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イケメンたちとの仕事

田房永子2014.09.15

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 少し前、某専門誌でインタビュー受けることになった。ものすごくニッチな超マニアック専門誌だから、というだけで、メールでやりとりしていた編集者A氏のことを時代遅れのスーツを着た、モッサモサの髪型の冴えないおっさんだろう、と私の脳が勝手に思った。
 編集部へ着くと、親しみやすいオダギリジョーみたいな、28歳くらいで長身なのに顔が小さい、というかなりのレベルのイケメンが出てきた。出版系の会社でこんなモデルみたいな若い男が働いていることは滅多にない。女性編集者で他の“容姿が重要な仕事”に就けそうなくらいの美人はたくさんいるけど、男性で、ここまでのイケメンは見たことがない。
 この専門誌は随分とすごいバイトを雇ってるなと思ったら、その親しみやすいオダギリジョーが「Aです」と名乗るので仰天した。
 そしてその横から、日テレのアナウンサーみたいな実直真面目黒髪さわやか系イケメンが現れ、「私も同席させていただきます」と言う。その黒髪イケメンも編集者だと言う。


 あり得ない。おかしい。タイプの違う相当なレベルのイケメンが同じ編集部に揃ってるなんておかしすぎる。聞いたことない出版社のマニアックすぎる雑誌で、普通に求人してこんな人材が来るわけがない。(断定)


 それとなく聞いてみたら、編集者はその二人だけで、編集長と副編集長が女で、4人で専門誌を作っているという。この職場にきてオダギリは1年未満、日テレアナ風のほうは半年未満で、「文章の勉強をするために編集者になった」と意味不明なことを言っていた。いや、別に文章の勉強するために編集者になるという人もいるかもしれないしオカシイことじゃないかもしれないけど、私はそんなことを笑顔で堂々と言う編集者に会ったことがなくって、推測だが、代官山のカフェの店員かなんかを編集長が「文章の勉強にもなるよ」とか言って自分のオフィスに招いたのではないか・・・としか思えなかった。


 さらにこの二人が、話し出すと犬っころみたいでとてつもなく可愛いのである。
 私の話を聞くインタビューだから当たり前なんだけど、「なるほど?」「そうか」「すごいですねえ」と感心しながら聞いてくれる。オダギリジョーは人なつっこくケタケタ笑い、日テレアナ風は、時にこちらの言ったことに深く考え込む仕草をしてさらに質問を掘り下げてきたりする。気分がよくならないわけがない。  


 今までもインタビューとかで、同じ年代の男性に「そうですか」「すごいですね」というトーンで話を聞いてもらったことはあるし、その人たちに気分良くしてもらえなかったとか、そういうんじゃない。
 このオダギリと日テレ風と話していて、今までのそういった仕事と決定的に違うのは、
外見の良い彼らが、こちらの気分のよい態度をする度、自分の脳が「いやいや? 編集長、いい仕事してますねえ(照笑)」と思ってしまうことだった。
 彼らと話しているのに、私は彼らの向こう側にいる未見の女性編集長から「どうです、うちの子たちいいでしょう」と言われているような気分がし、「編集長、いい教育してますねえ。よくしつけてますねえ」と対話しているような気持ちになる。
 彼らのガンバリに対して、彼ら自身を評価するわけじゃなくて、彼らを使っている編集長の手柄として捉える。
 男にとっては、この視点は普通なんだろうなあ・・・・・・と思った。受付嬢とかキャビンアテンダントとかホステスとか、「異性」からサービスを受けたり一緒に仕事をしているようで、その向こう側の「同性」を評価する、という感覚。
 

 自分のことが気持ち悪くなったけど、でも「女の気分をよくさせる素質がある、もしくはその教育をされているイケメン」の威力に圧倒されてしまい気分は最高、「編集長はボーイズバーを経営して欲しい! その才能がある!」と帰りの電車で盛り上がった。


 「女の気分をよくさせる素質がある、もしくはその教育をされているイケメン」は、幻のツチノコかってくらい、数が少ない。
 その反面、「男の気分をよくさせる素質がある、もしくはその教育をされている美人、カワイイ女の子」は、この世に無数に存在する。蟻くらいいる。つうか女は全員「男のプライドを傷つけてはいけない」と教育され「きれい、可愛くしていないといけない」というのがもう決まりであるかのように叩き込まれている。


 私は20代の時、いろんな男性誌でたくさんの男性編集者と仕事してきたけど、自分より年下の男性でも、私のほうが気を遣って「気分よくいてもらう」ことを意識的にやっていた。それは相手の才能とかをリスペクトしていて自然にそうなっているわけではなく、そうしないといけないと思っていたし、そうするのが当然という空気を感じたし、そうしたほうが仕事が円滑に進行できると分かっていたから、やっていた。外見も、髪をセミロングにしたりスカートを履いて“無難”な格好を心がけた。誰からハッキリと教えられたわけではないけど、「そうしていたほうが得だ」という空気を、男性たちから発せられるオーラで感じ取っていた。


 私は逆に、男性に対して「ちょっと格好を気にして、嘘でも気使って、女を気分よくさせたほうがあなたの得だよ」なんて空気、男性に対して出したことがあるだろうか。記憶にない。


こんなイケメンを取り揃える女性編集長がこの世にドンドン増えたらどんなことになっちゃうんだろう(ワクワク)と思っていたのだが、この後、親しみやすいオダギリジョーことA氏によるあまりにも乱雑すぎる進行と無茶きわまりない要求が連続で発生。こちらに非があるかのような形でこのインタビュー記事はお蔵入りとなった。「女の気分をよくさせる素質がある、もしくはその教育をされているイケメン」と気分良く仕事が終了する時代はまだ先のようである。

 

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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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