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ジョージの「膜」の中

田房永子2015.02.03

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 報道の中の高橋ジョージが三船美佳に言ったとされる言葉。(以下「ジョージ」という呼称は、高橋ジョージではなく、「報道の中で“モラハラ”を疑われている男」という意味で使用させていただきます)

「お前は人間としての価値もない」「お前は俺のおかげで生きていられる」
 二つとも聞き覚えがある。私も20歳から26歳になるまで付き合っていた彼氏に毎日のように言われ続けていた。なんで“彼ら”って、同じフレーズを使うんだろう。


 このあいだ会った知人女性と、ジョージの話になった。知人女性も“モラハラ男”と付き合ったことがあって、「まったく同じことを言われた」と言う。「海外のモラハラに関する本にも同じセリフが出てくる。モラハラの人の言葉のセンスが万国共通ってことですよね」と話していた。
 モラハラは、「男から女」間だけのことではなくて、逆もあるし、上司と部下とか、親と子とかもある。つまり年齢も性別も国境も飛び越えて、“モラハラー”はだいたい同じ言葉を使っているのである。不思議すぎる。


 そして、対応もまったく同じだ。「夫婦げんかの延長と思っている」と言いながら、突然の災害に遭ったみたいな感じの表情だったジョージ。あの顔を見て私は、同棲していた元彼のことを思い出した。
「こんな関係で続けていくのはもう無理だから、部屋を借りて一人暮らししようと思う(いやなら態度を改めて欲しい)」と“勧告”しても、「永子ちゃんは俺と住んでるからやっと仕事ができてる。そんなダメな人間に不動産屋が部屋なんか貸してくれるわけがない」と笑うだけで焦ったりしなかった。


 私や私の友達のことを「低レベル」と言い、「高レベル」な俺と付き合ってるから、永子ちゃんは「高レベル」でいられる、と言っていた。ほんとにいつもそういう事を言うから、「その高いとか低いってなんなの?
恥ずかしいからやめなよ」と言っても、「だってそうじゃん」の一言で全部済ませてる。
 「だってそうじゃん」は、「だって事実じゃん」という意味である。主観は一切なく、俺はただ事実を伝えているだけ、というスタンスを徹底する。いろんな論理で言い負かそうとすると、「じゃあ、もっと稼いでみろよ」とか、急にこちらの人格にダメ出ししたり、弱点をついてきたりする。


 元彼は、ひどいことを言いたい放題言ってこちらが怒ったり泣いたりすると「うそだよ♪」と言う、というのもよくしてきた。自分のダメなところとか徹底的に言われてものすごくイヤな気持ちにされて、でも急に「うそだ」と告げられたら「えっ?うそってことは全部そうじゃないってこと?」と混乱してしまう。
 この場合のひどさは、「ひどいことを言う」ところではなくて、他人を使って「ひどいことを言う時の気持ちよさ」を一人で勝手に味わっているところである。他人にそこまで言う時は、覚悟を決めなきゃいけない。いたずらに人を傷つけて、「うそだよ」なんて言って引き上げるのはマナー違反である。


 私にも、弱みがたくさんあった。実家から出てきて、お金がなかった。別れる1年前に、別れを切り出したことがあった。だけど一人暮らしする決心がつかなくてまたヨリを戻した。
 せっかくヨリを戻すんだから、今度こそちゃんとした“対等な関係”でやり直したいと思い、私の気持ちを何度も伝えた。だけど「俺がそれに応える必要は無い」という態度が全く変わらなかった。でも長年付き合ったんだから、結婚するしか無いと思ってた。元彼が当時流行りだした「タワーマンション」を購入したいというので、毎週、建築中のタワーマンションを巡った。私はとても無気力で、自分が住む場所として考えるというよりも、彼の両親や彼が納得するマンションを探してた。途中で「耐震偽装問題」がニュースになり、マンション購入の話が立ち消えた。


 それから数ヶ月して、やっぱりどうにも無理だと思い、本格的に一人暮らしの部屋を探し、すぐに決めた。新聞を読んでいる元彼に「来週引っ越すから」と告げると、新聞がバババババッと音を出した。両手が震えていた。見ちゃいけないものを見た、と思って⁰思わず目をそらした。今までとことん、「永子ちゃんというお荷物を背負わされてる俺」という態度だったのに出て行かれたら困るのか?
一体なんなのか分からなかった。
 引っ越してから電話がしょっちゅうかかってきて「戻ってくるよね?」「もういいじゃん」「一時的な引っ越しなんでしょ?」「あんなに仲が良かったのに、なんで離れて住まなきゃいけないのか分からない」と言ってきて、意味が分からなかった。「うそだよ♪」と私が言うのを普通に待っていたのだろうか。
 2ヶ月後くらいにどうしても会いたいと言うので会った時、私の友達の話になったら「相変わらず低レベルなの?」とにこやかに言ってきて、ゾ~~~ッとしてしまった。今までずーっと、そういう会話に合わせて付き合っていた自分の7年間に、鳥肌が立った。


 彼らのような人は、「膜」の中で暮らしてるんだと思う。「膜」から絶対出てこない。「膜」の中のストーリーがあって、それに現実を合わさせようとする。そして、意外ともっと強大な「膜」にはスーッと入っていく能力も長けている。つまり誰か(たいていは権力のある者)の「膜」の中のストーリーを察知し、その通りの言動ができたりするところもあるように感じる。


 ジョージの「膜」の中のストーリーは、24歳下の妻がいつでも自分を尊敬するという形で尽くす、それしかない。それ以外の現実はいらない。必要が無い。登場人物である妻がストーリーと違う言動をすると「膜」が崩壊するので、相手の人格をぶっ壊してでも「膜」の中の住人で居させようとする。相手が傷ついているとかそんなことには興味が無い。一度でも相手の口から「好き」とか「あなたがいないとダメ」的なことが聞けたら、それのみを養分にして「膜」は強固に保たれ続ける。一番のポイントは、こういう状態であることに、本人の自覚がないところである。自覚によるジレンマがないからこそ、既に別居になってるのに「夫婦喧嘩の延長」とか言っちゃう。でもジョージは本当にそう思ってるから、言ってるだけ。だけど、どうやら周りの騒ぎ方を見ると違うんだなと気づく。でも「妻が俺を尊敬していて愛してる」という点は「膜」の軸なのでなかなか取り替えることはできない。そこで「膜」の中のストーリーを「婿・姑問題」に替えてみたりする。それでも周りのざわざわが収まらない、なんなんだ、俺は謎の世界に入り込んでしまったのか…?
みたいになっていく。
 ジョージ系の人の「膜」がいかに脆いかって、すごいよく分かる。結局、奥さんとか彼女、そのたった一人の女性の言動によってだけ、「膜」が守られてる。


 報道の中のジョージにより、いろいろなことが分かった。
 元彼の「お前は人間としての価値がない」という言葉は、「(俺の「膜」のストーリーを全うしない)お前は(俺の「膜」の中では)人間としての価値がない」っていう意味だったんだ。「低レベル」も「(俺の「膜」の中では)低レベル」だし、「だってそうじゃん」も「だって(俺の「膜」の中では)そうじゃん」だったんだ。「お前が生きているのは俺のおかげ」も、「お前が生きているのは俺のおかげ(俺の「膜」の中では)」の省略だった。彼らは省略がうますぎる。省略の仕方に殺傷性ありすぎる。
 だけど、彼らは省略してるだけ、なわけじゃない。つい省略しちゃった、わけじゃない。その「省略」にこそ、彼らの神髄がある。

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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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