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レジャー施設で寝るパパたち

田房永子2015.04.01

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 1歳から小学校低学年までのキッズ向けの遊具がたくさんあるスポットに子どもと行った。自分で漕いで動かす乗り物やアスレチックなどを楽しむキッズたちの横には、必ず親が張り付いている。ちょっとでも他の子と接触(乗り物同士が「コツン」と当たるレベル)しそうになると「コラ~! ちゃんと前見て!」と自分の子を叱り、他人の子どもに謝る。親が横に張り付いてない子でも、実はちょっと離れたところから親はしっかり監視しており、何かあればすぐさま飛んできたり声を出して制したりする。3人、4人の子どもがいる親は全ての子が見渡せる位置に立ち、キョロキョロしながら時たま「コラ~!」と叫び、とにかく忙しい。


 そんなきめ細やかな対応を、全ての親がこなす。パパもママも、みんなハツラツと監視にいそしんでいる。私もその空気の中に飛び込んで、珍しい乗り物に乗ってご満悦の我が子の笑顔を写真におさめたり、その成長をまぶしい気持ちで眺めたりしている。だが、心のどこかでは子どもを一人で遊ばせて、ベンチで本を読んだりスマホをいじって、時たま子どもに手を振って、ボケーっと過ごしたいな、とも思う。私にとっても休日だから。きっと心の中はそう思っているパパママはたくさんいるだろう。だけどここまで徹底した「親張り付きシステム」が暗黙の了解で実行されていると、とてもじゃないけどそんなことはできない。


 緊迫感あふれる遊具施設、そのど真ん中にあるベンチに横になって寝ている中年の男が二人いた。つまり2つのベンチが2人の中年男によって占拠されていた。一人のほうは子どもがまとわりついていたので、ほぼ確実にパパだろう。
 気づいた時、私は「お父さん、疲れちゃってるな」と瞬間的に思った。そんな自分に驚いた。私はいつも、ゴールデンウィークなどの大型連休明けのワイドショー番組で必ず流れる、「お疲れさまです、お父さん!」という特集が大嫌いで立腹しているからだ。空港や新幹線乗り場でぐったりとスーツケースに寄りかかっているお父さんたちを撮影し、「休日も家族サービス、ご苦労様です!」とねぎらうコーナー。
 「お母さん」にとってだって、旅行やレジャーは「家族サービス」なんじゃないだろうか? そのぐったりして動かなくなったお父さんの横で、子どもをあやしたり世話してるのはどこの誰なんだ。レジャーシーンになると必ず「普段から働きづめなのに休日までも家族に駆り出される父親のぐったり」が“微笑ましいもの”として讃えられる。お母さんだって普段、働き詰めなのに、お母さんのレジャーでのがんばりは当たり前のものとされる。一方、“男たち”は、旅先だろうが近所の公園だろうが、「疲れている俺」を隠さない。堂々と当たり前のように「ぐったり」を披露する。


 私は視線の8割を自分の子どもに向け、2割はベンチに寝る二人の中年男に注目することにした。小一時間経っても二人ともビクともしない。
 もしこれが中年男じゃなかったら。子ども向けの施設で、中年の女が小一時間もベンチで寝ていたら。まずその光景自体が異様すぎる。周りの人がそれを放ったらかして小一時間経つということがないんじゃないだろうか。体調不良を疑って心配し、「どこか具合が悪いんですか?」と声をかける人がいるはずだ。
 それに即座に「子どもはどうした?」という心配も浮かぶと思う。子どもが危険な目に遭うだろう、というのもある。そしてこれは私だけかもしれないが、心のどこかで「よくできるなあ」という、自分もしたいくせにできないひがみのような、蔑むような気持ちが、湧いてきそうだ。


 とにかく「ママ」が遊具施設のベンチなんかで小一時間も寝ることはない。寝たら周りがザワザワする。だけど「パパ」は寝ていても、「子どもはどこかでママが見てるんだろう」と、周りの人は無意識に思うようにできている。むしろ「着いてきたけど、疲れて寝ちゃったのね、いいお天気だものね。お疲れさま、パパさん☆」くらいのコメントが寄せられそうだ。横たわる中年男をチラ見しながら、気持ちがグルグルした。


 気付くと、二人の中年男のうち、子どもがまとわりついていた一人はどこかにいなくなっていた。一人はまだ寝ている。少し体の向きを変えたりして、心地いい体勢を探してやがる。きちんとした格好のアラフォーくらいの男性だった。しばらくすると男性は起き上がり、ボーッとしながら歩き出した。そのまま出口のほうへ歩いて行くので、「えっ? パパじゃなかったのか……近所の関係ない人がこんな子どもの声でうるさい施設にわざわざ入ってきてド真ん中で寝てたのか?!」と別の衝撃を受けた。すると小学2年生くらいの男児が男性に駆け寄り、そのまま子どもイス付き自転車に乗せて去って行った。「ママ」らしき人はいなかった。


 ぜんぜん、いいと思う、この男性がパパなのか叔父なのか伯父なのか分からないし、まあ、そういうこともあるんだろう。別に親が張り付いていなきゃいけないわけでもないし、小学2年くらいだったら一人で遊べるだろう、大人たちもたくさんいるし、施設のド真ん中で自分を連れてきてくれた大人が寝ていれば、子どもも安心するのかもしれない。もしかしたらシングルファザーで本当に心身が疲れ切っている場合もあるし。と思うのだけど、どうしても、ベンチでウトウトしてしまうことはあっても横になってガッツリ寝るシングルマザーがいるだろうか? と思った。(もしそういう状況であればママにはベンチでガッツリ寝て欲しい、とも思う)


 このあと、子持ちの男性3名にこの件について尋ねてみた。彼らはこういった施設では「張り付く」タイプの父親である。「その男性は、きっと甘えてるんだと思う」「こういう場所に子ども連れて、ちゃんと来てるボクちゃんアピール」「照れ隠しもあると思う。子どもに張り付いて世話なんて、やってらんねーよ、みたいな中学生男子みたいな感じ」と言っていた。


 私は他人の育児法を批判したいわけではない。ただただ、とにかくこういった行動は「女」には許されない、ということを、改めて感じた。「男」には、こういう行動をとることも許されている。「やってらんねーよ」と思うこと、そしてそれを表に出してしまえること、出すか出さないかは個人の違いだが、確実に女よりも許容されている。


 道ばたで、目をつり上げて子どもを叱るママがいる。スーパーマーケットで、ヒステリックさを隠しきれずに金きり声をあげてしまうママがいる。そういう行為をしているのは、パパよりもママが多い。それは、パパよりママのほうが子どもといる時間が長い、ということよりもこの「やってらんねーよ」と思うことに対しての罪悪感、そのあたりがとても影響しているんじゃないかと思った。

 

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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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