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痴漢カウンセラー池宮周作

田房永子2014.02.26

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 去年「刑事のまなざし」というドラマが放送されていた。その第7話が「母と娘の呪縛」がテーマで、かなり面白く作られていた。
 刑事役の椎名桔平が、娘を縛りつける母親に「気づいてください。娘さんとあなたは全く別の人間だと。お嬢さんを手放してください」と諭したり、「家族の病理は連鎖するんです。その連鎖の始まりにいるのはきっと、親であることに真面目すぎた普通の親です」とか渋い口調で言っていた。あー、原作の人か脚本の人がしっかり「母娘関係の難しさ」について調べてるな~! と思える内容だった。そういった母娘呪縛の要素と、殺人事件がうまい具合に絡まりエンターテイメントとして成立していた。
 今まで観たドラマでは、「母を嫌う娘」というショッキングな部分だけを切り取られ、最後は突然「そうは言っても母と娘の絆は強い」と強引なオチになっていることがほとんどだった。
 「刑事のまなざし」はすごいぞ! と思った。実際に椎名桔平が全国の「母の過干渉に苦しむ娘」の家庭へ行って母親へこんな風にダンディーに諭してくれたら、少しは“毒母”たちの猛獣っぷりも一時的にでもおさまるんじゃないだろうか、なんて夢想しながら楽しめた。
 予告を観ると、次回は「痴漢に遭った女子高生を救えるか」というテーマ。「刑事のまなざし」なら、今までにない「痴漢被害者の真実」を見せてくれるに違いない。期待大だ。
 しかし次の週、ものすごくガッカリさせられた。
 バスの中で痴漢被害に遭って以来、自傷行為を繰り返す女子高生。犯人のオッサンとバッタリ会ったりしているうち、心の交流をするようになる(ありえないけど、ドラマではありがち)。実は、女子高生は悪い男に撮られたエロ画像で脅されていて、男の命令でオッサンを痴漢にでっちあげて脅して金を騙し取ろうとした、その罪悪感から自傷行為をしていたという内容だった。別に「痴漢」でなくても他のことで代用できる内容だった。
 日本のドラマでは、「痴漢」は「でっちあげられた冤罪を表現するツール」として使用されることがほとんどだ。実際の痴漢の事実が描かれているドラマは見たことがない。
 去年人気だった、弁護士ドラマ「リーガル・ハイ」でも、「痴漢」を扱ったシーンがあった。クラブで踊る女が、隣にいた男に「触ったでしょ!」と怒り、男が「お前みたいなブス触らねえよ!」と喧嘩になる。そこに居合わせた「“ドS女王系”判事」役の広末涼子が、「あなた触ったんじゃないですか? ここの店の防犯カメラを観れば判明するでしょう」とワイン片手に仲裁に入る。ひるむ男に対し、「これは、立派な痴漢行為であり、『ブス』と罵ったのは、女性に対する侮辱行為です! 何より男性として愚劣です!」と言い切る。そこで「そうよ!」と言った女に対し、「あなたもこのような遊興施設に露出の多い服装で来たのであれば、痴漢行為が誘発されるのは想定するべきです!」と言い、「両者共に、大人としての振るまいができないのであれば、今後出入りを禁じます!」と“判決”を下していた。
 「リーガル・ハイ」自体、リアリティよりもギャグ要素が強いドラマなので、広末涼子演じる「ドS女判事」の人となりの紹介としてのたわいのないシーンだったが、ドラマで「痴漢」はこうした“たわいのないもの”として扱われることも非常に多い。

 2010年に放映されすごく面白かった、ママ友バトルドラマ「名前をなくした女神」でも、「痴漢」がものすごい描かれ方をしていた。夫がバスで女子高生の尻を触っているところを見てしまう妻。実は夫は会社でセクハラ容疑をかけられ、それがつらすぎてバスの中の女子高生を見た時に女に対しての憎しみがわきあがってつい触ってしまった、というオチだった。テレビの前でずっこけた。
 そうやって「会社で人格を破壊されるようなつらいことがあって善悪の判断がままならないほど心身衰弱してしまった男の行動」として、「痴漢」が描かれる場合もある。「ちょっとあの時どうかしていただけで、“本物”の痴漢ではない」という弁明。夫役の俳優は、痴漢シーンで無表情で女の尻を機械的に触っていた。
 テレビで流れる「痴漢シーン」の男はいつも無表情だ。しかし実際の痴漢はそんな無表情じゃない。血走った目をきょろきょろ動かして女を物色し、不自然にターゲットに近寄り、動作もおかしい。股間もテントが張っている。心身衰弱状態なんかじゃない、むしろギンギンだ。

 こんな風にテレビドラマでしょっちゅう「冤罪でした」とか「たわいないものです」とか「女も気をつけるべきなんです」とか「心身衰弱でした」とかいうオチを日常的に流すというのは、「現実には、痴漢なんて存在しない」というメッセージを流しているようなものだと思う。「痴漢は、心身が衰弱している状態の男が悪気なくなってしまうもの、若しくは女側に悪意がある全くの冤罪」という表現で、事実(電車内で勃起し発情している男が毎日無数に電車に乗っている現実)を隠蔽していると言ってもいい。
 これを「振り込め詐欺」で例えたい。刑事ドラマで「振り込め詐欺の容疑者は、実は無実であり、彼を訴えたおばあちゃんが実は嘘をついていたのです」という結末がしょっちゅう流れてるようなものだ。
 そんなものを観ていたら視聴者は無意識にでも「振り込め詐欺って犯罪は実際にあるのか? ばあさんの勘違いなんだろ? ばあさんという生き物は自意識過剰だからな」とか思考していくようになるのが自然だと思う。

 でも、振り込め詐欺に騙されたおばあちゃんに、「あなたもこういう詐欺があるって分かってるはずでしょう」だとか椎名桔平や広末涼子が諭すドラマなんて、観たことがない。そんなもの流したら、視聴者は「ふざけんな! 振り込め詐欺を軽く扱うな!」って批判するはずだ。
 だけど「痴漢」はとても軽視されている。痴漢冤罪ネタが、ドラマでも情報番組でも流れるのはニーズがあるからだ。それを観て「ほら、冤罪が多いんじゃないか」と胸をなでおろす層がたくさんいるんだと思う。その層が楽しめれば視聴率が安定するから、そのために「痴漢」が軽視されることが当たり前になり、実際に痴漢に遭った時、被害者が声を出しづらい環境を作り上げている。
 ドラマの中で、「痴漢」をたわいのない“軽犯罪”として使用するのは、日本の歪んだ伝統的な表現、文化として仕方ないとしても、だからこそ、「歪んでいる」ということも認識するべきだと思う。そのためには、「痴漢をしてしまう男とその家族と被害者のリアルドラマ」をテレビで流すべきである。

 痴漢をしてしまう男たちを治療したりカウンセリングする、カウンセラーがいる。彼らを主役にしたドラマを流すべきだ。
 椎名桔平主演で「痴漢カウンセラー池宮周作」みたいなタイトルで、痴漢逮捕に怯える男や常習でカウンセリングを命じられた男たちを、医学や心理学とかいろいろなプログラムでその女性観や倫理観を更正していく2時間ドラマをやるべきである。痴漢で悩む男には平田満や杉浦太陽、もう手の施しようのない極悪な痴漢男として萩原健一をオファーしたい。
 男たちは、「痴漢って、本当にいるんだよ」という都市伝説としての痴漢や、「こんなことをされた」というエロ話としての痴漢体験談は大好きなくせに、「痴漢被害で苦しみ怒っている女の話」は大嫌いだ。目をそらすし、自分が責められていると勘違いして急に怒り出す奴までいる。
 だから「痴漢カウンセラー池宮周作」は、あくまで男が男を救うヒーロードラマ、として成立させなければいけない。桔平が男たちを救うドラマなら、男たちも観るだろう。
 「痴漢カウンセラー池宮周作」を流すことによって、椎名桔平のかっこよさと共に、痴漢の実態を知らせたい。私自身、シナリオ教室に通って「痴漢カウンセラー池宮周作」を書こうという気持ちになった。のだが、まずは漫画で描くことにした。しかし、現在の自分の仕事状況や取材なども含めて3年はかかりそうだ。その内に同じようなドラマが流れる世の中になっていればいいのだが、まったく期待できない。

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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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