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いつまで「料理」「料理」言ってんだ

田房永子2014.12.15

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67歳の女が容疑者の「京都連続不審死事件」の影響で、ワイドショーでは「高齢者婚活」についてをやりまくっていた。
 その中で、結婚紹介所に登録して婚活に励む高齢者男性に密着したものがあった。彼は確か70代だったと思う。何度かデートまではこぎ着けた。一緒に小旅行へ行く女性にも出会えたけど、結婚までは至らなかったという。
「相手の方も、他にいい人が見つかったんじゃないですか?」
 あっけらかん、と言っていた。彼は30年前くらいに離婚を経験している。今はほぼ365日全ての食事が宅配弁当。独りで食べる。
「あったかいごはんが食べたいねえ。『ああ、お母さんの料理は最高だよぉ』って言いながら、食べたいねえ」
 まるでテーブルの向かいに“妻”がいるかのように、ジェスチャーしながら話す男性。「保険金を狙われるんじゃないか? という警戒心はないか?」という番組スタッフからの問いには
「いーよ、いーよ、お金あげるよ!」
 と、まさかの『保険金目当て可。むしろウェルカム』という、このコーナー自体が破綻する内容を軽快な口調で発する男性。それどころか男性は「私が死んだらあなたの手元にはこれだけの金額が入ります」という証拠のために保険の契約書をお見合いの際に先に見せてしまうという。「そのほうが相手も安心でしょう」みたいなことを言っていた。


 冷えた弁当を毎日独りで食うのは確かにつらいだろう。あったかい料理を作ってくれる人がいて、それを食べれるほうがそりゃいいだろう。だけどそのためには相手が「お金」目的でもかまわない、むしろ相当する額の金を与えられるほどの権利を自分は持っていると相手に提示する。その感覚は、二人で共同生活を送る「結婚」という概念からはかけ離れていて、もはや「人身売買」と呼ぶほうがしっくりくる。これは私の想像だけど、ヘルパーさんを雇うのではなく“妻”にこだわるのは、自分だけに従順でより気軽に要求を言いつけやすいという考えからではないだろうか。
 結婚相手の女性のほうが自分より早く動けなくなってしまう可能性、先に死んでしまう確率のことなんてまるで視野に入ってない。彼の口ぶりからはそう感じられた。むしろ先立たれた時に「騙された!」と思うんじゃないかとすら想像してしまう。


 彼には、30代で若くして亡くなった娘がいた。妻と離婚してからも、その娘とは交流があったという。娘の遺影を見て泣きながら「結婚したら、結婚相手と娘の墓参りに行く」と言っていた。娘の墓参りに一度も行ったことがないと言う。娘が亡くなったのは十年以上前。結婚相手となら行くという墓に、何故一人で行ったことがないのか謎だった。(大きなお世話だが・・・)


 私は29歳で結婚した。あの頃の私は「結婚」するために必死だった。
 10代の頃の人生計画では「35歳頃に結婚すればいい、それまで仕事をしたい」と思ってた。つまり男性が考える理想的(ほどよく遊んで仕事も安定した頃)な結婚年齢って35歳くらいだと思うんだけど、私も同じ感覚だった。
 だけど実際25歳頃になると、「女」としての結婚の現実を突きつけられた。とにかく同年代の女達の「結婚」に対する熱がすごすぎた。
 当時の私は官公庁でバイトしていたのだが、そこは「やりたいことなんてない。仕事なんてしたくない。早く結婚したい」という欲望を隠さない女たちでひしめいていた。フルタイムをひたすらどうでもいい作業で時間をつぶす仕事。エリート公務員の独身男性職員の「お嫁さん候補」という意味もあって、女性限定のアルバイトだった。そんな露骨な職場なのも手伝って、バイトの独身女性のほとんどが結婚欲を丸出しにし、給湯室で口をひらけば「結婚」「結婚」「あー負け犬になっちゃう」「どうしよう」「早く結婚したい」とうめく。私は結婚なんてあと10年くらい先のことだと思っていたのに、毎日毎日聞いているとだんだん焦ってくる。
 長年同棲してる彼氏に結婚してもらわなきゃ、「許可」をもらわなきゃ、という心理になっていった。結局26歳でその彼氏と別れたのだけど、ちょうど周りにも長年の同棲を解消した26?27歳の女がワサワサいた。「同棲」「婚約」という“安心”から突然振り切られた私たちは、寄り添い合って励まし合った。大丈夫、きっと大丈夫、次はいい人が見つかる、結婚して“もらえる”。
 あの頃の「結婚」に対しての自分を含めた周りの同年代の女達のムードというのは、考えてひとつひとつを噛みしめて前に進む、という感じじゃない。細くて長い筒の中にたくさんの女達が詰め込まれていて、後ろからはワーギャーとパニックになった女達が押し寄せる。女達は口々に叫ぶ「早く結婚しなきゃ、大変なことになる!!」恐怖と不安で後ろから物理的に押し出されてただ前に進む、そういう心理状態だった。


 その後、いまの夫と結婚するとなっても、婚姻届を出すまでは、相手の気が変わったらどうしようと不安だった。「焦り」を見せると男は逃げるという“教訓”を胸に、とにかく相手に「結婚したがってる感」を悟られないように必死だった。真顔で水面に浮かんでいるが、手足はちぎれんばかりに高速で動かしていた。料理は得意じゃないから上手くはないが“もちろん”がんばってた。婚姻届が受理された時、ホッとしすぎて数日呆然とした。
 私にとって「結婚」は「この国で生きていいよ」っていう資格みたいな意味があった。実際にはそんな意味はない。だけど「結婚」に対する熱風を物凄い勢いで出している同年代の女たちは、どう見ても一人ではこの先、生きていけるようには見えなかった。儚いし弱いし頼りない。主婦じゃない彼女たちの未来なんて想像できなかった。結構いい家で育った実家に金のある彼女たちが「結婚願望」を軸に生活を送っているのは、それしか道がないからであり、結婚だけが今後の自分の唯一の命綱だと自覚しているからだ。夢があってそれをあきらめられなかった私は彼女たちをバカにしきってしまいたいのにできなかった。私も「女」だからだ。


 最近、男性向けの結婚相談サイトのWEB広告のバナーを見た。「ホホウ、なるほどなるほど」みたいな表情の眼鏡をかけた男のイラストに、「そろそろ独身じゃアレなんで とりあえず嫁さがしてください」というキャッチコピーがついている。
 男は「そろそろ結婚したい」「そろそろ嫁欲しい」と「そろそろ」という余裕のある言葉を使用できるんだなあ、と思った。知人男性にこのことをいうと「男が結婚に必死になったら恥ずかしいしみっともないから、広告にはそうやって書くんですよ」と言っていた。
 そんなところでもプライドを発動できる、やはり男には余裕があると思った。


 女は、結婚するなら家事(特に料理)ができなきゃいけない、というのが未だに根強くある。
 「家、ついて行ってイイですか?」という、一般人の家に番組スタッフが突然おじゃまテレビ番組がある。その模様のVTRをお笑い芸人が見る。
 キャバ嬢や女子大生の部屋に行き、冷蔵庫の食材が少ないだけでいちいちスタッフが「何もないですね」と言って、芸人も「あ~あ~」と呆れ、「料理しないと」と言う。部屋が片付いてないと「女の子なのに汚い」と言う。だけど、奥さんに出て行かれた男の部屋が散らかっていると「あ~、男の一人暮らしだね」と同情する。男が「料理はしてないけどご飯は炊いてますよ」と50時間保温しっぱなしのジャーを見せると「えらい」と言っていた。何がえらいんだ?
 キャバ嬢やバイトをしている女子大生だって、40近いサラリーマンと同じくらい忙しいだろう。むしろもっと忙しいんじゃないだろうか。(サラリーマン男たちはいくつになっても忙しさをアピールしまくるけれども、ちゃんとした企業とかの正規雇用で40歳近くなっても新入社員並に仕事に時間がとられるもんなんだろうか? それが恥ずかしいことであるという認識が社会に早く根付けばいいのにと思う。そして日本はいま残業大国であることが問題視されているが、そこに便乗して、0歳育児を一人でしている妻を放置し、時間をちょろまかして飲み会やキャバクラ、風俗、DVD個室鑑賞に立ち寄って時間をつぶしている育児放棄いわゆるネグレクト男たちの生活スタイルの検証もぜひとも進めるべきである)

 
 結婚するために、男は仕事と金があればよい、というのが一般的だ。だけど仕事も金もどっちにしろ自分が生きてくためには得なければならないものだ。女は、女だからって結婚までのあいだ国から生活費が支給されるわけではない。されてるんだったら、「料理ができて当たり前」という価値観が通るのはまだ分かる。だけど社会人は男も女も同じ状況なのにどうして未だに女に対して「料理」「料理」「家事」「掃除」「料理」「料理」って男たちはあほみたいに言うんだろう。そこを重視して要求してると、結婚して子どもが生まれた時、自分が育児・家事をするなんて「負け」みたいな感覚が生まれてしまうと思う。だから意地でも家に帰らない、みたいなプライドが発動するんじゃないだろうか。そのうちに妻子は出て行く。一人暮らしでご飯を50時間保温させているうちに老人になって結婚相談所で知り合った女性に保険の契約書を見せて“安心”させて、料理を作ってもらおう、さらに死に目も看取ってもらおうとする。
 まちがいはどこから始まっているのか、いまこそ男たちにも考えてもらいたい。

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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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