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おしゃれカフェの床を拭く私のしつけ論

田房永子2013.12.25

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 このあいだ、数ヶ月ぶりに娘(1歳半・Nちゃん)と二人で外食した。
デパートの中にある、オーガニックカフェ。お腹がすいたというよりは、私が疲れちゃったのでお茶したかった。店内には大人の女性しかいなかったので、「子供もいいですか?」と店頭で店員に尋ねた。「大丈夫ですよ」と言われ入ってみると、子供用の椅子が用意されていた。そういえば子供入店NGのお店ならば、店頭に貼り紙とかしてあるし、入った時点で断られれば入らなければいいだけの話なのに、なんで私はわざわざ聞いたのだろうか?
  隣に並び合う席に、Nちゃんと着席した。お水が入ってるガラスコップには、押し花みたいな模様がついていて、超ほっこり。テーブルもおしゃれだし、いい感じのお店だわ~とメニューを見ていると、なんだか女友達と一緒にいる気分になった。私がこういうお店に入るのは、一人の時か、女友達とだけだから、隣にいるNちゃんのことを“女友達”と錯覚してしまい、脳が混乱した。
 Nちゃんは「こぇ~ こぇ~(コップのお水飲みたい)」とか「はぱ はぱ(葉っぱがここにあります)」とか延々と一人でしゃべりまくっている。1歳児は、女友達みたいに一緒にカフェに入っても“例の離婚危機の夫婦の続報”を聞かせてくれるわけでも、メニューの気になるドリンクを頼んで感想を教えてくれるわけでも、私が最近会った変な奴の話を聞いて驚いてくれるわけでもない…。ファミレスだったら気にならないことも、おしゃれオーガニックカフェだと不思議と際だった。
 「豆ごはんどんぶり」みたいなメニューがあった。オーガニックな感じなのでNちゃんは食べないだろうと思ったが、一つ頼んだ。子供用の皿をつけていてくれたので、Nちゃんの好きなプチトマトをとりわけようとしたら、Nちゃんは大人用スプーンをギュッと握り、私の手を振り払ってどんぶりから直接ガガッ! と豆ごはんを食べ始めた。おかしいかもしれないけど、私はびっくりした。自分がそのどんぶりで食べようと思っていて、Nちゃんには分けてあげようと思ってたから。私が頼んだ料理を女友達がいきなり無言で食べ始める、みたいな衝撃があった。「エッ!」と思った。
 そしてNちゃんは「あち~!(熱い)」と言ってべーっと口から出し、私が慌てていると、また果敢にも熱い豆ごはんをすくってモリモリ食べていた。ボロボロと床まで落ちるごはん。子供のそういう食べ方は見慣れているはずなのに、カフェの光景としてはめちゃくちゃ違和感がある。私はドキドキした。
 数ヶ月前に外食した時は、Nちゃんはボーッとしていた。豆腐ハンバーグを手にとって、ゆっくりモグモグしていた。だけど今回は無心でムシャムシャ食べていて、途中で「こえ~(牛乳飲む)!」など的確に要求し、自分の食事を遂行していた。私は「自分の食べ物を食われた」というのと、「Nちゃんの成長ぶりがすごい」というのと、あっけにとられてその様子を眺めていたいような気分だった。
 だけど自分の子供だから、驚いてるヒマもなく世話をしなくちゃいけない。むしろ周りから見たら「そんな食べ方」は、母親である私のせいになる。1歳ならまだいいが、もう少し大きくなったら完全に母親のせいになる。
 そんな私の戸惑いなんか目もくれず、Nちゃんは結局一人で食べてしまった。その間、私は幼児用の椅子にくっついたごはんをおしぼりで拭き取り、持参したウェットティッシュで机を拭き、Nちゃんの服のシミをとり、を繰り返した。もう一体、どこまでキレイにすればいいのか分からなくなり、テーブルにもぐりこんで床をキレイに拭いた。
 「子連れでもいいですか?」と聞いたり、床まで拭いてしまうのは、「迷惑がられるにちがいない」と自分が思い込んでいるせいだ。私は、知らない人に注意されたりするのを怖がっている。世の中が「子供のしつけは親の仕事」ってことになっているから、無意識にやらないといけないと思って拭いたりなんだり体が勝手に動いている。だけど私自身は、子供の食べこぼしを徹底的に洗浄しないと気が済まないんですという人間ではない。

 ランチタイムの飲食店で床とかそこらをべっちゃべちゃにしたり、立ち上がって店内を歩きながら食べたりするサラリーマンとか、奇声を上げながら騒いで食べるOLなど、見たことがない。みんな各々が学校とかで周りを見て無意識に修正した結果なんじゃないだろうか? だってそういう「食べ方ヘンな奴はダメ」という空気がすごいから、その空気に入るだけで矯正される気がするし、矯正されない人は食べ方以外でも周りの空気を読むってことをしない生き方の人だから、それでもういいんじゃないかと思う。
 「箸の持ち方」なども、大人になって本人がいやだったら克服すればいいと思う。だけど何か「親のせい」とか「育ちの良さ悪さ」とかの話になる感じが息苦しい。
 そういうことを「家事も育児も一切を妻に任せていた」と言うおじさんに話したら「子供の箸とか食べ方はちゃんとしつけないとだめだよ」と諭されて、ええ~ッ? と思った。
 私の父親もそういえば、私の食べ方にだけはすごくうるさかった。普段私に何も話しかけてこないのに、一緒にごはんを食べる時だけは、私がお味噌汁をひっくり返すと手の甲や太ももをひっぱたいてきた。それが痛いしビックリするのですごく嫌だった。だけど何故か、父と一緒の時しか私は味噌汁をひっくり返さないのだった。父がいる時は、手がつるつるとよくすべった。
 今思えば、父からは「俺の出番」的な、「普段育児何もしてない俺の担当、食べ方指導」みたいな気迫を感じていたんじゃないかと思う。だから、父の見せ場(私の食べ方に怒る)を作ってあげなきゃ! と無意識に味噌汁をひっくり返していたのではないだろうか。単純に緊張してそうなってたのかもしれないが、それくらい、父といる時に限って、だった。
 そう考えてみると同年代でも、私の周りでは他人の食べ方マナーに厳しいのは男のほうが圧倒的に多い。そういう男って、他のマナーがめちゃくちゃだったりする。デリカシーのない発言をしたり、人のたばこを勝手に吸ったり、電話をものすごい勢いでガチャ切りしたり。「俺、箸持ち方ヘンな人ダメなんだよね」とか言うと、その瞬間から別の「ダメなところ」がやたら目立っちゃう。自分でどんどんハードルを上げているのに、彼らは自信満々に人の「マナー」について語る。
 それで思い出すのが、児童虐待のニュースの記事だ。ただ事実を伝えるんじゃなくて、筆者の主観がめいっぱい入っている記事を最近よく見る。筆者はたいがい男性で、「母親の性格が異常だからだ」とか、「最近の母親は甘やかされているからそんなことをする」とか、表面の薄皮1ミリレベルの浅さで、「虐待が起こる原因」を言い切っている。「僕は虐待が起こらない原因を追求したい」と書いてはいるが、そこには「僕のお母さんはこんなことする女じゃなかった(だから虐待する女は異常なんだ)」「僕のお母さんは立派だった(どんなことも忍耐していた)」という主張しか感じられない。実際書いてあったりもする。
 他人の食べ方や箸の持ち方をやたら批判する男もこれと同じで「僕のお父さんお母さんは立派なんだもん!」って言いたいだけなんじゃないかなと思う。
 とか、いろいろ心では思っているのだけど、私は空気を読みまくって飲まれまくるので、娘には世の中に沿った「正しい食べ方」のしつけをしてしまうと、思う。

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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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