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書店の朝は「荷空け」と呼ばれる作業から始まります。その日配本された雑誌や書籍の荷をほどいて棚に入れていきます。
前に官能小説の売れ行きについて書きましたが、コミックのエロ状況も好調のようです。ノンケの男性向けのエロの話です。

ある朝、全篇カラーのエロコミックをパラパラと見ていて、描かれている絵のツルツル感に驚きました。体のつくりから大人の男女の設定だとは思いますが、子ども顔で、どちらも頭髪以外の体毛がなくて、性器は肌と一色です。手や足を描くのと同じ感覚なのでしょうか。セックス描写ばかりですが、なんでしょう、私にはエロではありません。

けれど、この世界をリアルなエロとする人が、同じように感じる人に向けて書いているわけで、私にはエロでないからといって否定する気持ちはありません。

この、エロなのに遠い感覚は、ボーイズラブのコミックを見ているときと似ています。あの時は(ってどの時だ)、女性の書き手が自分の欲望を男性の形や関係に置き変えて書いている、というような説明を読んで、そんなものか、と納得していたように思います。それは、私にとってのリアルではないからエロを感じないのか、ということでした。それどころか、「ヤオイ穴」という現実には存在しない性器が登場していて、ますます、私とは離れたファンタジーだ、という思いを強くしたように思います。

エロコミックとエロ本はビニールで閉じます。コミック店では男性の店長が女性のスタッフに、「(男性向けのエロで)悪いけど、(ビニールを)巻いてくれますか」とわざわざ断っていたと、別のスタッフが教えてくれました。
「横でそれを聞いていて、紳士か、と思いました」と笑う彼女は、ヤオイ穴どころではなく、ありえない肉体に変形している昨今の絵柄に、「想像力の賜物ですよね」と感心しています。けれど、「これがどうして売れるのかはわからない」とそのエロを理解出来ない様子です。

「ボーイズラブの説明」を当ててみれば、それは女性の形をした男性の欲望で、現実の女性ではない、ということになります。
そもそもエロとはそういうものかもしれません。共通認識されている大きな物語があって、それこそ王道だと、そこに当てはめていくものではなくて、そこからこぼれおちていくものや、その中でおさえられたものが、どんどん他に居場所をみつけて広がっていく・・。

このところ物議を醸しているという会田誠の作品群を一目見ようと、昼休みにウチの店から地上に出て、大通りを挟んだところにあるブックファーストまで画集を見に行きました。

痛々しい(切断されているので・・)女性たちの絵に、これはファンタジー、と頭では理解していても現実のことのように思え
てしまいます。女性蔑視の延長というよりも、これって日本の現状だわ(AKBとか)、と納得してしまいました。
エロは感じません。それは私がゲイだからかもしれません。
個人的な欲望のイメージというより大衆的な、もっと言えば、戦場をモチーフにしているような気がしました。それこそ、戦場カメラマンが撮った子どもの写真を見ている感覚に近いかもしれません。

この写真を、この先、ここに映っている子どもが目にする機会はあるのだろうか、それもどこかの街のギャラリーで、あるいは書店で大きな写真集を開いて・・という、鑑賞している自分と被写体の現実が開きっぱなしで閉じないような感覚です。
一方、(私の見ている範囲では)表面がどんどんツルツルしていくようなエロ市場のなか、国内で、無修正の男性器を載せた写真集を販売したとして、写真家のレスリー・キーが逮捕されました。インターネットにはすでに無修正の映像があふれているというのに、現物は駄目という、もはやよくわからない状況です。

いくつか拝見しましたが、それは体毛や肌の処理が一切されていない写真で、その加工のされなさ加減が逮捕につながったのか、と疑うほどです。ツルツルの絵みたいにしておけば、性器が映っていたところで「ワイセツ罪」にならなかったかもしれません。

って、そんなこともないでしょうが、コミックに描かれた性器にもモザイクがかけられたり白抜きにされたり、なぜか棒線が入ったり、といった処理を見かけます。けれど、先述のエロコミックにはそういった処理がされていませんでした。もしかして、陰毛がないため子どもの性器扱いになるのでしょうか。けれどそれはそれで、児童ポルノ法にひっかかりそうです。でもそうなると、これは大人を描いたのだと反論することができる・・リバーシブルな手法でしょうか。しかし、そんな法律対策でエロが仕掛けられているとは思えません。これはこれで、やはりツルツルにエロを感じる人たち向けの作品なのでしょう。

「ワイセツ」の線引きが性器の露出にあるのはなぜなのか、なんだかもうずっと考えていますが、いまだによくわかりません。答えは意外とツルツル感にあるような気もしてきました。「毛」とか「皺」とか「染み」とか、「黒ずんでいる」とか、そういう見た目を汚れや罪とする意識がこの法律を支えている、とか。

私は毛や皺がある方にエロを覚えますが、それだと罪になってしまうからという意識のなかでツルツルにエロを覚える人たちが出てきているのだとしたら面白い現象だと思います。若返りでも子どものままでいたいわけでもなく、自分のエロをこの社会の中で生かすために。

いっそのこと、毛とか皺を取ってしまえ、そしてそこに欲情するのだ、そうすれば許されるんだろう、生きていけるんだろう、と積極的なのか受け身なのかよくわかりませんが、そういう適応の仕方、と言ってしまえば大げさでしょうか。
とはいえ、外国のポルノを見ていると、毛などはキレイに整えられて無駄毛はないものも多く、もし日本でモザイクが解禁されても、その方向性が強化されるだけかもしれません。

そういう意味でも応援したいレスリー・キーですが、今回の場合は、あっけらかんと映し出された男性器よりも、通報した人の正義感というか嫉妬というか、そっちのほうが社会問題じゃないか、と思いました。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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