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フラリーマンを「GANTZ」で解説する 第1回(全3回)

田房永子2018.07.23

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このあいだ、漫画「GANTZ」(ガンツ・奥浩哉、著)を読破しました。全37巻。電子書籍で購入し2万円以上かかりましたが、読んでよかった。知らなかったことをたくさん知れた。

 「GANTZ」は結構、人が死ぬ。結構どころかめちゃくちゃ死ぬし、かなりすごい状態で死ぬ。私はパニックものとかゾンビとかホラーの漫画や映画やドラマはもともと苦手なのであまり見ない。特に妊娠中と産後は100%無理だったから、ちょっとでもそういうシーンがあったらそこでやめる、という数年間を過ごしていた。
 でも「GANTZ」は読めた。そういえば奥浩哉作品の「変」は高校生の頃好きで読んでいた。

 「GANTZ」には私の知らないことがたくさん書かれていた。
 「GANTZ」のような、主人公がある日突然、未知なる存在から戦士として任命され、通常では考えられない強靭な戦闘能力を与えられ、何かよく分からない敵と戦わされるうちにヒーローとなる物語、というのをあまり読んだことがなかったので、本当に衝撃だった。でも私の感想はもしかしたら、「GANTZ」系の、ジャンプ系の漫画に親しんできた人が読んだら、何か不穏なことを思わせるかもしれない。
 だけど、私はこういうヒーローものの漫画を読んだことがないから、一読者として感想を書かせてほしい。

 「GANTZ」を読んでいて、一番すごく、わあああ!!! と思ったのは、主人公の男子高校生・玄野計(くろの・けい)の心情だ。
 とにかくこの玄野くん、後半になり相手の敵がどんどん強大になり戦いが日本レベルから地球レベルへ移りさらに困難になっていくと、「君を守る」というセリフが爆発的に多くなってくる。「必ず君のところに生きて帰る」を意味するセリフも多発する。「君」というのは恋人のタエちゃんのことなんだけど、とにかく玄野くんのすべての原動力が「タエちゃんを守る」と「タエちゃんのもとに生きて帰る」に集約されていく。読んでいるこっちも、その玄野くんの気持ちのパワフルさに圧倒され、どんどんどんどんページをめくり、どんどんどんどん電子書籍をワンクリック購入した。

 「GANTZ」は基本的に、著者が生み出す奇想天外な世界観の魅力とものすごい描写力、それにあわせて"読者"のニーズにしっかり応えているところ、この3点倒立により、普段このジャンルを読まない私のような人間にも連続ワンクリックさせるのだと思う。
 しかし私はこの"読者"には入っていない。この場合の"読者"は、いわゆる「男子」である。39歳で女でジャンプ系を読まないけど漫画家で日々の主な仕事はだいたい育児である私にとって、「GANTZ」の中には共感できない展開や主人公の心境が時折出てきた。しかし「これは一般的な男子の欲望を反映させてこうなっているのだ」という風に読むとつじつまが合った。だから私自身のニーズは描かれていなくても興味深く読めた。

 玄野くんの恋人、タエちゃんは同級生で「地味」な女子高校生である。胸が小さい。健気で一途で一生懸命。玄野くんは最初は煙たがっていたが、一緒にいると癒されると気づき愛するようになる。玄野くんの情熱は、平和を守ることじゃなくてこのタエちゃんにすべて向かっている。結果的に人々を助けることになっているだけ、という感じである。
 玄野くんはもともと生まれ持った戦いのセンスがあるので、強い。そのため、国民的人気アイドルの女の子からも求愛される。このアイドルの子は胸がものすごく大きい。だけど玄野くんはタエちゃんに一途なので、アイドルの子には振り向かない。
玄野くんは、自分が未知なる世界で戦っていることをタエちゃんには隠している。タエちゃんを危険に晒したくないからだ。でもタエちゃんも玄野くんのおかげでめちゃくちゃ危険な目には多々遭っている。細くて小さい体で常に困った顔をしているが、とんでもないレベルの生命力を持っているのでこれでもかというほど生き残る。

 ヒロイズムにとって、このヒロインの生命力の強さは切り離せないものだろう。
 私は映画「パルプフィクション」が大好きだけど、出てくる女が全員、男の足手まとい役として登場するのは引っかかる。特にファビアン。男には戦わなければならない時があり男同士のしがらみがあるけど、女はその内容をよく分かっておらず、男に迷惑をかける。男はその後始末に追われ、でも女と自分を守るためにとんでもない事件に巻き込まれピンチを乗り切り女を守る。しかし女に再会しても何もなかったかのように伝えないままで終わる。女は「可愛さ」だけで渡り歩く。っていう感じ。女は常にぽや~っとしてるし男より身体能力もおつむも弱いけど、死にはしない。死んだら「女を守る」という男の話が終わっちゃうから。

 玄野くんの話に戻る。玄野くんに起こるあれこれを「男子のニーズ」として読むと、男子はこういうシチュエーションがたまらんのだろうなと想像できた。
 そういう風に読んでいるうち、最後のほうではもう、「あ、これ、あれなんじゃないの、あれだ、これなんだわ」という気持ちが私の中で固まった。

 私の中で、玄野くんと「妻がワンオペ育児しているのに家に帰らない男性」がもう同一化しそうなくらいリンクした。ていうか、ワンオペ育児とか関係なく、男ってこういう感じなんじゃない? と思う。
 妻子が暮らす家の中じゃなくてとにかく外で敵と戦いたい、と思ってる感じ、あるんじゃないだろうか。外で敵と戦うことが、イコール「妻と子どもを守ること」だと思ってる男の人、多いんじゃないだろうか。本当はそれだけが自分の仕事だと思ってるし、それしかやりたくないし、やる必要がないと思ってる。
 もしかして「男子」たちはそれが大人の男のやるべきことだ、という風に教わってきてるのではないか。この旨を、男性に確認してはいない。何の裏付けも取ってない形でいまこうして書いてます。でも私にとってすごくつじつまが合う。

 朝出かけて、会社や取引先で自分の能力を使って理不尽な敵と戦う。その原動力は「君を守る」「君のもとに生きて帰る」。そういうマインドで仕事をしていたら、そりゃ、奥さんには笑顔で待ち構えてて欲しいだろうな、と思う。

 「GANTZ」では、玄野くんが戦っている間、タエちゃんもタエちゃんで戦っているわけだが、でもお互いそのことに不満も言わず、再会できた際はお互いの愛を確認するということだけに時間を費やすわけです。
 タエちゃんは、家に帰ってきた玄野くんに、「私も戦ってきてんだから、あんたもたまには自分で夕飯作ってよ!」とか「もっと早く帰ってきて私を手伝おうって気にはならないの?!」とか眉をしかめて責めたりはしないわけです。そんなシーンがあったら「GANTZ」は台無し!

 だって、玄野くんの戦いのほうがタエちゃんの戦いよりスケールは大きくて、責務としての重大さも格が違うからです。タエちゃんの戦いはあくまで、玄野くんが背負った十字架から派生しただけの、おまけの部分なわけです。だからタエちゃんが玄野くんに「私も戦ってんだから(働いてるんだから)」とか言うのは間違いなわけです。タエちゃんが主張を我慢している、ということではない。現実的に、玄野くんのほうが社会的にも人道的にも重大なことをやっているからです。

 この「GANTZ」の男女の基本、は、多くの人たちの頭の中に無意識にある「男女はこうであってほしい」という関係性なのではないだろうか。男性の中には「彼女や妻に対して自分という人間はこうあらねばならない」と思っている人もたくさんいると思う。

 妻たちが言っていることが、なぜ夫たちに通じないのか。
 これだけ妻は育児に家事に疲弊しているのに、それを横目に夫たちはなぜ平然としていられるのか。
 小さい子どもを毎日たった一人で面倒見ることがどんなに大変かと説得され、妻にヒステリックに泣かれ、家事に手が回らず家の中がはちゃめちゃになっているのを見ているのに、どうして仕事が終わってもまっすぐ家に帰らず、わざと道草ができるのか。
 妻子が家から忽然と姿を消すまで、なぜ何もわからないのか。

 それらの答えが「GANTZ」に書いてあった。
 「GANTZ」の視点からすれば、世の妻たちは、いかに夫たちの"展望"を"台無し"にしているか、とも言い換えられるのである。

第2回へ続く

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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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