキを書いた。応募がたくさん来てるだろうし、出れるわけがないので「出たいです」「お願いします」とハガキを派手に書いた。チーム名を決めなきゃいけなくて、Aちゃんが「たこ焼きが好きだから、『たこ焼き』にしよう」と言う。Bちゃんが「たこ焼きじゃチーム名っぽくないから『たこたこ』がいいんじゃないか」ということで、チーム名は「たこたこ」になった。
 出演依頼はすぐに来た。翌週くらいに連絡が来て、翌々週くらいにはもうテレビ朝日にいた。私達は大はしゃぎで「絶対に勝って賞品をもらおう!」とはりきっていた。3人のお母さんは「ええ? 何ソレ?」「出るらしいわね」「夕方だしテレビ局なんてこわいわ」というテンションでそれぞれ着いてきた。「靴下脱がしレスリング」に出ている子達が着ている、チアガールっぽい可愛い衣装を渡され、着替える。お母さんたちが、白いお花の髪飾りは統一して3人それぞれ違う髪型にするという、粋な計らいをしてくれた。幼馴染のおばさんにビデオの録画も頼んできた。全てがバッチリだった。
 踏むと足首まで埋まる、ふかふかのマットの上が試合会場。ウッチャンナンチャンが両チームを紹介する。「『たこたこ』でーす! 変てこな名前ですね~!」と言っていたけど、緊張で3人は固まって黙っていた。このコーナーでは、膝下まである長い靴下をあらかじめ下に下ろしておいて、ウッチャンナンチャンが「は~い、靴下あげて~」と言うと女子たちが靴下をあげる、という儀式があった。ウッチャンが「靴下あげて~」と言ってる時、ナンチャンが「大人になったらストッキングをあげるんだよぉ~」と言った。靴下をあげて準備万端、ゴングが鳴って、試合開始。相手チームは知らない小学校の女子3人だ。靴下を脱がすためには相手の足を掴んだりしなきゃいけない。だけど私は兄弟がいないので揉み合いの喧嘩とかしたことがなく、アッサリ脱がされてしまった。Aちゃんが相手チームの一人を押さえ込んでるあいだにBちゃんが脱がせたり奮闘していたが、結局「たこたこ」は負けてしまった。
 もらったのは、「パオパオチャンネル」のシールのみ。賞品がもらえなかったことは不服だったけど、楽しかったね~! とテンションは高かった。お母さんが一言、「ストッキング上げて~ってなんか変なこと言ってたわね」と言った。
 翌日、学校では思ったほど「見たよ~」と言われなかった。女子は言ってくれたけど、男子には「出たんだよ」と自分から言った。学校では、取り立てて何もなかった。だけど塾に行ったら、一人の男子が「パオパオチャンネル出てただろ」って言ってきた。誇らしげに「うん」って言ったら、「よくあんなの出るな。恥ずかしくないの?」と言ってきて、本当にびっくりした。その男子が、ヒョロヒョロで、成績がわるくて、みんなからからかわれているタイプの男子だったから、余計に腹が立った。「出てただろ。すげーな、いいな。ウッチャンナンチャンに会ったなんてうらやましいな」と言われると思い込んでたから、ビックリして暗い気持ちになった。パオパオチャンネルに出て「恥ずかしい」ってどういうこと? 意味が分からない。私は本当に、この14年後まで、その意味が分からなかった。
 「靴下脱がしレスリング」は、そのあと2回も呼ばれて出た。本当は勝ったチームしか出られないので、「たこたこ」というチーム名を変えて欲しいと言われ、Aちゃんとスタッフの人が電話口で「スーパーエンジェルX」という強そうな名前をつけた。勝って、プラスチックでできたおもちゃのカメラをもらった。実際撮れるけど、フィルムを入れたりするのが面倒で結局使わなかった。3回目に出た時はクリスマスだったので、いつものチアガールの型に作られたサンタクロースの衣装だった。可愛かった。4回目の出演依頼は「もう面倒くさい」という理由で断った。

 それから14年後の2002年、インターネットが普及して、23歳の私はなつかしいものを検索するのが楽しかった。なんとなく「靴下脱がしレスリング」と検索すると、語っている人がたくさん出てきた。衝撃を受けた。「ミニスカートの女の子がパンツ丸出しでもみ合って戦う、めちゃくちゃエロい、伝説のコーナー」として「アダルトカテゴリー」で語られていたから。「あんなにエロいコーナー、今じゃありえないよな」「毎週ドキドキして見てた」「2人がかりで足を持たれて大股開きになっててエロかった」「オカズにさせてもらってました」等等、おぞましき言葉が書き綴られていて、目を疑った。本当に、私は何も知らなかった。テレビを見ている時、出ている女子たちがチアガール風の超ミニスカート衣装でパンツ丸出しなのは知っていたけど、テニス用のフリルのアンダースコートを穿いているとテレビ越しに分かっていたので、「大丈夫だね」とAちゃんとBちゃんと確認していた。私達3人は同じバレエ教室に通っていて、小さい頃からスカートがついたレオタードを着て踊り、チュチュも着たことがあったし、「スカートの下に見える股部分」というものに抵抗がなかったというのもある。普段の生活では勿論あるけど、バレエの発表会ではいろんな衣装を着るのが普通だったから、チアガール風のあの服も、あくまで「衣装」という認識だった。「エロ」という発想は微塵もなく、ただ賞品とウッチャンナンチャンに会えるのが目当てだった。母親たちはどう思ってたんだろうというのは謎だけど、とにかく私達3人と母親たちの間で「なんか変ね」というのはナンチャンの「ストッキングをあげるんだよぉ~」の一言だけだった。
 「なんか変ね」どころじゃない。オカズにされていた。しかも2002年の時点で、「靴下脱がしレスリング」の録画ビデオを欲しているロリコンたちがネット上にウヨウヨしていた。小学生の頃に関東にいなくて「パオパオチャンネル」を見たことがない人まで、「どうかビデオを譲ってください」「ダビングして頂けませんか」と懇願している。あまりにビックリしすぎて、ブログに「まさか、エロ目線で見られてたなんて知らなかった」と書いたら、コメント欄に「それはつらい思いをしましたね…。私も当時、出演した女の子だから、つらさが分かるんです…。どういう体勢で靴下を脱がされて、その時どういう気持ちだったのか、恥ずかしかったとかいやだったとか、詳しく教えていただけませんか?」と、どう考えても男が打ってるとしか思えないキモチワルすぎるコメントがついて、この人たちは色々マジなんだ、と戦慄し「パオパオチャンネル」のことは心の闇に封印した。
 その11年後の今年、その封を峯岸みなみが解いた。正しくは、あの坊主謝罪動画を見た人の「ここまで追い詰めるなんて」「恋愛禁止なんてナンセンスだ」という反応に対しての、「彼女たちはルールに基づいて自分の意志でやっているんだ」という主張。あの「自分の意志でやっている」という聞きなれた言葉の向こうにいる「AKB48」という女の子たちに、賞品とウッチャンナンチャンに無我夢中に突進している間にパンツを見せまくっていた小学生の自分が重なってしまってしょうがなかった。AKBは実際、衣装のパンツを見せて踊り「パンツ見せ集団」と呼ばれたりもするらしいが、それとは別の投影だ。
 ああいう時、「自由意志でやっている」という発言をする人は、あまりにも「女の子」というものを知らないと思う。自分の気づかないうちに、「そういう目」で見られているということ。あからさまではなく、“華やかなもの”を引き換えに優しく手招きする周りの雰囲気。母親すら気づかないで見過ごしてしまう感じ。自分が「そういう目」で見られていることを知るまでに、タイムラグがあること。気づいた時には、もうそれだけの理由では引き返せないところまで来ていて、自分の意志だと思うしかないことがあること。
 幼くて若い女の子を取り巻く「あの感じ」を男性が経験することは、女性より圧倒的に少ないと思う。でも実際にそういった「女の子の無知さ」はあって、あるからこそ成立しているというものが、世の中にはたくさんある。その「女の子」の大前提の基本がズッポリ抜けた状態で「女の子の意志」を語っているのを見ると、違和感が噴射してくる。だけど、成人した女が「性的搾取だ」という言い方をすると「被害妄想のオバサン」と嫌悪され無視されてしまう。「性的搾取」は一番言い当てている言葉だと思うが、ショッキング性が強すぎて「そんなわけない」という印象を与えてしまう。峯岸さんが坊主にしたことで、せっかく「女の子の無知さにまつわる大前提」を知るチャンスが訪れたのに、前と同じままの状態で、時は過ぎていく。

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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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